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【講演】ビッグデータとIoT時代のデジタルヘルスケア~生体情報センシングの未来予想図~(抄録)

text by : 編集部
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IoT、ビッグデータ、人工知能という大きな技術潮流の前に、「デジタルヘルス」の未来において、国家が推進するデータヘルス計画と、主に民間で進められている生体情報センサのデータの相補的活用は必然と思われます。

5月19日、東京・新橋のSSKセミナールームにおいて、アスタミューゼ株式会社 テクノロジーインテリジェンス部長の川口伸明が登壇し、センシングデバイスのクラウド化&ユビキタス化、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・テレイグジスタンス(遠隔臨場)などの知覚制御技術との融合、知的エージェントの活躍、さらには分子ロボティクスなどのナノバイオテクノロジーまでに至るデジタルヘルスの未来について講演が行われました。

大手製薬企業や医療機器メーカー、化粧品メーカー、情報通信企業や商社などから多くのご参加をいただき、本分野への関心の高さがうかがえました。

その内容の一部をご紹介します。


 

■生体情報センシングとは:ウェアラブル、インプラント、据置型、ハンディ型、MEMS型…

生体情報センシングというと、Apple WatchやFit Bitといったデバイスを思い浮かべる方も多いと思いますが、ここでお話する内容は、視覚情報を使ったもの、VR・ARと関連するもの、3Dホログラム、3Dプリンタを医学応用したもの、人工知能による自動手術の試み、ナノテクノロジーを応用したインプラント型投薬技術など、分野を超えて多岐にわたっています。

 

■ウェアラブル生体情報センシングの実際

2009年にNICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)が実証試験を行ったユビキタス型心電計のように、ウェアラブル生体情報センサが患者・高齢者の見守りに威力を発揮する可能性が益々現実味を帯びてきました。

ウェアラブル機器が医療分野で活用されるためには、それらの機器からのデータを連続的に収集・解析して、即座に対処できる必要があり、それを実現しているのが「ボディエリアネットワーク(Body Area Network:BAN)」と呼ばれる技術です。

BAN技術には、「FeliCa」や「Bluetooth」などの近距離無線通信(NFC)、人体そのものを通信媒体として利用した「人体通信」(Transbody communication)などがあります。

BAN対応製品の例としては、NFC対応の血圧計や服薬履歴管理システムから、ピアノを弾く指の動きをモニタリングする「指の動きを可視化するグローブシステム」(ヤマハ)、錠剤に埋め込むことができ、患者が錠剤を飲むと、胃の内部で胃液と反応して電圧発生し、センサーに給電する「摂取可能なセンサチップ」(プロテウスデジタルヘルス社)などがあります。

ウェアラブルデバイスに限らず、スポーツやメンタルケア、睡眠障害の解析や動物医療、環境に至るまで、様々な分野で生体情報活用の可能性があります。

興味深い例では、2011年東北地方太平洋沖地震時の生体モニタリング記録例があります。地震発生の直前まではうたた寝をしていた被験者の心拍変動高周波領域(副交感神経活動を反映)が突然消え、以後、心拍変動低周波領域(交感神経活動を反映)の寄与が大きくなったことがわかり、安らぎの状態から不安/緊張状態への変調が可視化されました。普段、私たちが被災者の方々の心理的状態を直観的に理解することは難しいものですが、そういったことも可能になるかもしれません。

生体情報データでは、個々の数値がいくらということだけに注目するのでなく、普段からどういうパターンなのかを把握しておき、普段とは異なるパターンが現れた時に細心の注意を払うのが重要です。埋もれたデータの中に、注視すべきパラメータが見えてくるはずです。ただしデータの蓄積に関してはこれからの課題と言えるでしょう。

 

■デジタルヘルスケアと医療ビッグデータ:2025年問題を見据えて

団塊の世代が75歳を迎える2025年の日本には、65歳以上の高齢者が全人口の30.3パーセントに達する超高齢社会が到来するという「2025年問題」があります。

これにより医療費の問題が深刻化すると見込まれることを受けて、厚生労働省は2015年度より、全健康保険組合(国保・後期高齢者医療制度含む)にデータヘルス計画の作成と実施を義務付けました。

データヘルスとは、各健保組合が保有するレセプト(診療報酬明細書)や特定健診等から得られるデータの分析に基づき、PDCAサイクルによる効率的・効果的な保険事業を実践する取り組みをいいます。平成27年4月現在、件数ベースで98.1%のレセプトが電子化され、73.4%はオンライン請求されています。

2025年問題を見据え、レセプト情報から重症化の可能性がある患者を早期発見することが重要になってきています。要注意が指摘されていながら、対策をとっていないがために症状が進行している患者が多数存在していますが、わかりやすいのが、いわゆる「メタボ予備軍」です。健保組合で個人を特定し、追跡調査すれば、そのような人々を集めてフィットネスクラブなどで改善を図る、といった「介入プログラム」の立案が可能となります。

今後は成人病だけではなく精神疾患や認知症なども含めて扱っていく可能性があると思われますが、メタボに対するフィットネスクラブのように、わかりやすいコンテンツ、ソリューションがないため、新たなメソッドの開拓が急務です。

