2018.08.27 MON 「Maker Faire Tokyo 2018」イベントレポート Vol.2 | パネルディスカッション「MakersからはじまるInnovation」
text by : | 編集部 |
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photo : | 編集部 |
2018年8月4〜5日の2日間で開催された「Maker Faire Tokyo 2018」。前回紹介した展示作品のほか、会期中には会場内に設けられたメインステージやライブステージでさまざまなイベントプログラムも行われました。
初日、会場のセンターステージ(西2ホール)で行われたのは、パソナキャリアが主催するプレゼンテーション「MakersからはじまるInnovation」。慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 特任助教の広瀬毅(つよし)氏による講演(第1部)、エレファンテックの代表取締役社長 清水信哉氏、マクニカ Mpression推進部 部長の米内(よない)慶太氏をゲストに迎えたパネルディスカッション(第2部)、2つのプログラムの様子をお伝えします。
イノベーションとイノベーティブの違いとは?
プレゼンテーションのファシリテーターは、イベントを主催するパソナキャリアのEMC統括部長・宮本千聡(ちさと)氏。パソナキャリアは「エンジニアの未来をいっしょにつくる」とのメッセージを発信するとともに、製造業に精通した同社アドバイザーによるキャリア支援に注力しています。それを背景に、宮本氏はイベント冒頭のシーンで次のように挨拶をしました。
「当社は、Makers——製造業で働く方がいきいきと自分が輝ける環境を主体的に選んでいける社会を実現したいと考えています。その第1弾として『MakersからはじまるInnovation』と題し、このイベントを企画しました」
そしてイベントの第1部に登壇したのは、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(以下、慶應SDM)特任助教の広瀬毅氏です。システム力・デザイン力・マネジメント力を身につける実践的学問体系を施し、かつ「文理融合型の人材育成をする」をミッションとして掲げる慶應SDMにて、2016年3月、広瀬氏は「システムズエンジニアリング」の学位を修了しました。
「(慶應SDMでは)システム思考とデザイン思考をハイブリットで使いこなし、イノベーティブにものごとを考えるよう教えられてきた」と言う広瀬さん。簡単にできるフィットネス「ちょこちょこフィットネスデザイン」というコンセプトのものづくりも行ってきたMakerでもあり、かねてからMFTにも出展者として参加してきました。慶應SDMを終了した翌17年3月には、データ分析・戦略立案を行うマーケティング会社・合同会社JudgePlusを設立。同年中にはSDMの特任助教にも就任しています。
そんな広瀬氏は「イノベーションとイノベーティブの違い」について、次のように説明します。
「ヨーゼフ・シュンペーターは『イノベーションのジレンマ』という本のなかで『機会を新しいアイデアへ転換する』段階と『それが広く実用に供せられる』段階の両方を踏んでこその『イノベーション』だとまとめています。スマホが世の中に広まった過程を思い返すとよくわかりますよね。今ではもう、スマホがなかった生活なんてとても思い出せない。スティーブ・ジョブズが『これがiPhoneです』とキーノートで発表したときはまだイノベーションが生まれたわけでなく、『イノベーティブなアイデア』に過ぎなかったわけです」
イノベーティブなアイデアはどうやって生まれる?
それを踏まえ、広瀬氏は「イノベーティブなアイデアのつくり方」について次のように解説を加えます。
「ジェームス・W・ヤングという人は1940年に出版された『アイデアのつくり方』という本のなかで『(アイデアは)既存の要素の組み合わせ』だと言及しました。しかもそのときには、近いもの2つを組み合わせるのでなく、遠いもの2つを組み合わせたほうが面白いのだ、と」
それがよくわかる実例も紹介されました。それはパッケージに“HELP, I WANT TO SAVE A LIFE”とのメッセージが刻印された絆創膏の話。これはアメリカで普及している薬剤キットで、なかには絆創膏や消毒された綿棒とともに「返信用封筒」が入っているといいます。
「実はこれ、怪我をしたときに綿棒で血をぬぐい、返信用封筒に入れてポスト投函すると骨髄ドナー登録が完了するというキットなんです。絆創膏と郵便を組み合わせたイノベーティブなアイデアだと考えることができますよね」
なんと、このアイデアによって骨髄ドナー登録は3倍にも増えたのだとか。「アイデア発想のコツは、イノベーティブさを抜き出すことだ」と広瀬氏は提言します。そう考えると、MFTに出展されていたさまざまなMakerさんたちのアイデアも、イノベーティブなアイデアの数々だと考えることができるのではないでしょうか。
講演の最後に広瀬氏は「システム思考とデザイン思考のハイブリッド」について、次のように話し、第1部を締めくくりました。
「システム思考は世の中のあらゆるものをシステムとして——例えば、食事のときに使う“お箸”も“2本の木の棒を使って食べ物をつまみ、手を汚さずに口に運ぶシステム”というふうに捉えます。システムとして図式化・構造化ができることでどこに介入すればレバレッジが効くのかがよくわかるようになるのです。
