Interview

音楽著作権プラットフォーム「Audiostock」で、サウンドクリエイターの未来を創る ――株式会社クレオフーガ 西尾周一郎

text by : 編集部
photo   : 編集部,株式会社クレオフーガ

音楽クリエイター・アーティストが活躍する場を創造し、 音楽を創る・演奏することがもっと楽しくなる世界を創ることをビジョンに掲げる株式会社クレオフーガ。2018年3月に総額2.6億円の資金調達をした彼らが手掛けるのは、音楽著作権プラットフォーム「Audiostock
音楽著作権の新しい形による音楽業界の可能性と、ブロックチェーンなど新技術の構想についてお聞きしました。


■音の素材とライセンスがいつでも簡単に入手できるAudiostock


――まずはAudiostock(オーディオストック)の概要を教えてください。

Audiostockは、音楽の使用権を売買するマーケットプレイスです。
クリエイター側がAudiostockに楽曲を登録して、社内で一定の審査をクリアした素材の音素材とライセンスを購入できます。

特徴は「音の使用権(ライセンス)」を販売している点です。
購入頂いた方は、著作権処理における面倒な手続きがなくても音素材を自社CMや動画コンテンツなどに使用できますし、クリエイター側は売上に応じた印税を得られます。

イベントのBGMや、DVDに収録する音楽、ゲームや動画CMを制作する際、従来の著作権管理団体への申請手続きは、煩雑な手間と多くの時間が掛かります。

プロの作曲家に発注する時間や予算が無く、すぐ使える音素材が欲しい場合は著作権フリー素材のCDなどから探すしかありませんでしたが、Audiostockなら24時間いつでもオンライン上で購入しその場で手に入ります。

※素材の点数を多くするだけを重視せず、利用側が安心して使える点を重視している。
そのため音素材の申請から審査プロセスで音質やノイズなど品質面で問題があるものを約半数落としている。

――音素材を提供するクリエイターはどういった方たちが多いですか?

現在、Audiostockには約7,000組のクリエイターが登録しているのですが、上位層で一番多いのは普段からプロとして活動するフリーランスの作曲家です。他にはゲーム会社でサウンドクリエイターをしていた方が多いですね

ぼくらも、登録されている音素材のジャンルが偏らないよう、意図的に「こういうBGMが作れる人も開拓しよう」といった展開を意識しています。

――逆に購入されている側で多い用途は?

「映像に合う音楽」です。最近の動画コンテンツ市場の伸びが関係していると思います。
アンケートを取ったことがあるのですが、約70%が映像関係での利用でした。

Youtube用の動画CM、動画メディアのコンテンツ、自社サイトに掲載する動画広告。
いまこの市場がとても伸びていますが、音素材のライセンスを欲しい企業にとってはとても大変でした。

著作権管理された曲は使いづらい、そもそも著作権よくわからないので難しいし怖い。
でも現場では「今週中に完成させなきゃ」の事情がある。
こうした人たちにとって、24時間いつでもネット経由で音素材が入手できて、著作権処理のことを気にしなくて済むのはとても助かるようです。

Audiostockのサービス上で、著作権処理も含めてシンプルにわかりやすく提供することにこだわった結果、「安心して使えます」と利用者からも反響を頂きましたし、実際に動画コンテンツ市場の伸びと連動するようにAudiostockの売上も伸びています。

※2018年6月には音素材の点数が10万件を突破。様々な用途に使える音素材が充実してきているとのこと。

■ブロックチェーンで音楽著作権管理と印税の仕組みが変わり、業界が活性化する


――利用者が増えて、求められる音素材にもなにか変化はありましたか?

印象的だったのは「音楽を使うシーンって、こんなにあるのか」と再認識したことです。

先ほど「映像や動画コンテンツが多い」といいましたが、それ以外にも世の中には多くの音があります。お寺のイベントで流す音楽が欲しい、ビジネス関連のイベント・パーティで流すBGM、会社の採用戦略に動画を使うからブランドイメージに合う音が欲しい、飲食関連で従業員に野菜を切る方法を説明するためのマニュアルビデオに音をつけたい。

普段わたしたちが目にするもの、社内向けに作られて一部の人しか目にしないもの、多種多様なシーンがあって、そこには音が必要とされていると感じました。
音によってその場の雰囲気を和らげたり、ブランドイメージを伝える助けにもなるのだなと。

――そうなると「売れるタイプの音素材」にもなにか傾向がありそうですね。

ありますね、最近発見したのは「和楽器を使用した楽曲がよく売れている」ことです。
Audiostock内でも「和風」「和楽器」などのワードで検索する人が目立ちます。

雅楽のようなものというよりは、伴奏は普通にダンスミュージックなどの今風のトラックだけど、メロディー部分を三味線や尺八で演奏しているもの。

伝統芸能としての和楽器は、「後継者不足、担い手が減っている」と言われている部分もありますし、和楽器の演奏者や作曲をされる方って、あまりメジャーではありませんよね。

でも実際には和楽器の楽曲がとても売れていて、意外と和楽器が得意なクリエイターは世の中に求められているのだな、と感じます。

2018年の資金調達によってサービス拡大への投資を強化する一方でクリエイターのサポート面も強化。
新設されたレコーディングスタジオは生楽器収録にも対応、クレオフーガとして「クリエイターが質の高い音楽を作るサポート」にも積極的に投資している。

――実は3月の資金調達発表時、「ブロックチェーンなど新技術を活用した事業展開」にも触れていたのですが、こうした新技術の活用イメージはお持ちですか?

