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防衛省が費用わずか11万円で実現した世界初の「球形飛行体」

text by : 編集部
photo   : shutterstock.com

(注)この記事は2013年10月11日にastamuse「技術コラム」に掲載された内容を再構成したものです。

 

球形飛行体というとまず思い浮かぶのは、SF映画などに登場する高性能カメラや各種センサ等を搭載した無人偵察ロボットだ。それが実現できれば、災害や事故による被害状況の把握や救難支援、また、テロに備えての各種情報収集と活躍が期待される。

無人偵察ロボットとしての球形飛行体には、次のような一連の動作を実現するための機能が求められている。

・狭い場所からの垂直離陸

・翼を用いた高速巡航飛行で進出

・目的地の上空にてカメラやセンサ等による情報収集のため滞空またはホバリング(空中で停止している状態)

・長時間の情報収集のため目的地周辺に着地

・さらに詳細情報を取得するため地上を転がって移動

・障害物を乗り越える

・任務達成後に垂直浮上して再離陸

・高速巡航飛行にて帰投

・風により垂直着陸が難しい場合は滑走着陸

しかし現在、世界の航空機の中で、このようにフレキシブルで多彩な機能を持つ機材は存在しない。ただ、限定された条件の中で、垂直離着陸可能な軍用機(テイルシッター型VTOL機:離着陸時に機首を上方へ向け直立するような機構の航空機)は存在した。だがこれらの機種では、着陸に際して強風の中でも空中で直立させる必要があること、接地前後の姿勢制御が困難であること、さらに、進出先で着陸失敗などにより倒れると、もはや再離陸は不可能などという問題がある。

そこで、防衛省技術研究本部・先進技術推進センターの技官・佐藤文幸氏は、テイルシッター型機の外形を、球形の骨組みの殻で囲んだ構造を持つ、世界初となる「球形飛行機」を考案した。現在、佐藤氏手作りの試作7号機(直径42㎝、重量350g)による実証試験を行っている。材料はカーボン、スチレン、ペットボトル等の身近なものを用い、リチウムポリマー二次電池(11.1V、850mA)と小型カメラを搭載している。 最大速度60㎞/h、ホバリングによる飛行時間は8分という記録。 驚くべきことに、試作費用はわずか11万円という。

実用化への課題として、自律機能を含む遠隔操縦システム、水・乱流・気候変動・経年劣化などに対する耐環境性能、コストコントロール、機体規模とペイロード(積載物重量)の関係などがあり、今後これらの課題に取り組み、活躍シーンの拡張を図るという。デジタルコンテンツEXPO2011で公開されたデモ飛行を収めた動画では、屋内でのリモコン操作により、浮き上がるように離陸し、飛行、旋回、ホバリング、着地したのち、地上を「転がって移動」する様子や、球体飛行体に搭載されたカメラによる周囲の撮影画像が見られる。

(動画)防衛省技術研究本部が開発した球形飛行体

球形飛行体

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