Interview

M&Aを知っていても選択肢になっていない起業家が多い、pediaを通じて事業売却とシリアルアントレプレナーを増やしたい。 ―― TIGALA株式会社 正田圭

text by : 編集部
photo   : 編集部,TIGALA株式会社

M&AやIPOを経験したあと、更に別の会社を創業するシリアルアントレプレナー(連続起業家)
海外では珍しくなく、日本でもメルカリ創業者の山田進太郎さんなどが当てはまるが、未だ国内でその数は多くない。
M&A仲介事業を手掛け、昨年11月にベンチャーメディア「pedia」を買収したTIGALA株式会社は、2018年6月の資金調達・資本業務提携を契機に「M&Aプラットホーム」を構築しようとしている。
自身もM&Aを経験し、日本国内でのシリアルアントレプレナーを増やそうとする同社代表正田さんにお話を聞きました。


■M&A経験者と起業家コミュニティが連携した「M&Aプラットホーム pedia」


――まずは先日発表されていた資金調達、この背景を教えて頂けますでしょうか。

M&Aプラットホーム「pedia」構築のためです。
純粋な資金調達というより、資本業務提携の意味合いが大きいです。

今回大きく2つのポイントがあります。
1つめがデジタルガレージ系列のDGインキュベーションさんとの資本業務提携です。

彼らはシードアクセラレータープログラム「Open Network Lab(以下Onlab)」を長年運営しており、pediaとの業務提携によって対流層にいる起業家に向けたサービスの提供を考えています。

――「対流層にいる起業家さん」とは?

Onlabはしっかりと審査プロセスのある起業家コミュニティで、多くのベンチャー企業を輩出しましたが、一方で落選した企業さんの中にもその後飛躍的に伸びた企業があります。

ピッチコンテスト1発勝負で判断するだけでなく、対流層にいる起業家を丁寧に育てて面倒を見ることが出来れば、Onlabにもpediaのコミュニティにもメリットが大きいと考えました。

pediaは「メディアとコミュニティの理想的な関係性」がしっかり構築出来ていて、昨年11月の買収後にかなり成長していまやTIGALAにとっても主力事業になっています。

pediaはシリアルアントレプレナー(シリアルアントレプレナー)のためのメディア「pedia news」とコミュニティ「pedia salon」があり、ここにM&A機能が繋がるとシリアルアントレプレナーさんにとって理想的なピラミッド状態になると考えました。

――今回の大きな2つのポイント、もう1つはなんでしょうか?

今回の資金調達には8名の個人投資家さんがいますが、全員起業家としてM&Aを経験していることです。
起業家としてM&A経験のある投資家が、M&A仲介会社の株主となって応援する。

MUGENUPを売却した一岡さん、元リジョブ望月さんをはじめ、pediaを売却した鳥居さんなどが、pediaを通じてミレニアル世代の起業家にその知見や経験を提供してくれる、これは大きな価値です。

Pediaの事業譲受以前から「メディアとコミュニティは相性がいい」と分かっていましたが、一方でどのメディアもコミュニティやればうまくいくわけではありません。
読者層のエンゲージメントの高さが欠かせない、その点でpedia newsはメディアと読者とのエンゲージメントが高く、コミュニティを作りやすかったという嬉しい誤算がありました。

――僕も買収前からpedia newsを読んでいました。なぜ読者とのエンゲージメントが高い状態だったと思いますか?

ベンチャーの話題を取り上げるニュースメディアは他にもありますが、まず国内で著名なEast Venturesから生まれたメディアという「信頼感」。そして他のニュースメディアで取り上げてもらえない、起業から間もない会社も取材する「いい意味で敷居が低いメディア」。

過去に取材したベンチャーの方からの印象がとてもよかったんです。

「あの時、どこも取り上げてくれなかったけどpediaさんだけは丁寧に取材してくれた」
この「ありがとう」みたいな気持ちを抱えて接する方が多く、エンゲージメントの高さに繋がったと思います。

ベンチャー企業の最新動向だけでなく、起業家が参考になる記事が充実するpedia news

■漠然とM&Aを知っているけど、具体的には想像できていない起業家


――M&Aを仲介する立場として、起業家側に課題があるとしたらなんでしょうか?

そもそも「会社や事業は売却できる」の選択肢自体、想像できていない人の多さです。

「M&Aという選択肢があり、それは時に良い選択肢だ」というのをメディアを通じて世の中に啓蒙していかなければいけないな、と考えています。

メルカリ創業者の山田進太郎さんも、かつてM&Aを経験したシリアルアントレプレナーですよね。
ベンチャー企業のニュースでM&Aイグジットのニュースも見聞きする、なんとなく「売却」の選択肢があると知っているけど、具体的に想像できていない方がとても多いことは課題だと思います。

――仰られたように、ニュースメディアやベンチャー向けイベントなど、M&Aの話題は少なくないので、いま話されたような状態だと考えていることが意外でした。

恐らく啓蒙活動が必要なのは「具体的にどうすればM&Aできるのか」の部分です。

いま言われたとおり、何となくメディアやイベントで聞いたことあるけど、「自分にも可能なこと」のイメージが湧いていないので、具体的に考えていないし実際どうすれば売れるのかステップの進め方がわからない。

