2017.06.12 MON SenSprout 宮元直也さん「土壌用センサーを世界中に設置し“農業の見える化”が当たり前の世界を創る」
text by : | 編集部 |
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photo : | 編集部 |
2015年に発表され、海外のクラウドファンディングや世界中のメディアで大きな反響を得たSenSproutは、2年経過した2017年4月、新たな一歩を踏み出した。
「SenSprout Pro」と、明らかに「プロユース」を明確に打ち出したこの製品は、積み重ねてきた研究の成果を世界中の農作物生産の現場が求め、水資源の課題を解決するために誕生した製品と言える。
会社設立当初から関わり、SenSproutProの研究と開発のキーマンでもある宮元直也さんにお話を伺いました。
■2年の研究を経て、農業関係者のニーズに応えたSenSproutPro
―今年の4月にSenSproutProを発売開始しました。デザインも価格帯も従来のものとかなり変わりましたが、このタイミングで発表された経緯を教えてください。
元々2015年にコンシューマー向け・ガーデニング向けのSenSproutをリリースしたのですが、それからも東大の研究室で今回発表したPro版にあたるものを並行して進めていました。
2年経過して、形になってきたなということで4月に発売させて頂いたという流れです。
―今回のSenSproutProは農業関係者、研究者向けとのことですが、具体的にどのあたりが違うのでしょうか?
しっかりと農業を営んでいる方が実用的に使えるもの、を目指していくつか大きな変更点があります。
まず、土壌の水分を計測するセンサー部分ですが、従来のものは設置した場所の一定の深さしか計測できませんでした。
今回のProでは、深さごとの水分量の計測が可能です。
―どの場所で計測するかだけじゃなくて、深さごとの水分量の違いが大事なんですか
はい、以前から深さごとに計測したいという声を生産者の方から頂いていました。
土壌表面の乾き具合と、根の部分に影響のある深い場所の保水状況、これを別々で把握したいと。
センサー部分の電極を増やせば、10cm・20cmだけではなくもっと深いところまで計測できるカスタマイズ性も持たせました。
―農業の現場で使う場合、耐久性も重要そうですね
そうですねこのセンサーの部分、土に刺さるところはどうしても壊れます。
センサー部分はプリンテッド・エレクトロニクスという印刷可能な回路を採用し非常に安価なので、このセンサー部分と上部の通信機器の役割を果たす部分とを着脱可能にして、センサー単体で交換できるようにしました。
あと、広大な農地で使うためには通信性能も重要で、Blutooth通信では信号も弱く範囲も狭いため、今回のProでは強い信号で通信し広大な農地でも使えるよう配慮しました。
―作物によってデータの活用方法に違いはあるんですか?
ありますね、そもそも作物ごとに土の状態も違いますし、水分の与え方も変わります。
例えばトマトやミカン農家だと「あえて水をあげずに、作物にストレスをかけることで甘くする」という育て方をします。ストレスをかけ過ぎずギリギリのタイミングで水分を与える、また急激に大量の水分を与えると実が割れてしまう。
こういった繊細な部分、点滴で一滴一滴水を与えるといった微妙なコントロールに使用します。
作物によって、「水を与えるマネジメント手法」はかなり違ってきますね。
■徐々に拡がる「農業を見える化して品質管理する」考え方
―このセンサー部分は、東大 川原教授のプリンテッド・エレクトロニクスの技術を使用していますが、これを農作物のセンサーに使った理由は?
