Interview

【挑戦する中小企業_横浜】Technology×Identity×Creativityで、生活環境のいまとこれからを照らす。 ――株式会社エーオーアイ・ジャパン 久野義憲

text by : 嶋崎真太郎
photo   : 嶋崎真太郎

身の回りに当たり前のように存在する照明。神奈川県横浜市に、それらが映すものは「普段の生活」だけでなく、「環境への視点」もデザインの軸として事業展開している会社があります。スキューバダイビングの必需品でもある水中ライト「RGBlue(アールジーブル―)」、空間を豊かにしてくれるコードレス照明「Ambientec(アンビエンテック)」。

水中ライトとコードレス照明、どんな関係性があるのか。光が照らすものは一体なんなのか。モノの消費からコトの消費に変わりつつあるいま、株式会社エーオーアイ・ジャパンの久野社長が見ている灯りの世界とは。


デザイン、環境、照明、エーオーアイ・ジャパンとは


私のキャリアスタートはDPEショップのフランチャイズ本部でした。当時の事業拡大戦略ではチェーン展開やフランチャイズ展開が主流で、写真店の店長や店舗開発をやっていました。仕事のきっかけで香港に駐在することになったのですが、そこで現地工場で検品を行なったり、中国のメーカーや工場との関係性を築いていくにつれ、モノづくりの面白さにのめりこんで行きました。

日本ではインターネットを今みたいに誰もが使っている時代ではなかったので、香港にいる日本人は情報の感度の高い人が多く、とても刺激を受けました。これからのビジネスは大きく変化していくだろうなと。これからの事業展開には大きく2つの道があると思っていて、1つはITを活用した情報ビジネスです。もう1つはリアルなモノづくり、メーカーですね。私は地道にやっていくモノづくりが好きなのもあり、メーカーとしてやっていきたいと決意しました。

写真カメラ業界でのキャリアと、香港駐在時のネットワークのおかげで、カメラ周りのものを作るリソースはありました。そこで、フィルムカメラをスケルトンにして既存製品をアップデートするようなモノづくりをやっていたのですが、結局は人が作った型の見え方を変えているだけで、すぐに真似されてしまう。金型とデザインは自分たちの投資ではないので、グラフィック勝負になる。これはモノづくりではないなと。

高校時代からずっと音楽をやっていて、その当時から有名なバンドのコピーではなく、マニアックなジャンルに興味がありました。モノづくりも大量生産大量消費のビジネススタイルではなく、個性のあるモノを作りたいなと。

オリジナルの商品を作る時に、最初にやったのがカメラの防水ケースでした。当時のデジカメは耐水性ではなかったのでこれは面白いなと。最初の試作品は、透明の弁当箱みたいなのに入れたら大丈夫だろうと安易な考えで挑戦してみましたが、水深3-5mくらいで水圧による変形でカメラが操作できなくなってしまいました。

それから耐水や耐圧の研究をして、できあがった商品を家電量販店に持ち込み販売した所、大手のカメラメーカーに興味を持っていただき「おもしろいですね、一緒に作りませんか」と。ただ、一人でやっていた会社ですので当然、大手企業の口座は開けられません。支払いも約束手形で、開発から製造、納品まで1年間くらいの運転資金がなければ受けられない状態でした。そこで、中国でカメラ製造工場を経営している香港人のパートナーと組んで、製造を海外の拠点で行なうことにしました。

その当時の海外メーカーは、日本とは異なるビジネススピードがありました。日本の製造業は、金型、樹脂成型、組立て、…etc、工程が各企業で分かれていたのですが、外資系現地の工場では開発から製造・検査ラインまでが一貫して行なえる設備を保有していたのです。当時のカメラ業界は中国に先進性があり、日本ではできないスピード感で仕事をすることができました。中小企業で体力がないからこそ、このスピード感がとても重要でした。勇気のいる判断だったのですが、人脈も関係性もあったのでそれができたと思っています。そこから事業が少しずつ軌道に乗り始めました。海外パートナーと協業することができなければ、いまの会社はなかったでしょう。