最近、IT起業家が芸能人と付き合うニュースが話題になりましたよね。
「うらやましいな」って思う起業家もいると思いますけど「具体的に自分がどうすれば芸能人と知り合って付き合えるのか」はわからないし考えていないと思います。M&Aの認識も近いのかなと。

結局、明日までに解決しなければならない課題ではないので、そのまま風化していく。

M&Aだけでなくファイナンスなど、リアルイベントも含めて体験できる「pedia salon」

――啓蒙活動はメディアを通じて、その先はどうお考えですか?

pedia salonコミュニティ内で継続的に学び、時にはコミュニティ内で実際の売却先を探すことをみんなで実践していくことが理想だと思います。

実際にいまpedia salon内はかなり実践的なものになっています。
例えば、pedia newsの取材記事もほぼライターが書いていません、pedia salonのメンバーが書いているんです。

pedia salonのメンバーはみな起業に向けて動いていて、各々学びたいテーマを持っています。
「食」をテーマに起業を考えているメンバーが、飲食業界でのM&A事例を見つけた場合、具体的な内容は本にもメディアの記事にも載っていない。そこでpedia newsの取材を通じて、話を聞きに行き、記事化するプロセスの中で深く知る。

勉強会というか、海外で言うところのPBL(プロジェクトラーニング)のコミュニティとして機能しています。
起業家の中でもM&Aについて「このタイミングでこう見せると、あのあたりの企業が買収する、むしろ買収せざるを得ない」のような戦略を練る人は少ないので、コミュニティ内でこうした学びを得る機会にもなります。

――「時にはコミュニティ内で実際の売却先を探す」と言われましたが、これはどういったものですか?

ここは、TIGALAで扱うM&A案件にもメリットがあると考えています。
普段TIGALAとしては10億円以下の案件は受けず、10~100億円あたりのM&A案件を扱うのですが、実際は事業を3億円で売りたい方もいます。

今までなら「すみませんTIGALAではその規模の案件は・・」と断っていましたが、これをpedia salonの中で調整できます。salon内で相談スレッドを立てて、メンバーみんなで意見を出し合う、時には僕もコメントしています。

「その条件についてはこっちから話さないほうがいい」とか、M&A実践者たちの濃い意見が集まって話が進み、結果的にコミュニティ内でやりとりしているだけで数億円のM&Aが完結できます。

するとこれまでTIGALAでお断りしていた案件も「10億円以下のM&A案件は、月1万円で相談に乗ることができます」と受け皿になります。

これまで手掛けていた10億~100億円サイズに加え、pedia salonで数千万~数億円のM&Aを高い付加価値で実行していく

■何度もバッターボックスに立ち、ヒットの打ち方がわかれば、ホームランも打てる


――最後に、起業家側ではなく仲介する立場におけるM&A事情について教えてください。

とにかく、案件は多いのに仲介業者のプレイヤーが不足しています。

銀行・証券系の仲介会社は300~400億円以上の大型案件ばかり、そして最近増えてきたオンライン上のM&Aプラットホームは数千万円規模の案件が多く、他の仲介会社さんも1~5億円案件がメイン。

10億円以上になると、案件はあるのに途端にプレイヤーがいなくなります。

――TIGALAがその位置にいると思いますが、他の企業はなぜやらないのですか?

大型案件ばかりを手掛ける会社さんにとっては手間が掛かるわりに儲けが少ないからだと思います。

一方で、10~100億円案件というものはそれなりに複雑な部分も多いです。
組織形態も単純ではないことも少なくありません。M&Aにおいても単なる株式譲渡だけでなく、事業売却のための組織再編が必要になります。

こういった案件は、普段は単純な株式譲渡を仲介する会社さんには難易度が高く荷が重いです。
このように、10〜100億レンジのM&A案件は、投資銀行にとっては小さ過ぎ、仲介会社にとっては大きすぎるといった状況なのです。

――そういった状況を今回の「M&Aプラットホームpedia」で解消して、起業やM&Aが普通の選択肢にしていく。

そうですね。
例えば、起業して5年経ち、起業家として多くの経験をし、事業が伸びて売上があがった。

しかしいくら起業家として多くの経験をしても、一度も事業売却したことがなければM&Aについてはずっと初心者マークです、一度でも経験する人が増えれば、M&Aに対する漠然としたネガティブな風潮や、需給バランスが良くなっていくと思います。

――M&Aを経験して、シリアルアントレプレナーとして成長する事業をいくつも創れるということは、ある意味「必ずヒットを打つイチロー」のような、すごいことだと思うんですけどね。

はい、バッターボックスに立ったら高確率で塁に出る、作った事業は+αの価値で売却できる。
何度も打席に立ってヒットの打ち方がわかってくるということは、世界的な事業いわば「ホームランを打つ確率」も上がると思います。

メルカリさんのように、シリアルアントレプレナーがユニコーン企業を生み出すというケースをもっと増やしたいですね。


正田 圭 (まさだ・けい)
15歳で起業。インターネット事業を売却後、M&Aサービスを展開。事業再生の計画策定や企業価値評価業務に従事。2011年にTIGALA株式会社を設立し代表取締役に就任。テクノロジーを用いてストラクチャードファイナンスや企業グループ内再編等の投資銀行サービスを提供することを目的とする。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)