そうですね、川原先生の研究室自体はいわゆる「ユビキタスコンピューティング」や「IoT」の領域で、とにかく安価なセンサーでデータを集めてくる。という最近流行りの分野をやっていました。
実用化、応用先を考えたとき、川原先生の中で海外では特に深刻な「水問題」に対する意識が強く、当時の農作物用のセンサーは非常に高価でなかなか普及していなかったという背景もあり、「印刷技術で安価にセンサーが作れる」という点との相性が良さそうだ。となったんです。
―でも農作物となれば農業や土壌の研究も必要ですよね。
当時SenSproutを創業したタイミングと同時に、農学部と一緒に実践的な研究がスタートしました。
僕はその研究と会社の両方に関わって、当時研究段階だったプロトタイプを社会実装できるレベルに開発する担当となり、先ほどの2年経って成果が出てきた。SenSproutProを出せる、という段階でSenSproutの専任になりました。
―SenSproutは、2年前に発表された時もクラウドファンディングや海外のメディアでかなり話題になった印象があります。
そうですね、当時から僕も関わっていましたが「センサーをプリンターで印刷可能」「コストが安い」「人手不足・後継者不足の農業」「水問題における計測技術」と、コンセプトがしっかりしていたので、非常に多くの方々から反響を頂きました。
―一方で、農業の世界には新しい技術や手法に対する拒否反応もありそうな気がするのですが。
そういう方も中にはいます。ITの知見が無い方、土壌の水分量を計測して管理するという「データ化して改善していこう」という発想自体が今まであまりありませんでしたので。
長年のノウハウ、勘と経験に基づいて大きな問題が無ければいいよね、という方にとっては農業を工業的に考え、見える化して品質管理するという考えは新しく感じるのかもしれません。
―それは、SenSproutのリリースからこの2年で変わってきたと感じますか?
ある種のブームみたいなものがあるのか、特に若い就農者の方にはよく声をかけて頂くようになりました。
なかでも、大きな農業生産法人を運営されていると広大な農場の生産性を上げたいという考えをもってらっしゃるので、スムーズに話が進みますしいまご協力頂いてる方はそういった傾向があると思います。
―海外だとどうなんでしょうか、過去にはインド工科大学との共同プロジェクトを発表されてましたよね。
海外ですと、農家の方よりも研究者の方とのやりとりがメインなんですが、やはり課題意識を持っているので話がスムーズに進みます。
農家の方は、インドの研究者の方経由でお話を聞く限り、よりコスト面に対するニーズがシビアなのでもっと安価なセンサーを望む声もあるようですね。
※最初にリリースされたSenSproutの動画。個人利用を想定し、デザインも使用方法もシンプルな作り。
この製品の発売後も、水面下では農業の現場で使用できるSenSproutProの研究が進んでいた。
■国内外の先進的なパートナーと取り組む「水問題」への挑戦
―技術の世界では、日本と海外で研究のトレンドや趨勢に違いがありますが、「農作物のセンシング」という分野ではどういった状況なんでしょうか。
正直あまり意識したことが無いです。
というのも、SenSproutは国内でもトップクラスの方々が集結したチームで構成されていて、印刷可能なセンサー回路の川原先生は工学系の第一人者ですし、農学についても東大の溝口研究室という土壌物理の領域では世界でもトップクラスの方にご協力頂いてます。あまり日本だから海外だからどうだ、という意識は無いです。
ただ水の管理、水問題をIoTで解決しようという意識は、例えばイスラエルなど水自体が貴重な地域では非常に高くて、センサーもそうですが設備、全体のシステム、全方位的に水を節約しながら砂漠のような場所でも作物栽培を実現させる技術全般が凄いです。
また、オランダのように昔から施設園芸の分野で強い国もあります。少ない国土でなるべく多くの作物を収穫するという意識が高いので、海外で一括りではなく強い地域が色々と点在しています。
―SenSproutの導入が特に進んでる地域はどのあたりなんでしょうか
2年前から実証実験はずっと続けていまして、その延長線上で既に400本くらいのセンサーが全国各地に実装されています。新しくリリースしたProのほうも100本弱くらいが導入予定です。
中でも、熊本にある果実堂というベビーリーフを生産する会社さんは凄く先進的な考えを持たれていて、
ビニールハウスを何100棟と保有し、少人数で狭いスペースでも多くの生産量を実現していて収穫のサイクルも徹底的に速くしている。こうした方々とは特に意欲的に取り組みを進めています。
―元々生産管理、品質管理の意識が高いんですね
はい、生産管理する上で必要なデータ計測をしようという意識が高いです。
研究所も保有していて、水分量の計測をなるべく定量化しようと。例えば作物を手で握ったときに徐々に元の形に戻る、その様子を写真に残して「ちょうどいい水分量」のデータを後進の方に残すといったことをされています。
水分は、非常にランダム性が高くて土の種類や状態、時系列的によってもかなり変わります。
そういった検証を科学的に追及して、少人数のまま収穫量をどんどん増やしたり、大手のスーパーに卸したりしています。
―逆にセンサーへの機能要求も厳しそうですね
それはありますが、私たちも色々と未知な領域が多いのでそういった点もご理解頂きつつ、一緒に取り組みが出来ているので、非常にありがたいです。
―この安価なセンサープリンテッド・テクノロジーは色々な用途に使えそうですけど、作物のための水分センサーは国内外かなりニーズがあるんですね。
はい、現時点では農業以外の展開はあまり考えていません。
短期的には、先ほどのような生産管理、農作物生産を工業的なアプローチで考えている方々に導入して頂き、SenSproutを通じて効率化のお手伝いをすることが第一です。
そのさらに先では、やはり水問題、水資源の有効活用という大きな課題に向かいたいです。
日本国内にいるとあまり感じませんが、海外では非常に深刻な問題ですので、その解決に大きく貢献出来たらいいなと思っています。
■SenSproutを通じて、研究成果を社会に提供できる喜びを感じる。
―宮元さんがSenSproutに立ち上げ時から関わった経緯は?