日本で企画開発して香港・中国で製造する。そのようなスタイルで事業を展開していました。ただその頃、携帯電話で写真が撮れるようになり、需要が高まっていく様子を見て、デジカメの需要が伸びていかないだろうなと感じました。私たちがやっていたモノづくりはオリジナルであったものの、市場が変化すると恐らく縮小してしまう。外的な要因に左右されないモノづくりを続けていきたい。そう思うようになりました。

それで、ゼロから作るモノづくりメーカーとして、2009年にAmbientecを設立しました。

横浜の本社オフィス兼ラボには、これまでの開発商品を紹介されています。

100人に1人でもいい。個性を得られる商品開発_Ambientec


AmbientとTechnologyを掛け合わせて、Ambientec(アンビエンテック)です。
設立当時は壮大なことを考えていて、環境デザインメーカーを作ろうと思っていました。デザイン性が高いだけではなく、将来的なテーマに取り組む家電。エネルギーや環境と共にあるモノづくりをしようと。

折り畳み式の太陽電池を作り、携帯電話や身の回りのものをエコ充電できるようになればいいなとか、室内のCO2を計測できる環境センサーも作りました。CO2は、外気で300~400ppmなのですが、人がいる空間で十分に換気ができていないとCO2濃度が上がりその数値が上がっていきます。1,000ppmを超えて来ると、なんとなく眠いとか集中できないとか、CO2濃度とは自覚していない症状が現れたりし、健康や労働生産性につながると思ったからです。

大きな課題は、環境デザインメーカーとしての思い入れが強かったので、どうしても開発原価がかかってしまい、安価で提供できないということでした。2年間くらい、いいもの作っているはずなのに売れない。そんな時期が続きました。そして2011年、いまから10年前に東日本大震災が起きました。不謹慎かと思われるかもしれませんが、こういう時に活用できる商品でしたので、太陽電池や蓄電池を被災地域で使ってもらおうとビジネスも行ないました。ただ、残念ですが、半年くらいで世の中の防災関心度が低くなっていったのを覚えています。

震災の後しばらくは、エネルギーや環境に対する注目は比較的高かったのですが、市場が冷めていくのを見て、環境意識だけではビジネスにならないと痛感しました。私も、環境というのを直接的に表現するのではなく、「永く使ってもらえるモノづくり」や「資源を大切にするモノづくり」という間接的な表現を取り入れ、1つ1つの製品に想いや魂を込めていく事業スタイルに変えていきました。

Ambientec の「TURN」という代表製品は、金属のかたまりを削り出したモバイルLEDライトです。なんでも照らす便利な強い照明ではなく、TURNの周辺だけを優しく照らす設計になっています。空間を心地いいものにする。感性を刺激するものにする。そんな光の調光にこだわっています。

カメラの防水ケースでも培ったノウハウがあるので、防水性も高く、金属の削りだし加工技術で耐久性も十分です。デザイナーの「田村奈穂(Nao Tamura)」によって生み出された、洗練されたデザインは飽きがこないもので、「永く使い続けてもらう」という環境コンセプトにも沿ったものになっています。気分によって選択したり変えられる音楽があるように、灯りにも好みがあることを教えてくれる照明です。

TURN。モノづくりは地球資源の消費。使い続けたいと思えるモノを。

ありのままの海を見たい。照明技術を追求した水中ライト_RGBlue


大手カメラメーカーの防水ケースを、エーオーアイ・ジャパンで手掛ける一方、自分でも海に潜るダイビングを始めるようになりました。ダイバーが当時使用していた水中ライトはハロゲンだったのですが、徐々にLEDが市場に流通してきました。ハロゲンと比較すると、圧倒的に省電力化できるのがLEDです。環境にも良いですよね。

LEDともうひとつこだわったのが、電池です。乾電池ではなく、リチウムイオンバッテリーです。当時はまだバッテリー式の電源で安定的な電圧を共有する技術がありませんでした。大手エレクトロニクスメーカーも市場の小さい水中ライトには手を出していませんでした。誰もやっていないし、カメラやライトといった領域のノウハウはあるし、電池で本格的な照明を焚くことができれば価値があるのではないかと。

