Interview

発達障がいの子供が【好きなこと】で自信や可能性を手にする。その先にある「学びのCtoCサービス」 ー 株式会社WOODY 中里祐次

text by : 編集部
photo   : 編集部,株式会社WOODY

教育×テクノロジーの「Edtech領域」、様々な「オンラインマッチングサービス」
この2つに、更に社会課題への取り組みを融合したサービスを展開する株式会社WOODY
「発達障がい児の好きなことを伸ばす環境を作りたい」をテーマに、今年6月には乙武洋匡氏やANRI、フリークアウト代表佐藤裕介氏からの資金調達も発表した。
学力向上やスキルの習得とは異なる、教育の可能性やあり方も含め代表の中里さんに伺いました。


■発達障がいの子供を「好きな事を伸ばす」形で支援する


―現在展開されている2つのサービス、BranchRootsの概要を教えてください。

僕らの事業ビジョンは「好きで自信を作り、好きで社会とつながる」というものです。
元々自分の子供が発達障がいだったということもきっかけとなり、発達障がいの子供向けのサービスを展開しています。

Branchは「発達障がいのお子さんが得意なもの・好きなものをより伸ばす」というマッチングサービスとして、2016年9月に事前登録開始、今年1月に正式リリースしました。
当初は「お子さんのご家庭に訪問する」という形式をとっていましたが、地方でも利用したいとの声を頂き、2月からはビデオチャットでも同様のサービスを提供できるようにしました。

数学や原子記号が大好き、というようなお子さんにその分野が得意なお兄さん/お姉さん(大学生がメイン)をマッチングする、というものです。更にその後保護者の方から「地方では情報が不足している」という要望をきっかけに、東京都内にいる療育のプロの方と、地方在住の保護者をビデオチャットで繋ぐというものも始めています。

訪問・ビデオチャットは「1対1」のマッチングですので、今日お越し頂いているこの場所を「複数人のお子さんが対象となる教室」としてテスト的に運用し始めています。これが現在クラウドファンディングも実施中の「Roots」です。

 

―子供に教える側の方に気をつけてもらっていることはありますか?

「上から目線で教える」というスタンスではなく、対等な関係でお子さんが興味ある話から対話を進める、という点です。
好きなことを通じて最初は自信や自己肯定力を抱いてもらうのが大事ですから、例えば生物が大好きで少しコミュニケーションが得意じゃない子がいた場合、まずは一緒に図鑑を見て好きな話題について同じ目線で話し合える空気になってもらうという形です。

また講師役とは別で、「ドキュメンター」という子供がどんな行動をとったのかを記述する担当者が必ずついている点が特色です。
子供がどういう行動をとり、何に興味を持ち他に興味を持っていそうなものの仮説などを書き出し、親にフィードバックする仕組みです。
親目線ではなく、あくまで第三者目線で子供の可能性を親へと伝える仕組みです。

 

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Branchでは、発達障がい児と学生や専門家をマッチングさせるが、その切り口は「化学」「生物」といった学問的なものから、「折り紙」「料理」など多岐にわたる。

 


■クラウドファンディング、投資家との対話。サービスを通じて得たヒントや課題


―Branch、Roots共に立ち上げ時点でクラウドファンディングを活用している印象を受けました。

クラウドファンディングを実施した理由は、マーケティング・PRの観点ですね。
こうした発達障がいをテーマにしたサービスは、共感して頂き少額でもいいのでお金を出す方が多くいる、という形が合っているのではと考えました。

クラウドファンディングに限りませんが、実際に発信してみると「都会に比べて地方では発達障がいの子供のための施設やサービスが不足している」といった様々な「親の悩み」が明確になるような反響を頂きました、サービス自体はあくまで「子供を対象」としてスタートしていますが、こうした発見はサービスの進め方のヒントになると思います。

 

―他に、何かサービスを進める上でヒントを発見したエピソードがあれば教えてください。

このBranchは会社として3つ目のサービスですが、元々は会社に投資して頂いた佐俣アンリさんとのブレストから始まったものです。
事業アイデアというより「うちの子供、レゴが好きで東大レゴ部の方に会った時凄く喜んでいたんです」という世間話をしていたら、「中里さん、そういうことを事業にしたほうがいいのでは?」と言われました。

正直、僕一人で事業アイデアを練っていたらこのサービス自体始めていなかったかもしれません、そういう点では非常に大きな発見だったと思います。
サービス開始後も、投資家、個人の方、サービスの理念に共感する方から連絡を頂くことが多いので、関心を持って頂いた企業の方とのブレストはいまも継続しています。

 

―特にこういう方に関心を持ってほしい。という方はいますか

まず思いついたのは、僕らと一緒に子供向けのプログラムを作成する、エンジニアとして協力してくれる仲間、いわゆる人材面です。
あとは、今後寄付や助成制度などでの資金集めも考えていますので、BtoBで何か一緒にやりたい、CSRの予算をこうした発達障がいのお子さんなどへのサポートに投じたいという企業の方とはぜひお話ししたいです。

 

―発達障がいの子供を支援する取り組み全体をみて感じる課題はありますか
発達障がいに関するサービスにおける、公費の認定制度です。
認定されれば国や自治体から公費が出るので、月額5万円のサービスであっても国が9割負担し親の負担額は実質5千円で済む、但し公費認定されるには色々な基準があり、僕らが提供しているネットサービス・ビデオチャット等は現状基準から外れています。

僕らのサービスが8千円だとしても、元々5万円のサービスに比べて親にとっては高額に感じる。
となると、事業を始める際に「公費に認定されること」を前提とする風潮があるので、僕らのようにネットやオンラインを活用した事業が出てきづらい、というのはあると思います。
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代官山にあるRootsには、自分の意思や考えを言葉で伝えるのが苦手なお子さんのために、意思疎通をサポートするツールが用意されており、学校では出来ない手法で子供の可能性を引き出す工夫が見て取れる。

