2018.08.30 THU 遠隔で学校、職場に通える分身ロボット「OriHime」――株式会社オリィ研究所 結城明姫
text by : | 編集部 |
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photo : | 編集部,オリィ研究所 |
もしも自分の分身があったら――。そんな子どもの頃に多くの人が想像しただろう夢物語を実現化している会社があります。株式会社オリィ研究所の代表・吉藤健太朗氏は体が弱く学校に行けなかった自らの経験から、孤独を解消する分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」の開発に着手。入院時でも分身ロボットが代わりに登校してくれたり、在宅しながら会社に出勤したりと、さまざまな場で活用され始めています。
人間の身体を再定義し、教育、難病、働き方など各方面でイノベーションを起こす可能性がある同プロダクト。オリィ研究所の共同創業者・COOの結城明姫氏にお話を伺いました。
「OriHime」で遠隔で通学や通勤が可能に
――「OriHime」についてお聞かせください。
結城:分身ロボット「OriHime」はPCやiPad、スマートフォンで簡単に遠隔操作をすることができるコミュニケーションロボットです。カメラ・マイク・スピーカーが搭載されており、学校や会社など行きたい場所に設置することで、その場にその人がいるかのように会話をすることができます。
――どのような場面で利用されているのでしょうか。
結城:病院に入院していて学校に行けない子どもが、登校するために、自分の分身として利用するなど、教育の現場で活躍しています。特別支援学校など、入院する生徒が多い学校で、「OriHime」を導入いただいています。
また、ALS(筋萎縮性側索硬化症)のように、体が不自由になり目線のみが動かせる難病患者に向けては、目線だけで操作できる意思伝達装置「OriHime eye」と「OriHime」を併用し、自分の意思を表現するツールとしても利用いただいています。「OriHime eye」は単体での使用もでき、例えば文字を入力して読み上げたり、絵を描くことができるインターフェイスとしてもお使いいただけます。
そして最後にテレワークの分野。学校に通えるようになり、家族とも話せるようになると、次に人間の欲求は「働く」ということに向きます。「OriHime Biz」では会社に「OriHime」を設置することで、障害者の分身が出社し、オフィスワークをすることができる環境を提供しています。ひいては障害者に限らず、子育て中のママや家族の介護で出勤できない人など、なんらかの理由でオフィスに行くことができない人がテレワークをするためにも利用いただけます。
「孤独をなくしたい」創業者の原体験から生まれたプロダクト
――結城さんが「OriHime」のプロジェクトに参画したきっかけは?
結城:代表の吉藤と知り合ったのは高校1年生のときです。2006年に朝日新聞が主催するJSECという科学技術コンテストで、私は文部科学大臣賞を受賞することができたのですが、その時に歴代受賞者として祝辞を述べてくれたのが吉藤でした。
JSECの上位入賞者のうち選抜されたメンバーは米国で開催されるISEFという科学技術フェアの出場資格を与えられるのですが、私は優勝したにも関わらず、結核を患い、入院しなくてはならなくなったので、出場することが叶いませんでした。その悔しさをバネに翌年もJSECに出場し、結果的にはISEFにも参加することができたのですが、2度もJSECに関わったおかげでOBである吉藤とも話をする機会が多くなりました。
吉藤自身、子どもの頃から入退院を繰り返し、孤独を感じていたようで、「孤独という問題を解決したい。そのために自分の分身がほしい」というコンセプトを吉藤から聞いたんです。確かにそんなロボットがあれば、私が結核になった時も学校に行けたし、ISEFにも出場できていたかもしれない。これは過去の私が欲しかったものだと感じました。そしてJSECのOBや吉藤の大学の友人を中心に高校生・大学生の自主プロジェクトが立ち上がったのが「OriHime」のはじまりです。
――高校生の時からプロジェクトが立ち上がり、現在に至るまでどのようなプロセスを経たのでしょうか。
