2015.10.07 WED 「土壌微生物・土壌生態系」市場とは?
text by : | 編集部 |
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photo : | shutterstock.com |
astavisionが企業・特許情報のビッグデータ分析により、今後成長が見込まれる市場を分類した「2025年の成長市場」。近日公開予定の「土壌微生物・土壌生態系」市場コンテンツについて、その一部をプレビューする。
農業や環境保全、生物多様性を考えるうえで、土壌微生物・土壌生態系は重要なテーマでありながら、未だ十分な知見が無いのが現状だ。1gの土壌中に棲息する微生物(細菌・藍藻・真菌・糸状菌・原生生物・線虫等)は1000種以上、個体数では数億とも数兆ともいわれる。しかも、未知の新種が多く、属レベルより細かな分類や、生物特性が明らかでない種も多い。また、土壌微生物の中には培養できないものが多く、極微量の微生物を分離することも難しい。
そのため、農地などの土壌評価の指標としては、微生物群の分類に基づく解析よりも、土壌全体の活性を評価する方法がとられることが多い。通常、化学性(pH、窒素、リン酸、カリ、ミネラル、腐植など)、物理性(粒状、堅さ、水はけ、水持ちなど)、生物性(微生物、ミミズや昆虫などの小動物など)の3つの視点で、総合評価するのだが、微生物の正確な数や分布を調べることが困難だったため、生物性の定量的評価がなされてこなかった。
この問題を解決するため、NARO(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構:農研機構)の横山和成研究員は、土壌微生物の多様性と有機物分解活性で評価する手法を編み出した。微生物ごとに分解吸収する栄養源が異なることに着目し、分解する有機物の種類と分解速度を、その土壌中に含まれる微生物の生物活性の代理指標としたものだ。
具体的には、土壌を溶液中に懸濁し、これを95種類の有機物を入れた小さなウェル(96穴プレートなど)に注入し、 懸濁液中の微生物群集が各有機物を分解していく過程を連続的に観測記録(表現型マイクロアレイ)し、微生物群集の有機物分解パターンの多様性とスピードを可視化することができる。現在、米国Biolog社製オムニログロボットシステムを利用し、約48時間で計測可能となっている。こうした定量解析から、微生物多様性が高いほど、土壌活性が高く、土壌活性が高いほど、農作物の病気が出にくいなどが明らかとなってきた。
一方、土壌微生物のDNA解析によるアプローチも進められている。土壌から直接、核酸を抽出し、PCR法で増幅の後、rDNA(ribosomal RNA遺伝子)断片を、電気泳動法により分離(DGGE法、T-RFLP法など)し、その泳動パターンを系統分析することで、土壌に含まれる微生物の群衆構造を明らかにしていくというものだ。rDNA は、細菌用には16S rDNA 、真核生物である糸状菌や線虫には18S rDNA を用いる。
NIAES(国立研究開発法人農業環境技術研究所)は、農水省委託プロジェクト「土壌微生物相の解明による土壌生物性の解析技術の開発」の研究成果の一環として、土壌から直接取り出した DNA (eDNA:environmental DNA) をDGGE法により解析して得た生物性情報と、土壌理化学性(物理性と化学性)の情報とを併せて蓄積し、2013年、「農耕地eDNAデータベース(eDDASs:eDNA Database for Agricultural Soils)」を公開した。 2014年1月現在、国内22県31地点、約3700件のPCR-DGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)による rDNA泳動パターン情報が登録されている。 DNA情報以外に、採取地、採取者名、土壌理化学性(炭素・窒素・可給体リン量等)、栽培条件(作物名、肥培管理)等必須38項目を含む全68項目の情報を登録でき、様々な要因間の関係も解析できる。2015年10月時点ではアップデート作業中だが、アーカイブをNBDCの「生命科学系データベース アーカイブ」上で公開している。
T-RFLP法による土壌生物群集の多様性解析や、土壌中のRNAの解析(生きている微生物の機能遺伝子情報)、長鎖DNA(微生物ゲノム)の解析なども行われており、次第に土壌微生物生態系についての治験が蓄積しつつある。これらの情報は極めて多種多数の微生物の群衆を見ているため、多変量解析のような統計分析手法によって、群構成とそこで栽培収穫される植物の生理・生態・品質等をデータマイニング的に扱うことが多い。
さらなるデータ蓄積により、低農薬で安全安心高品質な農業、環境異変にも比較的強く安定収量の見込める農業の実現に貢献するものと期待される。
近日公開予定の「土壌微生物・土壌生態系」市場コンテンツでは、この市場のグローバル市場規模や最新技術、活躍できる職種などを紹介する。
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