Interview

「かめはめ波を出したくてずっと練習してました。それが”テクノスポーツの実現”に繋がってるんです」meleap CEO 福田浩士さんインタビュー

text by : 編集部
photo   : 編集部、meleap株式会社

スポーツに先端技術は欠かせない。一流アスリートの1秒・1mmの記録更新や目を見張るプレーの裏には、必ず最先端技術の結晶が存在する。そして最新技術はスポーツそのものの可能性を切り拓く時代にある。
AR(拡張現実)技術とジェスチャー入力を駆使し、まるでゲームや漫画の世界で戦う「HADO」という競技を通じて、日本発の「テクノスポーツ市場」を創ろうとする、meleap株式会社 福田浩士CEOに話を聞きました。


■身体を拡張したい!原体験は子供の頃の「物体を通じて自分が拡がる」感覚


―HADOを作ろう!という最初のきっかけは?

最初、Kinect(キネクト)とプロジェクターの組み合わせで、CTOの新木と「これで何か面白いことできないかな?」ってプロトタイピングをしていたんです。その後グーグルグラスやoculus(オキュラス)が注目を浴びはじめてAR・VRが盛り上がってるな、ゴーグル装着型で何かできないかな?と考えてるうちに「自分の手から技を放つ」というアイデアが生まれました。

昔からドラゴンボールの「かめはめ波」を出したいと思い、よく練習していました。「かめはめ波」は男子の憧れなので、これを実現できたら世界中が幸せになるだろうなという確信がありました。

 

―当時から新木さんと2人で進めてたんですね

はい、当時飲み会のたびにキネクトの話で盛り上がって、僕も新木も当時は就職して働いていたんですが、空いた時間に2人でアイデアを出し合ったりプロトタイピングをしていました。

そのうち、僕は起業するかどうかをあまり考えず、会社を辞めちゃったんです。

自分のやりたいことは「身体の拡張」だ、それは少なくとも今の職場の延長線上には無い。まじめに「身体の拡張」に取り組みたい。
2人で一緒にアイディアを考えていくうちに会社作ってやるのがいいんじゃない?ってことで、そこで新木も会社を辞めて起業しました。

 

―「身体の拡張に取り組む」というのは

のちに大学で建築を学ぶきっかけでもあるんですが、父が建築土木の仕事をしていて、子供の頃から橋とかダムとかをよく見ていたんですね。

例えば大きな吊り橋には何本ものワイヤーが遠くまでギューンと伸びていますよね、それを眺めているとだんだんワイヤーを通して自分の意識が遠くまで飛んでいくというか、物質を通じて自分の意識が拡張する感覚があったんです。

他にも、子供の頃野山を走り回っていると、山の斜面とそこに接している自分の手足が山と一体化する感覚とか、物体と自分がコミュニケーションする感覚を持っていたんです。

そういう「身体が拡張する感覚」をどうやったら形にできるだろうか?というのをずっと考えていました。

 

―大学院まで建築を学んで、方向転換したのはなぜですか?

当時は建築の中でも意匠設計が好きで、毎日徹夜して設計ばかりしていました。

ただ、建築って重すぎるというか、実際にはお金も時間も掛かるし規制も色々とあります。自分が小さいころから建造物を見て感じていた感覚、実現したい・表現したいものに向いてないと感じて、他に何に無いか?と探していました

 

―それでキネクトやVRに興味を持ち、HADOに繋がる

はい、だから僕はVRなどの技術を研究はしていなくて、とにかく身体の拡張、物体を通じて自分の感覚が拡がることの実現を、センサー技術(input)と映像出力技術(output)によって実装できるんじゃないか?と思ったんです。

VRやARの歴史を振り返ると、過去に話題になったものは技術的コストが掛かり過ぎたり、高精度で動かすハードルが高かったり「最高の体験を作る」のが大変だったと思います。

その後技術が進化して、その辺りの問題は解消されてきましたし、新しい市場を創るときはAR・VRに限らずリスクの覚悟の上でやるしかない。だから不安を感じるというより、いまこそチャンスだ!と起業しました。

※HADOのプレイ動画。目の前にシールドを出現させたり手から技を放って戦う


■「テクノスポーツ」という市場を創る、エンターテイメントが好きな人たち


―今後のHADOはどういった市場を創るイメージですか?