 

 


■今後のイメージは「学びのCtoC」、学校とは違う何かを学ぶきっかけ作り


―今後考えている事業展開は?
まず年内もしくは来年3月をめどに黒字化を視野に入れつつ、3~4年は必要な資金を増資や寄付、クラウドファンディングで集め、実際の提供プログラムの内容などを磨き上げていくという事を考えています。
その中で「ここで一気にアクセルを踏もう」と決断できるビジネスモデルを作り出したいです。

事業をスケールさせるために現在のBranchを大きくした形を模索しています。
知人のゲームプログラマーが、ずっと仕事のプログラミングをやり続けるのではなく、子供に教える場として自分の住むマンションの子供たちに教室のようなものを開いているのですが、こういうものをもっとオープンにプラットフォーム化したいと考えています。

イメージとしては「学びのCtoCサービス」
自分のスキルを人に教えたいと思っている側と、教わりたい側を結ぶ、AirBnBのような形です。

 

―「ご近所」というローカルで閉じず、Branchがそこを結ぶ

そうですね。大人同士で教えるCtoCサービスはあるのですが、子供に教えることを対象としたものはまだ少ない。
既に僕らのサービスでも「東京と鹿児島に元素記号が大好きな子がいる」というのはデータ上わかっているのに、その子同士を引き合わせられていませんから、サービスを大きくする過程の中でそういったことが実現できるようにしたいですね。

サービスを始める際にも100人くらい発達障がいの子供を持つ親御さんにインタビューしましたが、子供が何かを好きになったきっかけは生物であれば近所に魚を大好きなおじさんがいたとか、本当にちょっとしたことが影響しているケースが多く、そのきっかけを繋げられたらいいなと考えています。

他には、いま療育士と保護者の方のビデオチャットサービスを展開していますが、療育士と相談したい親が参加するオンラインサロンをプレオープンさせました。親同士は話題や悩みも共通しますので、接点を持つきっかけの提供はやっていこうと思います。

こうした取り組みを進めつつ、2~3年後に大きくアクセルを踏むイメージでいます。
先ほどのCtoCなのか、また違ったものになるかわかりませんが、その時点でキャッシュが蓄えられていればそれを投資し、足りなければ資金調達すると思います。

 

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Rootsでの9月に予定されているワークショップでは、プログラミングやロボット、アート×サイエンスなど幅広いテーマが用意されている。

 


■マイナスをゼロに近づけるのではなく、親が「学校で役に立つか」を考え過ぎないことが大切


―発達障がいの子供たちを取り巻く社会問題に対してのアプローチについては

現状、「マイナスをなるべく±0に近づけましょう」というサービスが大半です。
社会に溶け込めません、授業が苦手、そこを解決するためのサービス。

僕らは根本的にはお子さんが好きなことを突き詰めつつ、お子さんも保護者の方も世の中の空気を読み過ぎず、好きなことをやり続けていいという空気作りが大事というスタンスです。

発達障がい児の多くがWISCというIQテストのようなものを受けますが、テスト結果の中で劣っている部分では無く、伸びているものに注目する。
うちのサービスを使って頂いている中にもスペシャリストと言うか、小学生で微分・積分を解いたり、図鑑50冊暗記している子供もいます。

「1万時間の法則」のような、バランスよく出来ないことがあるからこそ、好きな事・集中できることに打ち込んで何かのプロフェッショナルになる機会を提供したいなと思います。


―その際に注意すべきことはありますか

「親フィルター」と呼んでいるのですが、親が「できれば学業に繋がるものを」と望み過ぎてしまう事です。

例えば先ほどの微分積分、図鑑の暗記など学問に通じそうなものは親も認識しやすいですが、例えば天気や雲が好きという場合に親が気づけない、これを伸ばそうとならない。
すると子供も親の空気を読んで興味を持つことをやめてしまったりする。

発達障がいの子に限らず、子供は大抵何か好きなものがあります。
学業と関係がなさそうなものでもそれを見つけて、子供自身が好きなだけ打ち込んでもらうのが大事だと思います。

一応、最初に親御さんに子供がどういったものに興味を持っているかヒアリングしますが、その候補の中に無いものに集中しているケースもあります。

それが天気予報なら、親に「天気予報に興味がありそうです」と伝えることが大事です。親ウケのいい能力かどうか考えすぎない。子供の性格によっては「親が喜んでいるか」を凄く気にする子もいますからね。

 

―発達障がい児だけでなく、子育てや人材育成にも繋がりそうな話だと感じました。

事業ビジョンの「好きで自信を作り、好きで社会とつながる」というのは、実は広く一般的に大事だと思っています。

子供だけではなく、会社でのマネジメントや仕事においても大事だと思っていて。
それができない理由として、世の中は空気を読み過ぎすぎでは?と思っている部分があります。
子供がちょっと変なものが好きだとして、それを丸々認めてあげる。

会社の中でも苦手なとこばっかり見て潰してしまうのではなく、「あの人はこういうところが得意だな」という形でマイナス面ではなくプラス面を尊重する社会にしていきたいというのが、根本にあります。

 


プロフィール
株式会社WOODY 代表取締役
中里祐次
2007年、早稲田大学卒業後、㈱サイバーエージェント入社。子会社の㈱サイバー・バズにて広告クリエイティブのディレクションを担当し東京インタラクティブ・アド・アワード受賞。広告プランニング/商品開発経験後、子会社の㈱プーペガール取締役に就任。その後Amebaにて、ソーシャルゲームのスマートフォン対応、プラットフォームのオープン化担当、プロジェクト責任者などを経て独立。
2013年11月にWOODYを創業。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)