2017.05.11 THU 「骨伝導イヤホンは、出来ないことを実現する技術をベースに、 世の中のニーズに応えた製品」boco株式会社
text by : | 編集部 |
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photo : | 編集部、boco株式会社 |
今年3月からクラウドファンディングをスタートしたとある製品が、6,000万円を超える資金を集め反響を呼んでいる。
キーワードは「鼓膜を使わない骨伝導イヤホン」このEarsOpenは、新しいリスニングスタイルの世界最小ハイレゾ級高音質イヤホン。その技術の未来像を、謝CEOと磯部COOに聞きました。
■クラウドファンディングで、意外なニーズや顧客層を発見
―創業から1年半経過し、いま改めてクラウドファンディングを実施した理由は?
磯部COO(以下磯部):元々、今年1月にウェアラブルEXPOに出展しそこで試作品の体験をしてもらい、3月からクラウドファンディングを実施するという計画で進めていました。
資金集めというより、プロモーション・マーケティング的な理由です。ですから5,000万円というのは実施前からクリアしたい1つの基準と考えていたので、理想的な流れだなと感じています。
―当初からこれくらいの規模を考えていたんですね
はい、ペースはわかりませんでしたがまず5,000万円はクリアして、確か国内ではまだ1億円集めたプロジェクトが無いはずなので、それくらいは目指したいという話をしていました。
―金額的な面もそうですが、予想外の反響や製品に対するニーズが見えたりしましたか?
謝CEO(以下謝):ありました。大きく3つの事が見えてきました。
1つ目は、購買された年齢層です。音楽用の製品で、且つクラウドファンディングという新しい手法でしたから、20代中心に若い人に反響があると予想してました。ですが実際には30代後半以降・40代の方が多かったです。
実はクラウドファンディング開始当初、こうした上の世代の方から「こんな風に安売りするのはやめなよ」等、否定的な意見も頂いてたので、上の世代は懐疑的だし買ってくれる人は若い人だろうなと思ってたんです。
2つ目は、この製品は聴覚に障害のある方向けのものでもありますが、従来の聴覚補助製品は障害を抱えている本人が買うのではなく、家族など周囲の方が買ってあげるという傾向がありました。しかし今回のクラウドファンディングでは「障害を抱えている本人」からの購入前の相談や、実際の購入が多かった。これも意外な発見です。
3つ目は、クラウドファンディングという手法の可能性です。1月にウェアラブルEXPOに出展した際、約1,500人の方に試聴頂いたのですが、プロジェクトが始まるとこの試聴した方が「あの製品だ!」と買って頂いたり、自発的にブログで取り上げて薦めていたり、こういう動きは予測していませんでした。
―どれも、当初の予想想定よりポジティブな発見ですね
はい、我々の製品は全ての音楽を聴く人、全ての聴覚補助を必要としている人をターゲットにしています。
本質的なテクノロジーをベースに、しっかりニーズに応えれば、既成概念を壊すことができる。という実感が湧きました。
■コア技術をベースに、その特性を活かした製品
―なぜ鼓膜を使わずに骨伝導、という技術を採用されたんでしょうか
磯部:創業当初から、僕たちの創業パートナーであるゴールデンダンス社が骨伝導に関する多くの技術を保有していました。これを小型化など改良し優れたデバイスにする過程の中で生まれました。
いわば、コンシューマー向けのリスニングスタイルを提示したのが、このEarsOpenです。
―先ほど体験させて頂いたんですが、耳の軟骨に当てる形ですよね
そうですね耳の穴を塞がないので、イヤホンから聞こえる音は骨を経由して届き、周囲の話し声を聞くときは通常どおり鼓膜を通じて、同時に聞こえます。
これはあくまで1つの使い方であって、コア技術は別の用途にも展開できます。
例えば、イヤホンに内蔵されているデバイスについても、僕らはデバイスメーカーでもあるので企業向けにはこのデバイスとアンプユニットを提供していきますが、EarsOpenはそれをコンシューマー向けに技術特性を活かしつつ、ニーズを満たし世の中に支持されるものとして自社製品化したものです。
別の切り口で、こういったものもあります。
このヘルメットを被ると、イヤホンをしていないのにトランシーバーの音が聞こえてくる
根底の仕組みはEarsOpenと同じデバイスです。
―工事現場などで作業員への指示に使うイメージでしょうか
はい、これは2つの利点があって、工事現場って周りが騒音だらけですが、それにかき消されずに確実に聞こえる。
もうひとつは、手で持つ必要がありません。作業で手がふさがっていてもトランシーバーを手で持って耳に当てる、といった動作が必要なくなります。
■骨伝導イヤホンは、IoTのセンシング技術でもある
―このヘルメットは、こちらから声を伝えることはできるんですか?