結城:2009年に最初のプロトタイプが完成しました。そのときの「OriHime」は今よりも大きく、多関節なロボットでした。すぐにでも患者さんに利用して欲しかったのですが、多関節であるがゆえに操作も難しく、また倒れたり落ちたりすると危ないなど、実用化には高いハードルがありました。そこで、今の「OriHime」のように、小さく、首だけが動くバージョンを完成させ、利用者の方からのフィードバックをいただきながら、少しずつアップデートを繰り返していきました。
そして2012年に法人化したのですが、それからもしばらくは投資や助成金をいただきながら、開発とテストを繰り返す日々で、ビジネス活動はほとんど行っていませんでした。2016年にようやく「OriHime」を量産し、月額レンタルでの提供を始め、現在に至ります。
チャットではできない、新しいコミュニケーション
――日本全体で働き方改革が推進されています。テレワークの需要は今後増えていくのでは。
結城:はい、現在はNTT東日本などの企業で大規模に導入いただいています。テレワークの需要は年々増えているのですが、従来の在宅勤務制度は「社内での密なコミュニケーションが必要」「労務管理ができない」「日常会話レベルでのコミュニケーションが取りづらい」 などの課題を抱える企業も多くありました。
実際に導入企業からは、「テレワークをチャットベースで行っていると、仕事をつくって投げるというような関わり方になってしまっていたのが、在宅勤務者が周囲の様子を見て困っている人を助けるというようなアシスタント的な動きもできるようになった」という声をいただいています。その他にも、「ロボットがあることで、存在感があるため、コミュニケーションがとりやすい」という声なども。まさにオフィスにいるような感覚だと言っていただいています。
――確かに電話やチャットではなく、声掛けをしておきたいというようなレベルのコミュニケーションも社内には存在しますよね。
結城:弊社内でも「OriHime」を利用していますが、例えば電話だと相手の仕事を中断してしまうかもしれないという懸念がありますし、チャットだときちんとそれを相手が見ているかがわからないということもあります。そんな時にオフィスであれば「チャットで送ったから見ておいてね」と声をかけることができます。「OriHime」は俯瞰でオフィスを見回すことができるので、相手のタイミングを見て話しかけることができます。3人いて1人が暇そうだと思ったら、その相手にオフィスにいるような感覚で会話もできるので、社内でも重宝しています。
テレワークだけでなく、例えば管理職の方がオフィスになかなかいられないので、オリヒメで社員とコミュニケーションをとるという使われ方もしているようです。
コミュニケーションテクノロジーの未来をつくる
――今後の展望についてお聞かせください。
結城:現在、2つの大きなプロジェクトが進行しています。1つは小型のOriHimeを開発するプロジェクトです。「OriHime」は設置型で持ち運びに適していなかったのに対して、小型のOriHimeはハンズフリーで持ち運ぶことができ、いずれはWi-Fiや電源も内蔵させる予定です。
例えば、通訳をしたい足の不自由な方が、旅行に来た外国人を小型OriHimeを使ってサポートするなど、身体機能をシェアすることで、お互いがこれまでにできなかった新しい体験が可能になります。
また、簡単な肉体労働をすることができる、全長約120cmの新型分身ロボット「OriHime-D」の開発もしています。これまでテレワークで障害者の方が仕事をできているのは知的労働に限られました。しかし、世の中には受付案内や掃除、接客など体が動くからこそできる職業があります。接客業をしたいのに体が動かないから諦めている方もいらっしゃいます。
そんな時に、「OriHime-D」であれば、カフェの店員ができたり、秘書としてお客様を案内できたりなどオフィスワークに限られない業務につくことができます。
将来的には「OriHime-D」が会社で受付やお茶出しをしてくれたり、名刺交換ができたりという未来をつくりたいと考えています。労働人口が減少していく日本では一億総活躍と謳われていますが、一方で障害者の中には自分の持つ能力を十分に活かしきれていない方も多くいらっしゃいます。「OriHime-D」はそのギャップを埋めるものにしていければと思います。
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