安定的なパワーを供給できるバッテリー式電池、防水技術、これらのコアコンピタンスを形にした水中ライトを作ろうと。一般的な乾電池式の水中ライトとは異なる、安定的な連続点灯ができるようになる、次世代のライトです。

乾電池とリチウムイオンバッテリーの連続点灯時間比(RGBlueサイトより抜粋)

電源以外で強くこだわったのが、太陽に代わる光源です。当時の水中ライトは、懐中電灯を防水したものでしたが、懐中電灯は、単に暗がりを照らすもので色味を確認するものでは有りません。海中で魚や植物を観察する為に作られたものじゃないので、実際には鮮やかな赤いものがくすんだ紫色に見えてしまっていました。

太陽光は、空気中では鮮やかですが赤みが水に吸収されてしまうため、浅瀬だと色鮮やかに見える海も、深度があると色が失われていきます。そこで、限りなく太陽光に近い発色の防水LEDライトを作れたら、本来の鮮やかな海中を見れるのではないかと思ったのです。ただ明るいライトでは眩しいだけで色彩情報にはなりません。自然光により近い演色性や色温度等の光にまつわる情報を整理することでより美しい世界を観ることができたのです。

三原色「RGB」と、海の青さの「Blue」。これを組み合わせた「RGBlue」が誕生しました。

防水と蓄電を兼ね備えた次世代ライト。多くのダイバーに支持していただいています。
商品デザインも自社で。ラボでは打合せが繰り返されます。

エーオーアイ・ジャパンが挑戦する未来への灯り


モノづくりには誠実さと高い意識を持つことが必要だと思っています。分かりやすく言うと自分の家族に食べさせられない食事を提供するようなことはしてはいけませんよね。

特に大事な意識は、モノをつくるということは地球資源を消費することだということです。そこでもしゴミになるようなものを作ってしまったら、個人がストローやビニール袋を節約するというレベルとは比べものにならないほどの規模で資源を無駄にするわけです。つくる側はもっとシビアな目をもって世の中にモノをおくり出すべきだと思っています。

そんな想いの根底から、私たちの会社では本当に品質や質感にこだわって、10年20年、できれば一生使ってもらえる製品だけをつくろうとしています。

RGBlueで技術(Technology)を追求していき、Ambientecで個性(Identity)を世の中におくり出す。それがどうやって実現できるかの発想(Creativity)を常に持ち続けたいと考えています。

そして、事業を通じて利用する人にも、少し考えるきっかけを提供できればよいと考えています。要は「買うという行為自体を楽しむ」のではなく、もう少しその行動に対して責任を持ってほしいなという提案です。

新製品の企画、開発は常に「より心地いい灯り」を追求していきます。
回路設計も自社ラボで行ないます。ひとつひとつ、丁寧に。

事業を通じた社会貢献活動


Ambientecの開発ラインナップで「Xtal(クリスタル)」という製品があります。クリスタルガラスでできたテーブルライトです。1つ1つ職人が丁寧にカットされたクリスタルガラスから、放射線状に光が照らされる幻想的なライトです。

2020年より世界中で話題となり、いまでも渦中である新型コロナウイルスの猛威。そのウイルスに最前線で治療や対策に立ち向かう医療従事者の皆様に、敬意と感謝の念を会社として表するとともに、このことを忘れてはいけないと企画したのがイギリスで始まった「MAKE IT BLUE」のカラーをイメージしたXtalです。

東日本震災の経験から得た教訓は「風化させたくない。」でした。直接被災した方達は忘れないのですが、そうでない方は徐々に記憶から薄れていきます。なぜ記憶や想いは風化していくのだろうか。忘れない為に、モノづくり企業ができる表現方法で開発した製品です。

その売上の一部は、本社がある横浜市へ寄附させていただきました。

Xtal。それぞれの表情が異なる点が特徴です。

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