Interview

創業150年のイノベーション集団。伝統的に、革新的。 ——株式会社写真化学 北澤裕之

text by : 嶋崎真太郎
photo   : 嶋崎真太郎

写真化学の創業者「石田才次郎」さんは、銅板印刷技術や石版印刷技術を用いて、日本初の明治維新政府のお札を作り、明治時代に一番売れたたばこパッケージのデザインを手がけていました。時代が流れると、独自のエッジング技術を様々な大手企業に提供していたり、半導体洗浄技術を開発したりと、創業以来、時代時代の最先端を進む技術開発をしてきた写真化学。

2019年で創業150年という節目になる中、未来を創る新しい技術開発や、サービスの提供を継続的に推進しています。伝統ある企業だからと言って過去に依存せず、革新的な事業活動を展開する写真化学。経営戦略本部の北澤さんにお話を伺いました。


伝統的に、革新的。


意外なことをする、をずっと展開しているような会社です。

創業者である「石田才次郎」は銅板印刷技術や石版印刷技術の開発先駆者です。日本で初めてのお札を明治維新政府から依頼を受けて刷っていました。当時、明治初年度で印刷なんて日本でまだまだ木版でしかなかったのを微細な彫刻を施した非常に精度の高い印刷物を作ったっていうのがインパクトとしてはその時代としては非常に高かったかなと。その技術を受け継ぎ、今も印刷業をやっていますけど、非常に高精彩であったりとか美術系の印刷っていうところに強みを持つ会社でもあります。

お札がらみでいくと、今から3、40年前、アメリカのドル紙幣の鑑定を依頼されたりというのは実際にあったみたいです。1ドル紙幣なんですけど、その原版、まだカットしていないシート状のやつをお礼にもらったりとか。

技術力の高さは、昔から職人さんが当社にはいました。印刷技術というかエッジング技術に強みのある会社でした。テレビ用の撮像管、半導体の洗浄技術、カラーテレビの発祥に貢献していたり。非常に薄い金属の鉄板にマスクを切る技術や、非常に細い高精細のマスクを切る技術、高度経済成長期に様々な製品に私たちの技術が活用されていました。

他にも、世の中にまだインクジェットプリンターがなかった時代に、実は初号機を作っていたり。作るのが早すぎて当時は全く売れなかった、という経緯もあったりします。新しいモノ好きというか、角度を少し変えた技術の開発、製品の開発をやっている会社です。


写真化学が考えるイノベーター


写真化学の技術開発や新規事業は、自社の技術を活用しなきゃいけない。そんなルールはありません。シーズ起点で考えることもありますし、市場や未来の課題からアプローチすることもあります。外部のソリューションを活用することももちろんあります。絶対にこれはやったらダメ。なんていうのがないんですよね。未来を創造していくうえで、可能性があるものには挑戦できるというか。

(手を挙げた人間には、とんでもなくしんどい挑戦が待ってますけども。)

写真化学が考えるイノベーターとは、アベレージのレベルが高い人が求められます。どこかの領域スペシャリスト、だけだと逆に動けないということもしばしば。というのも、私たちがいま挑戦していることは、過去の経験だけでは乗り越えられない未知の領域でもあるので、幅広い可能性から発想を生み出したり、価値観を転換する力が求められます。

私たちの挑戦は、論理だけでは開発できないんですよ。時には既成の論理を打ち壊すような行動をしないといけない。技術開発というか、化学ですね。方程式から外れた時に新しい元素が発見された、みたいなイメージです。

発想は、科学。サイエンスのように、いろんなことチャレンジして欲しい。ここ変えて、ここも変えて、次から次に発想し、自分の発想を勇気を持って柔軟に転換、または破棄できる人。世の中にサービスを出して、すぐに真似されるようでは、意味がないんです。