大学に居た時は別の研究室にいまして、当時から川原先生の技術自体に凄く興味があったんです。
実は、大学を出たあとに一度電機メーカーに勤めたことがありまして、その後やりたいことがあって川原先生にお話をしに伺い、そこから川原先生のプロジェクト所属の研究員と兼任でSenSproutに関わるようになりました。
―一度就職しているんですね
ええ、以前から「社会に必要な研究成果を社会実装したい」と考えていました。
研究を続けて学会で評価されても、研究成果が社会に実装されていく感覚が持てずに、企業に就職したのですが、メーカーでの仕事も必ずしも全てが「新しい技術を社会に提供する」ものではありませんでした。
川原先生のプロジェクトと兼任でSenSproutに関わった2年間は、研究プロセスでの試行錯誤と実用化・製品化のための開発の両方に携われたので、そういうポジションでやらせて頂いて感謝しています。
開発、エンジニアリング担当はインターンや外部の協力者の方もいるのですが、社員では僕1人なので、センサー側の開発、回路設計、ファームウェアの設計や、社外の方とのやりとりなど全般担当しています。
―SenSproutで一緒に働きたい人のイメージは?
僕の知人にもいるのですが、新しいものを作るのが好きだけど、いま就職してあまりそういう仕事に関われていない人ですかね。
そういう人にはSenSproutの事を知って「こういう世界もあるんだよ」と伝えたいです。
―宮元さんが個人的に、この2年間で印象的だった出来事はありますか
やはり、先日4月20日にSenSprout proをリリースした事です。
農家さんから数多くの反響を頂き、早速注文して使い始める方がどんどん増えたんです。
こつこつと研究と開発を地道に積み上げて、新しいものをやっと世の中に出せた。
それがみんなに受け入れられ、欲しいと言われる。
これは、先ほどの話と重なりますが研究成果を学会で発表して専門家に評価されるのとはまた違った経験です。世の中が反応した、社会が求めているんだ、という感覚は凄く印象的でした。
―将来的なビジョンは
世界中の農地やビニールハウスに、センサーを多く設置して、全てのデータを収集したいです。
パッと数字で言えないのですが、1事業者さんが1000個くらい導入して、計測したデータを元に、水の調整や栽培手法を管理している農地が世界中にある。そういう世界です。
いまは使う人と使わない人が分かれた状態ですが、農業の世界では長年の経験をもった後継者が不足するとか、データで可視化することの価値は物凄く大きいはずなんです。
ですから世界中の農業従事者が誰でもセンサーを使っていて、計測データをみて栽培するのが常識という世界にしたいです。
宮元 直也 株式会社SenSprout Engineer
東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム専攻にて計測信号処理やセンサネットワークについて研究し2014年3月に修了。
その後、総合電機メーカーに入社し、発電設備の電気設計・制御系設計に携わる。
2015から株式会社SenSproutに参画し、回路やファームウェアの設計・開発を担当
インタビュー:波多野 智也(アスタミューゼ株式会社)
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