2017.08.21 MON 日本の形状測定機がインダストリー4.0時代の自動車分野を変革する ー 株式会社光コム 野田直孝さん
text by : | 編集部 |
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photo : | 編集部,株式会社光コム |
「工場の中でロボットがAIによって動き、人の代わりに作業し、無人工場が実現する」
未来の工場やインダストリー4.0などの話題で語られる将来像、しかし大きなハードルとなるのが製品検査時の異常検出。この無人化が実現しなければ製造業における真のイノベーションは無い。
東工大発のベンチャーとして誕生した株式会社光コムは、新たなレーザー光源”光コム”の研究・開発を続け、遂に昨年その産業応用化を実現した。COOの野田さんにお話を伺いました。
■環境に左右されず、どこでも「熟練した職人の目」を発揮する光コム社の技術
―光コムの測定用レーザー、一番の特徴は「非接触での精密な測定」ということですか?
いえ「精密さ」はそんなに特徴とは言えないと思います。光コム社の測定器は10ミクロンの誤差で測定しますが、この業界ではミクロンより更に下のナノ単位での計測もよくありますので。
光コムの特徴であり、導入を検討頂いている各メーカー様に評価いただいているのは、
「速さ」「視野の範囲の広さと深さ」「外乱光の影響が無い」などのポイントを総合的に併せ持つところです。
他の企業さんの製品だと深さ20ミリくらいですが光コムの場合深さ130ミリまで計測でき、横幅はほとんどいくらでも拡張できます。これによって大きく立体的な自動車部品などでも、1~2分程度の短時間で計測が可能です。
―「併せ持っている」ことが、製造の現場で実用的に使うには大事だと
そうですね、「外乱光の影響を受けない」という点も、通常工場内というのはその施設ごとに照明や西日が差し込んだり、環境が異なりますのでそういったことを考慮せずに導入できます。
従来の製品は、測定精度は高いけど環境に左右されたり、一度に計測できる幅が数センチ程度であったり、何かしらの課題を抱えていた。「全て併せ持つ」ものを自動車メーカー各社が物凄く探していたという事実は、発表直後から僕らが想像していたよりも多くの問い合わせを頂いたことで気が付きました。
―想像していたよりも多くの問い合わせ、というのはどういう理由だったのでしょうか?
背景にあるのは「インダストリー4.0」に向けた工場の無人化、人が行っている作業の代替というテーマだと思います。製造現場における人件費の多くが、実は「目視検査」に使われています。
単純作業では無く「傷や欠陥が無いか」を見つけ出す熟練した能力が必要で、これまで機械に代替できない領域とされていました。
僕らの持っている技術は、一度に広い視野を持ち照明などの環境にも左右されないなど、実は「熟練した職人の目」の要素を持っているという点で評価されたのだと思います。
しかも人の目で確認した情報はデータに残りませんが、測定器で取得した情報はデータ化して残していけます。
■インダストリー4.0で大事になる「人の代替+データ化と活用」
―インダストリー4.0を見通すのであれば、人の作業の代替に留まらず、取得した情報のデータ化と利活用があると。
まさに、大手自動車メーカーであれば、年間数百万台から1千万台という製品を作ります、その際に短時間で測定できることや、今まで熟練した技術でやっていた「どうやって傷を見つけるか」の習得がディープラーニングを用いて可能になります。本来であれば、何年も要して職人を育成していたところを、短期間で実現できるようになる可能性があります。
ディープラーニングには、当然データを取得する「目」が必要で、うちの製品がその機能を果たせそうだということを各メーカーの生産技術者の方々が気づいたという状況です。
先日フライデータ(FlyData Inc.)さんとの提携を発表しましたが、これも「どうすれば大きなデータを集めて分析する基盤が作れるか?」を見据えたものです。
―まさにフライデータさんとの提携についても伺おうと思っていました。
フライデータ社は米国で既にハイテク企業向けにクラウド上の大量データ処理とリアルタイムに蓄積する技術をSaaSとして提供している企業です。
測定したデータは1つ1つの容量が重いので、それを30秒や1分に1つずつ取り込んでいく必要があり、それらを堅牢な仕組みで守るデータ基盤が大事ですので、この提携は僕らが考えている事業展開においては非常に重要な位置づけにあると考えています。
サイバーフィジカルシステム(CPS)と呼ばれるIoTにおける最先端な世界で、データを紛失した際の回復や少しデータの格納部分に問題があった時にいちいち生産ラインを止めずに済むとか、実際のモノとデータを常に一致させるというために、一番信頼できる仕組みを探していてフライデータさんと提携することになったという背景です。製造業においてCPSを実際に実現しようという取り組みとしては、世界で最も進んだ取り組みと考えております。
―製造現場におけるIoT導入のためのソリューションは、大手をはじめとして各ベンダーが取り組んでいると思うのですが、そういったものとの違いは?