僕らは、ウェアラブルデバイス、拡張現実(AR)などの技術を活用して新しいスポーツとしてHADOを立ち上げました。このような技術を使った全く新しいスポーツを「テクノスポーツ」と呼んでいます。

 

―社内はどういった経歴の方が多いですか?

いま会社が4年目に突入して社員が20名くらいですが、Unityというゲームエンジン を使っているのでゲーム開発会社のディレクションやエンジニア経験がある人は経験を活かせてると思います。

ビジネス面でも、何かしらエンターテイメント産業に関わっていた人が多いです、扱うモノは違っても文化が似ていたりするので共感してくれやすいです。

 

―確かに、漫画やゲームの世界観に近いですよね

趣味嗜好として、ゲームやエンタメが好きな人は多いかもしれないですね。
僕は人一倍ゲームが好き!って程ではないですが、漫画は大好きで色々読みます。
エンターテイメントと技術が好きで、新しいことへのチャレンジが好きな人、が多いかもしれませんね。

 

AR技術で技を放ってバトル形式にして、一つのスポーツ競技として盛り上げようとしている、そんな会社って他に中々無いんです。それを単純に面白いと思ってさらに本気で「俺もそれを仕事にしたい」となる人はいいですね。

 

―創業からの4年を振り返って、失敗やいい経験になったな、みたいなエピソードありますか?

沢山あります。日々失敗してそこから学んでます。
例えば、HADOは当初コンシューマー向けの製品を作って、個人に買ってもらおうと考えていました。
筐体を作ってまずは販売台数を伸ばして、それが軌道に乗ったら次は自社製品としてヘッドマウント機器を作ろうとか考えていました。

 

ただ、当時やろうと思っていたことはビジネス面でも、技術面でも時期尚早でしたし、当時からBtoBのビジネスも展開していたので、まずはそっちに注力しようと判断したこともあります。

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HADOは「体験しているプレイヤー以外も視覚的に楽しめる」というエンターテイメント要素も特徴の1つ。

 


■HADOの世界展開


―さっき漫画が好きと言ってましたが、漫画の必殺技や福田さんが子供の頃にイメージした「物を通して自分の意識が遠くに飛ぶ」、というのはHADOで実現したいことの根底ですね

そうなんです、例えば格闘系の漫画でよくある展開として、序盤は「体術」が中心で技を磨いて敵と戦うじゃないですか、
そのうちストーリーが進んでくると主人公が成長したり強敵が出てきて、段々戦いがハイレベルになって「なにか気功的・波動っぽいもの」を技として会得していくというのが多いんです。

 

体術をしっかりマスターすると、その次のステージで気功的なものを自由自在に使いこなせるようになる、そのレベルまで自分の体は進化していないので、それならどうすればできるか?という想いですね。

 

―それをHADOで実現する。これネーミングいいですよね。

最初、全然違う名前だったんですよ。

一番最初は「リアルモンスターハンター」って呼んでいて、その次に「ポッサムゴッサム」って名前にしたんですけど、これ造語で実際のサービスの雰囲気とリンクしないのか、中々覚えてもらえなくて。

行きついたのが「HADO」でした。結果的にこれに落ち着いてよかったなと思います(笑)

 

―海外でも直感的に伝わりそう

そうですね、海外展開もいま意欲的に動いています。

特にアメリカ・中国は重要な市場と捉え、拠点を作っていこうと考えています。

アメリカは元々、「レーザータグ」とか体を使った動くタイプのゲームが好きですし、ゲームセンターでも体を動かして楽しむ系のものが多いんですよ、その市場に参入できるイメージを持ってます。

 

―アジアを重要視している理由は?