ではその“介入”をするときにどうするのか。そこでデザイン思考です。デザイン思考は——デザイナーが白い紙にペンで1〜2本の線を引いて『ダメだからもう1回やってみよう』とデザインしていくように——アイデアをいろいろと試しながら前に進んでいくような感覚で進めていきます。これが日常生活や仕事のなかでできるように習慣化されると、イノベーティブなものがどんどん生まれてくるのではないでしょうか」
マクニカがスタートアップを支援する理由
さて第2部は、フレキシブル基板(FPC)を開発する東大発ベンチャー・エレファンテックの代表取締役社長の清水信哉氏、そしてエレクトロニクスや情報通信の領域で事業を展開するマクニカのMpression推進部部長・米内慶太氏によるパネルディスカッションでした。以下、その模様の一部を採録します。
米内 私たちマクニカは日頃、清水さんたちのような新しいスタートアップを支援しています。なぜなのか。それは単純に、新しい変化が生まれることで人々から「いいね」「前よりもよくなったね」と言われるのが嬉しいから。もう少し詳しく説明すると、自ら努力するスタートアップを支援すれば、私たちのお客様のイノベーションも加速され、かつ、使っていただく・購入いただくことでそれ以外のみんなもハッピーになれると考えるからです。
日本のものづくりを支える企業の多くは中小規模の開発会社、あるいは大学・研究所等にいる試作ユーザーと呼ばれる人たちでした。しかし今、Makersの潮流が起こっています。MFTの変遷を見てもそれは明らかです。私たちはそんなMakersたちも、オープンイノベーションでつないでいきたいと考えています。
清水 私もスタートアップの1人としてお話させてください。もともと1人のMakerだった私がなぜエレファンテックを立ち上げ、スタートアップの世界に踏み込んだのか——。それはぶっちゃけ、東大で研究した後に経験したマサチューセッツ工科大学(MIT)での留学が大きいんですよ。MITと聞けば誰でも知っている有名な大学機関ですから、すごくデキる奴らが集まっているのかとばかり思っていたんです。しかし実際彼らと知り合ってみると、エンジニアとして見ればそれほど自分たちと変わりはない。日本と同様、オタク気質のエンジニアが多い印象でした。
ではなぜアメリカからあれほど多くのベンチャーが頻出しているのか、という疑問が生じてきますよね? それは単純に、新しいことを始めようとする人が多いだけ。気軽さのハードルが日本と違うんです。そんな気づきがあったこともあり「日本のエンジニアでももっと頑張れる」と、ベンチャー設立を決意したんです。
スタートアップとの共創による生まれるMakers新たなる潮流
米内 もう1つ、私たちがエレファンテックのような「製造業」に目を付けたのかも説明させていただきます。特に私が今日のプレゼンテーションで強調しておきたいことがあり、それはかつて「空白地帯」があったということです。
これは2015年に描いた「Makersモデル」の模式図です。
米内 ご覧のとおり、アイデア創出から販売まで、ビジネスのプロセスごとに関係する名だたるメーカーたちをまとめています。
この上の部分に名前が挙がっているメーカーは大手の半導体メーカー、ハードウェアや開発のベンダーたち。下の部分はMakersやスタートアップの領域です。このうち量産設計・量産・販売の部分のMakersたちは、これまでいるようでいなかった。ここが「空白地帯」になっていました。きっとここに面白いMakersやスタートアップが出てくる……。ずっとそう思っていたなか、実際に空白地帯を埋めるMakersたちが出てきました。
今まで私たちが何を「つらい……」と思っていたかといえば、アイデアからテストマーケティングまで順調に進んでいっても、その後の“ものづくり”に進めなかったことです。それまでこの空白地帯に入るべきMakersたちは、まったく違う流れでものづくりをしていたのですから。既存モデルでは立ちゆかなくなっています。量産化から販売のところのMakersやスタートアップが確実に増えてきていて、この下流の領域はもっと活性化されていく。Makersの世界をもっと面白くしてくれると期待しています。
清水 私がベンチャーを立ち上げるときに、なぜ製造業を選んだのかも補足させてください。私自身、もともとハードというよりも、マシーンラーニングなどソフトウェア寄りの研究をしていました。しかし日本のベンチャーが“ピュアなソフトウェア”の分野で海外に勝つのは、その当時はまだ難しく感じました。その点、日本はハードウェア系のテクノロジーなら勝てる、と思っていました。MFTを1つとっても、日本のMakersは海外と比べてとても優秀に感じています。だから今日、MFTに来場されている皆さんにも、製造業として次のスタートアップの潮流をつくっていってくれることに期待もしています。
およそ1時間にわたって行われたプレゼンテーションもここまで。今回のパネルディスカッションはパソナキャリアの「Makers’ Future Program(メーカーズフューチャープログラム)」の一貫として開催されました。ものづくりに携わるMakersが主体的に働き方を考えるきっかけとなる情報提供を今後も行っていくそうです。このような取り組みを通じてMakersと企業、そして社会がつながりイノベーションが創出されていくのかもしれません。
「Makers’ Future Program(メーカーズフューチャープログラム)」についてはアスタビジョンで公開予定のパソナキャリア EMC統括部長・宮本千聡氏のインタビューでご覧ください。
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