磯部:できます。この顔に当たる部分がピックアップになっているので、スピーカーの役割をして音を届けつつ、振動をマイクで拾ってこちらからの声を送ることもできる。骨の振動なので騒音にかき消されない。
―骨の振動を拾うセンサーみたいですね。
謝:そうです。根幹の技術はまさにそこです。振動のセンシング。
なので、この成長市場分類でいうとEarsOpenは【次世代音楽機器】になりますが、ベースとなる技術はある意味どこに含めたらいいか難しい。
【ウェアラブルデバイス】とも言えるし、【振動をセンシングする技術が活用されるすべての分野】ともいえる。
―振動を拾う、という意味では人体以外にも活用できそうですね
IoTのセンサーとして使えますし、小型化できているのでモバイル機器としても使えます。
EarsOpenもこのヘルメットも骨を介して人に音を届けたり伝えたりしてますが、人体以外でも振動するものであればそれを計測して届けることができます。
―世の中にある骨伝導イヤホンとは少し異なる印象です。
骨伝導を売りにしたイヤホンは既に色々と市場に出てますが、実は純粋に「骨伝導のみの技術」というのはほとんど無いんです。
空気の振動で鼓膜に届けるのと、骨伝導をハイブリッドでやっていたりするものが多いです。中には15年前からある技術と変わり映えしないものもあります。
―本当に骨伝導のみで音を届けるか、の違いがあるんですね。
磯部:はい、ただこれまでの常識では「イヤホン=耳の穴をふさぐもの」というものでしたから、耳を開けたまま聴く、という発想を広めてくれた存在として、僕たちもその恩恵を受けていると思います。
謝:僕らはよく「技術をベースにした」という表現を使います。ここが重要なポイントです。
骨伝導のみで高音質を届ける、という「出来ないことを実現した技術」が「ユーザーに受け入れられて、ニーズを満たしている」
この2点が重要であり、技術の本質ではないかと。
例えばダイソン社の各プロダクトはいま市場で流行していますが、あれは流行りに乗ったのではなく、やはり根底にあるのはダイソン社が「できないことを実現したテクノロジー」を提供し、その上でユーザーニーズを満たしているのだと思います。
■技術を磨く、人を幸せにする、何よりも楽しむ
―社員の方々はどういった経歴の人が多いですか
謝:いま常勤で13名いまして、入社経緯は様々ですが、元々国内大手のメーカーで音響技術の開発をされていた方々と縁があり、何名か一緒に働いています。
―なぜその人たちはboco社を選んだんでしょうか
彼らはやはり技術者ですから、テクノロジーに関わるものを仕事にしたい、という思いがまずあります。
そして僕らも、技術をベースにした事業展開で世界一の会社になるというビジョンがあります。
僕らの技術を評価してくれた、というのもあると思いますが。
―先ほど「縁があって」と言ってましたが、誘い文句のようなものは?
んー、定番の誘い文句、というのは無いです。一通り事業や技術の話をしたあと、「面白いでしょ?」と言うことは多いかもしれないです。
技術や事業の魅力も当然大事ですが、まず僕らが面白いことをやっている雰囲気が出ているか?が大事。「面白いよ、楽しいよ」、それは絶対に自信をもって伝えています。
―面白さ、楽しさ、とは
技術で人を驚かせたい、使ってくれた人を幸せにしたいという気持ちを大事にしながら
作る過程の中で、もっとこうしたほうがいいかも?世の中の人はこういうものを欲しいんじゃないか?と議論しながら活動できること、です。
―まず楽しめることが大事なんですね。
そうですね「やらなきゃ、作らなきゃ」だと気持ちも暗くなるじゃないですか。
最終的に完成しても、なんだか気持ちがきつくなる。
コア技術がしっかりあるので、これから入る方はこの技術をより高みに持っていくために
単に製品だけを作るだけじゃなくて、このデバイス技術を使ったらもっとこんなものを作れないかな?もしかしたらあの分野でも使えると思わない?と、そういう話できるかたと出会いたいなって思います。
―あれできないかなー、ってユーザーに近い目線ですね
まさしく今回クラウドファンディング実施後に頂いた反響の中で、支援してくれた人が「これいいなあ」「これって、こういう使い方もできそうだなあ」ってたくさん反応してくれたんです。
根底にあるのは「共感」です。使ってくれた人と同じことを感じながら、技術者は自分から関わって実現するために作り続ける。
■日本でモノを作ることの重要性
―日本国内のクラウドファンディングではトップクラスの反響を得ましたが、今後の展開はどのようにお考えですか?
謝:目標ではなくてイメージですが、このまま大きなトラブルが無ければ、5年先や8年先に1000億円規模の企業になるんじゃないかと思っています。
あくまでイメージです。目標で掲げているわけでは無いですし、こういったものは目標にしてはいけないと思います。
―目標にしてはいけない、というのは?
会社の規模は、会社として実現したいことにひたすら取り組んだ結果だと思うんです。
もちろん頑張らないとダメですけどね。企業規模は最初に掲げて目指すものではない。
近い話でいうなら、今年のうちに海外への展開に本格的に乗り出したいとかは検討しています。
―海外にもニーズがあると。
磯部:いま僕たちの製品は、日本中心で販売しています。
それは、「メイドインジャパンの製品なら、日本でまず売らなきゃ駄目だよね」という考えです。
ただ、僕たちの製品や技術が最も受け入れられるのは、日本以外の市場かもしれない。
謝:僕たちの製品は技術開発含めて、日本国内で完結しています。
日本でものを作ること、の重要性を感じながら、メイドインジャパンは世界で通用するということを実証していく、そのための海外展開は視野に入れています。
boco株式会社
代表取締役(CEO)謝 端明
コニカ株式会社(現コニカミノルタ)の生産技術研究センターで4年弱勤務した後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)等の経営コンサルティング会社でSCMや生産改革のプロジェクトマネジャーを歴任。日本の製造業を中心とする企業の経営改革・変革支援業務に従事。主な著書は「中国で企業を育てる秘訣」(共著・東洋経済)等。中国江南大学電気工学部卒・早稲田大学経営システム工学科修了(工学修士)。
取締役(COO)磯部 純一
大手証券会社勤務、起業を経て、1998年株式会社ツタヤオンライン設立に参加。その後、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)グループに所属し、グループ各社にて人事部門&経営企画部門を担当。2009年、株式会社masterpeaceを設立。2013年オンデマンド出版ソリューションgood.book(グーテンブック)の運営及びサービス提供スタート。2016年知的好奇心をくすぐる読み物サイトbiblion.jpスタート。青山学院大学理工学部経営工学科卒。
インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)
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