アジアは、アメリカと理由が違うんですが、ゲームセンター文化がすごく成熟している点と、日本の漫画やアニメが浸透しているので「HADO」を見ると一瞬で「かめはめ波だ!」とイメージしてくれる点もあり、展開できそうだなと。

 

―国内でも結構メディアに取り上げられて、ビジネス面でも色々なお誘いを受けてそうですね

そうですね、イベントで使いたい、常設アトラクションとして使いたいというはもちろん、カスタマイズしてオリジナルコンテンツを作りたいというお話も頂きます。

他にも、一緒に働きたいという問い合わせも増えています。このような問い合わせを頂くととても嬉しいですね。

 


■HADO WORLD CUPの先にある、テクノスポーツの未来


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2017年も開催が決定したHADO WORLD CUP、賞金総額も100万円から300万円に増え確実に規模が拡大している。

 

―HADO WORLD CUPは今後規模を拡大させるんですよね

 

そうですね、HADO WORLD CUPを通じてテクノスポーツの市場を創りたいです。

例えば、2020年に東京でオリンピックが開催されますけど、その時点でHADOもちゃんと「国際的なスポーツの大会」として認められる状況になっていて、日本だけじゃなくて世界各国から代表選手が東京に集結している、参加できない人もネット中継とかで全世界に放映されてるものを視聴して自国の選手を応援しているという状況を作りたいですね。

 

―3年後にその状況はかなり挑戦的な目標

そうですね、さすがに2020年にオリンピックと同じ規模は難しいと思いますけど。

ただ、HADOという競技がちゃんと世界中に広まって、知っている人がいる、大会をやると聞けば腕に覚えのある選手が世界中から東京に集まってくる状態にあるかどうか。競技と選手だけじゃなくて、生で見れない人にもネットやテレビの中継で応援することができる。
そういう環境を作りたいです。

 

―未来的なスポーツって他にも色々と盛り上がりつつあります

はい、ドローンを使ったレースだとか、ロボットを使った対戦型の競技などもテクノスポーツの1つだと思います。
ロボットとか、VRとか、切り口や競技の可能性は色々あると思います。

 

―ソニーコンピュータサイエンス研究所の北野所長が「2050年に、ワールドカップの優勝チームにロボットサッカーチームで勝利する」ってビジョンを掲げてたりもしますよね

そうそう。そういうの凄く面白いと思います。

ちょっと聞いただけだと途方もないというか、馬鹿げているように聞こえるけど、本気で挑んで突き抜けて実現することに意義があると思います。

その先にあるのが未来のエンターテイメントなのかなって。

 

ロボットのサッカーもそうだし、バイクメーカーが自動運転のバイクで世界チャンピオンをいつか抜き去るって宣言していたり、「それに何の意味があるの?」っていう人もいると思いますけど、突き抜けてみると見える世界があると思うんです

 

―本当に実現したら、既存のスポーツより熱狂する人もいそうですし

そう、現実世界だと選手が手から謎の光線を打てないし、自分を守るシールドをいきなり目の前に出現させたりできない。でもそれが出来たら、迫力が出るし新たなゲーム性も出てきて楽しいと思うんです。

あと、スポーツの敷居を低くすることができると思ってます。
テニスでもサッカーでも、やろうと思ったらコート予約して、決まった時間にそこに行かなきゃってなる。
それがHADOなら、学校の帰り道にその辺の原っぱで「よしやるか!」って始められる。

 

―体格差もあまり気にならない

そうなんですよ、孫と一緒にサッカーするにはちょっと体力的にきついおじいちゃんも、孫とテクノスポーツを楽しんだり、場所も選ばないし誰とでもできる。

そもそも、スポーツという概念自体がいま変わろうとしていて、例えば「INGRESS(イングレス)」はある種新しいスポーツだと思いますし、E-SPORTSと呼ばれるものとか、既存のスポーツ・競技と混ざり合って新しいものを作っていく。
その流れの中で、HADOも新しい可能性を提示できると思っています。

 


株式会社meleap CEO・福田浩士(ふくだ・ひろし)
1986年新潟県生まれ。明治大学工学部卒業後、東京大学大学院を修了。2012年に株式会社リクルートに就職し、住宅メディアのコンサルティング営業に携わる。退職後、友人の新木仁士(現CTO)と2014年1月に株式会社meleapを設立。AR(拡張現実)技術とウエラブル端末を用いたテクノスポーツ「HADO」を開発し、レジャー施設やイベントなどでサービスを展開。KDDIムゲンラボ第7期生を卒業。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)