発想と実行、どちらもルール通りにやるのでは未来を創っていくことはできません。

創業者が明治の最初のお札を刷ったというのも、印刷するところが一つしかなかった訳じゃないと思いますし、その中でもここっていうのは他と違う特殊なことやってるなっていう何かが伝わったと思うんですよね。目に止まる奇抜な、革新的な発想みたいなものが今の写真化学を作っているので、そこを共感できる人材を求めたいです。

石版印刷の原版。

「印刷×電子回路」プリンテッド・エレクトロニクス事業


いま私自身、最も注力している事業が、印刷の技術を使って半導体とか液晶用のデバイスを作るというプリンテッド・エレクトロニクスの開発に挑戦しています。誰でも印刷でできるんじゃないかと単純に考えたら考えられるんですけども、印刷っていうのは小さいドットの集まりで、人間の目は見えないから絵として認識していますけど、点の集まり、そこに色を変えて補完して人間の目には写っています。

電子デバイス向きというのが難しい点で、ひとつずつの線やパターンが、全部機能を果たさないといけないんです。配線だったら電気が通らないといけない、なおかつ抵抗制限があるとか、いろんな条件を備えたものを作らないといけない。というところで通常の印刷とは異なる、そういう意味で非常に難しい技術なんです。

その為に、数ミクロンの配線を作らないといけないんですけども、印刷で10ミクロンを切れるパターンが実現できるかどうかという領域なんですね。ただ、当社では3ミクロンの線を表現することができます。サイズ的にも今世界どこいっても我々がやっているくらいの高精細度を実現できる会社はないと自負しています。

この技術自体は、10年近く前から存在していますが、なかなか実用化できていない技術なんです。いまそれがグッと近づいてきている実感があります。プリンテッド・エレクトロニクスの技術が実現されると、業界の地図が変わってきますよ。

3ミクロンの回路基板印刷技術を持つ写真化学

「常識にとらわれない開発」が生み出した3ミクロンの世界


お話させていただいたように、3ミクロンの配線プリントができるのは、当社の技術力の高さを表現しています。展示会などに出展すると日本の企業様からは「なんでこんなんできるの?」「当社の技術ではここまでできない」「どうして?」という嬉しい疑問を持たれることが多いです。

さらに、海外の企業様にも「Excellent!」「Amazing!」という言葉をいただけるようになってきました。純粋に嬉しいですよね。技術の常識を超える開発に挑戦してきたことが、認められ始めています。だからこそ、「経験者」がいない。そこは当社の大きな課題でもあります。

プリンテッド・エレクトロニクスは、Webで検索してもらうと沢山出てくる既知の技術領域なのですが、3ミクロンの電子回路を印刷する技術は、未知の技術領域なんです。過去の技術開発の経験を元に、「ここはこうするべき」「ここのやり方はこう」という会話がどうしても出てきてしまいます。

でも、本当に新しいことをしようと思ったら、その常識を疑い、非常識なやり方をどうやって導入していくか。普通じゃ取り入れない考え方を導入し、発想を膨らませ、開発に盛り込んでいき、様々な技術要素を解き放つ必要があります。

できることをやるのではなく、どれだけ引き出しを持っているか。どれだけ要素のかけ算を繰り返すことができるのか。技術開発屋ではなく、研究や企画に近い発想がとても大事な事が我々が取り組んでいる新技術の開発です。


写真化学が挑戦する未来


何か新しいものにチャレンジする、チャレンジして開拓していくという思想を失わず、自社の技術活用だったり、マーケットの課題に対しての事業やビジネスアプローチをして行きたいですね。

「写真化学ってなんの会社なんですか。」って質問されるのは困るのですが、一言で理解されてしまう会社を目指す訳には行かない、というのが本音です。不確実な未来に向かって、事業や技術、サービスを開発していく訳ですから、なんの会社かわからなくても良いかなと。未来がどうなるかわかる人がいないのと同じです。

未来を創る為に、写真化学は進化し続けます。姿や形を変えていきながら。ただ、創業時から受け継がれる伝統的な軸はぶらさないでいたいと思ってます。

印刷の歴史を支えてきた写真化学の新技術が業界を変える。