本当に製造現場の中のデータ化なのか、そうでないのか?の違いだと思います。
仰る通り、最近はIoT・インダストリー4.0をテーマにした企業向けソリューションが色々とありますが、大半が「工場の中にある紙に書いたメモ、定量的情報をデータ化しましょう」というものです。
素材を加工し、組み立てて、最終検査する、その逐一のプロセスにおける人の作業は代替されません。
もちろんそうした仕組みも生産性を上げる効果はあるかもしれませんが、やはり工場のど真ん中の、インダストリー4.0でよく語られる「人が全くいない製造現場」の実現では無い。
熟練した人のタスクを代行でき、それをデータ化できて、実際の製品とシンクロした「サイバーフィジカルシステムの実現」に必要なのは、僕らのように「工場の中で実際に行われ、機械に代替できていないことの実現」なんです。
■産業応用に向けた長年の取り組み、見据えるのは自動車産業におけるスタンダード技術。
―元々創業は2002年と既に10年以上の歴史がありますよね。当時はまだ大学発ベンチャー自体が少なかった時期だと思います。
そうですね。確かに早かったと思います。いま振り返ってその創業タイミングが良かったのか?で言うと個人的にはとても良かったのではないかなと思います。
というのも、こうした技術の産業応用を成功させるには、基礎技術が完成したタイミングからとても長い年月を必要とします。実際似たような領域で技術成果が大学から最近発表されていたりもしますが、産業への応用を完全に視野に入れなければ何年かかっても研究開発レベルで終わるのではないかと思います。製品化に至るプロセスというのは、大学におけるそれと、企業活動とは全く別であると考えています。
そういった意味では、当然途中に試行錯誤することもあったと思いますが、僕らが最近色々な製品を発表できているのも、10年以上前に「産業応用するんだ」と創業し取り組み続けたことの成果だと思います。
―今年、資金調達も発表されていますが今後更に強化していこうと思っている方向性などを教えてください。
製造業、特に自動車産業においてのデファクトスタンダードになろう、という事は考えています。「インテル入っている」のような、製造業の現場であればどこでも「光コムが入っています」という。極端な話、来年か再来年にはどの車も「光コムで検査してます」という状態にはなると思います。個人的に車が好きなのですが、大変楽しみです。
もちろん、自動車産業以外のあらゆる製造業全般で使える技術ですし、実際に各方面から依頼も来ています。ただ現状の社内リソースは限られておりますし日本における自動車産業は製造業の中でも多くの比率を占めますから、まずそこに注力することを考えています。
■研究室からスタートしたからこそ「世界初」に燃える社内文化
―自動車産業は国内メーカーが世界を相手に戦う市場ですし、海外メーカーも日本をよく見ていると思います、光コム自体が海外に展開するというのは?
現状では自社展開は、これからの検討です。中国の工場に導入いただいたというケースはありますが。
自分たちとしてはまず国内にしっかりマーケットを作って、1~2年後に例えば大手自動車メーカーの国内工場で実現した設備を、海外の工場に輸出するようなイメージで考えています。
その海外に輸出した工場設備をドイツの自動車メーカーが知って、そこから自然と海外のメーカーへと展開するような2~3年後、というのが海外に関して現在考えているイメージですね。
―海外展開に限らず、将来的なビジョンなどがあれば教えてください。
いくつかありますね、まず光コムという技術ですが、これは20世紀後半に開発された特殊なレーザー技術です。この日本発のレーザーを産業利用し21世紀に残していくチャンスであり、僕らが失敗したら消えてしまう技術かもしれない。産業応用しているのは世界で我々だけですから。自分たちの取り組む事業がそれくらい夢のある話だと思っています。
それと、やはり僕らは研究室からスタートしたベンチャーなので「世界初」への挑戦とか、それだけですごく燃えるんですよ。元はと言えば2005年にノーベル物理学賞を受賞した技術を産業応用しようと、それが出来たぞ!という点での熱量もありますし、今後を見据えればフライデータさんとの取り組みなどで「測定した情報をビッグデータで活用するぞ、これも世界初だ!」という。
こういう点は、ビジネスや収益という話だけでは語れない何か「原動力」なのだと思います。
もちろん今日お話ししたインダストリー4.0や、工場内の無人化など成長領域における大きな可能性に繋がることをやっていますが、それと+αで「自分の仕事が世界初のものに繋がっているんだ」というところにモチベーションを感じる社内のメンバーは多いんじゃないかなと思います。
プロフィール
野田直孝氏 光コム 取締役COO
東京大学経済学部卒業後、野村総合研究所にて経営コンサルタントとして勤務。
その後、人材系事業者の事業再生、Webマーケティング企業における上場を経験し光コムに参画。
専門は、経営変革、システムインテグレーション、マーケティング。
目下のテーマは、インダストリー4.0の実現、自動車生産現場の革新。
インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)
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