具体的な方法はまだ模索中ですが、「音楽著作権管理と流通」ですね。

ご存知のとおり、ブロックチェーンは分散型台帳によって管理されるので、従来の一極集中な中央集権的な著作権管理方法でなくても機能すると考えています。

管理以外にも、印税やライセンス料の決済部分においても大きな変化になると思います。
テレビでちょっと使われた少額の印税を振り込むために、それ以上の振込手数料がかかってしまうのが現状です。

もしスマートコントラクトや仮想通貨ベースでの支払いが可能になれば、こうした「細かい金額の印税」の流通がもっと活発になると思います。それをクレオフーガで全てやるかどうかは別として、世の中が必ずその方向に進むと考えています。

――音楽の使用権を買いやすい、買ってもらいやすい仕組み。

その通りですね、二次創作の活性化にも可能性を感じています。

例えばニコ動やYouTubeで有名な曲をカバー演奏しているものがありますが、OKかどうかはレーベルやメーカーさんの事情に左右されますし、「個人の趣味ならいいけど企業がやるのはNG」とかなり曖昧でグレーゾーンな領域です。

その動画をみて、曲や元のアーティストを好きになる人もいるでしょうし、本来なら制作者に収益が入るような透明性のあるシステムが確立したほうが、音楽業界自体が発展すると思います。

二次創作以外にも、曲のリミックスやコピーによって作品が盛り上がったら、ちゃんと原曲の作者にお金が入る仕組みを透明性の担保された状態で実現できると思います。

ブロックチェーン・機械学習・AIでの作曲など、先端技術の研究会を社内に創設。
音楽コンテンツ制作や音楽著作権管理等の事業展開を将来的に見据えた新技術の活用を出資者と連携して研究している。

■音楽をつくる人をハッピーにするため、音楽に関わる全ての人にサービスを提供


――音楽業界の発展といえば、3月の資金調達でも出資者の中に音楽関連事業社さんがいるなと思いました。クレオフーガに対する期待を肌で感じることはありますか?

そうですね、いまは必ずしもメジャーデビューだけが正解ではない時代ですし、それを理解している音楽業界の方も多いと思います。

Audiostockの周辺でもレーベルに所属しないフリーランスの作曲家や、インディーズ活動から実力のある人が活躍する時代になってきて、その人たちを取りまとめるプラットフォームの価値が上がってきていると思います。メジャーレーベルの方が直接インディーズを支援するのは難しいかもしれませんが、一方でとても興味を持っているなと感じますね。

今後、Audiostockでサポートしたアーティストさんの中からスターが出てきたら、音楽事業者の方と連動できる部分もあると思うんです。僕らはウェブサービスは運営できますが、ブレイクしたアーティストさんの活動全体はマネジメントできませんから、うまく連携させて頂ければ双方にメリットがあると思います。

――インディーズやフリーランスは、著作権に詳しくない人からすれば余計にわからない世界ですし、無断利用とかトラブルも多そうですね。

そうですね、一部の悪意ある人を除けばみんな安心して使いたいし使ってほしいんです。
だからこそ「Audiostockで楽曲の権利を買えば安心」と思われることが大事になります。

例えば結婚式場で新郎新婦の想いでの曲を流すことがあります、凄く素敵なことですが正直権利処理されていない怪しいものも多いと思います。ブライダル会社さんや式場側からすれば安心して流せるものを使ってほしい。コストを考えれば無料の音素材は安いけど権利関係どうなっているかわからなくて怖くて使えない方もいます。

音楽はとても身近であらゆる場所に使われるのに、著作権は「権利処理が面倒」「アーティストの許可が必要」、本当も嘘も交じって、うわさや誤解が流布していることも多い。みんなに著作権を正しく深く理解してもらうのも難しい。

Audiostockなら安心、と言える世界を実現すればこうした部分が解消されると思います。

2018年6月の音素材10万点突破と同じタイミングでサービス内のデザインをリニューアル。
ユーザーにとってよりわかりやすく使いやすい点を重視しているとのこと

――ほかに「Audiostockを通じてこういう世界を作りたい」と考えている事を教えてください。

「音楽を生み出す人たちをハッピーにする」が第一です。
音楽を作る人って、報われないことが多いじゃないですか、作品を発表する場が無かったり創作したものがお金にならなかったり。

音楽を作る人たちを盛り上げていけるようにするために、音楽を使用したい側とうまく繋ぐことを考える、Audiostockは素材とライセンスの流通でそれを実行しています。

音楽の作り手だけでなく、音楽コンテンツ全てに関わる人たちに便利なサービスを提供するかが大事です。そのために細かい工夫も繰り返しています、最初は無料で素材を提供して一度は使って頂くとか。

他にも「このゲームで使われました」など活用事例を紹介して、「あの会社も使っているプラットフォームなら安心だな」と身近に感じて頂いたり。

――素材を作ったクリエイター側も、自分の素材が使われたら嬉しいですよね。

最近その「クリエイターが何に喜びを感じるか」を考えていたのですが。
やはり「自分の作品が何に使われたかがわかる」ことが大きいと思いました。

使用料、印税の収入も大事です。
しかしそれ以上に、「僕の曲があの企業CMで使われた」「あのゲームで使われた」の体験は、みなさん一番感動するポイントなのだと。

自分の作品が世に出た、企業に認められてCMやゲームに使われた。それを聴いた人が「いい曲だ」と言っていた。そういうシーンをもっともっと増やしていきたいなと考えています。

これは「Audiostockに登録すると、何かCMやゲームに使われるチャンスになる」という期待にも繋がります。今後はもっとAudiostockへの登録がチャンスを掴む一歩になることをクリエイターの方に知って頂こうと考えています。

1人のクリエイターが曲を使われて喜んだ、その様子を見た別のクリエイターが「あいつの曲が使われたのか」と聞いて自分もやる気になる。そしてAudiostockにまたいい音楽が増えていく。

著作権のプラットフォームを通じて、こうした世界を実現したいですね。