主な医療ビッグデータとしては、厚生労働省が電子化レセプトによりオンライン請求されたレセプトデータと特定健診・特定保健指導データに「匿名化処理」を施した「ナショナルデータベース(NDB)」、民間のMDV(メディカル・データ・ビジョン株式会社)、(株)医療データセンター(JMDC)によるレセプト系データベースのほか、一般外科医の手術情報であるNCD(National Clinical Databese)などの非レセプト系データベースもあります。

医療ビッグデータを利用した研究の現状ですが、厚労省は2014・15・16年度に医療ビッグデータを用いた戦略研究を6件採択しています。そのなかには、地域包括ケアや高齢者医療に重点を置いた研究や、がん・脳卒中等に焦点を当てた研究などが見られます。

このように医療ビッグデータに注目と期待が高まる一方、データヘルスは電子化されたレセプトや特定健診のデータに依存しているため、受診していなければ、そもそもデータは存在しません。普段健康と感じている人ほど、医療情報が少なく、緊急時の履歴や参照情報が乏しい、ということになります。
そこで、生体情報センシングによる生体データの日常的・継続的な取得が重要となってきます。

折しも、株式会社UBICの人工知能による電子カルテ解析システム、日立グループやソネット社の「地域包括ケア支援システム」「多職種連携支援システム」、(株)オプティム&MRT(株)のスマホ・タブレットによる遠隔診療サービス「ポケットドクター」、日立のクラウド型「疲労・ストレス検診システム」など、医療ビッグデータを補完するように、デジタルヘルスケアを支援する様々な製品・サービスが出てきました。

(中略)

■生体情報センシング 32事例

■改正薬事法(薬機法)のポイント:単体プログラムの医療機器化に注目

■生体情報の活用技術:生体認証(バイオメトリクス認証)技術

(中略ここまで)

 

大手製薬企業や医療機器メーカー、化粧品メーカー、情報通信企業や商社などから多くのご参加をいただき、講演終了後は熱心な質問が相次ぎました。

大手製薬企業や医療機器メーカー、化粧品メーカー、情報通信企業や商社などから多くのご参加をいただき、講演終了後は熱心な質問が相次ぎました。

 

■近未来の生体情報解析の展望

fMRIによる脳機能の解明が進み、脳内で言葉を発したときに、脳内のどの部位が活動しているのかをマップ化することが可能になりました。ATR・東京大・昭和大のチームは、fMRIを使った計測により、他人との円滑な意思疎通が苦手な「自閉スペクトラム症」(ASD)の人を高い確率で見分ける手法を発見しています。

VR(仮想現実)/AR(拡張現実)技術は教育研修や患者へのインフォームドコンセント、カンファレンス等での情報共有などに有用で、高精細な画像診断データ、時系列・多視点・多パラメータ、質感・力覚伝送が重要になっています。
FORUM8社の血管シミュレータでは、血管の内部の流れをVR空間で再現することで、赤血球の一つ一つが血管内を流れていく様子を確認することができます。

さらに、遠隔手術のように、テレイグジスタンスを自在に操るには、遠隔地のアバターにおいて、自己の立ち位置の自然な認識(自己定位)の確立が極めて重要です。弊社独自の科研費分析により、こうした課題に対する基礎研究が慶應義塾大学などで進んでいることも確認されました。

また、「モノの人工知能化」(AIoT)とでもいうべき傾向も見られ、シャープ社は「RoBoHoN」を「コミュニケーションロボットではなく、音声入力で完結できるロボット電話」と位置付けています。

(中略)

Deep Learning(DL:深層学習)が最も成功した分野のひとつである「画像中の物体認識」において、2015年2月に米マイクロソフトがエラー率4.9パーセント、同3月に米グーグルが4.82パーセントを記録しました。人間の標準的なエラー率は5.1パーセントであり、DLの画像認識精度は人間のそれを超えたということになります。シンギュラリティは部分的にはすでに起きているといえるでしょう。

(中略)

■生体情報 関連知財母集団(数万件)ならびに以下抽出技術群(数百件―数千件)の俯瞰分析(統計解析による優位性技術・重要プレイヤーの抽出など)
・活動量 関連技術群
・体動 関連技術群
・血圧 関連技術群
・心電(ECG)関連技術群
・睡眠覚醒 関連技術群
・癌 関連技術群
・脳波・脳活動 関連技術群
・VR(仮想現実)・AR(拡張現実)関連技術群
・スマートスポーツ・インテリジェントスポーツ 関連技術群
・超音波イメージング 関連技術群
・がんイメージング 関連技術群(外国特許分析例として)

■査読による重要特許抽出例
・脳波を応用したシステム制御技術
・超音波イメージング診断&治療システム

■弊社独自データベースを用いた各種分析事例
・既存市場の新技術開発のための技術・知財の権利状況の把握
・3Dプリンタの医学応用における新規出願可能領域の探索
・「ナノ光学・プラズモニクス・近接場光・エバネッセント波」技術を活用した製品化仮説
・「五感の応用・人工感覚」技術を活用した製品化仮説
・「介護/生活支援ロボット」市場の製品・サービスのアイデア探索
・「人工筋肉/ソフトアクチュエータ」市場のベンチャー企業探索
・自社技術/知財の事業化可能性診断による新規テーマ探索
・高度技術を活かした新規事業のためのテーマ探索

■短期・中期での飛躍的成長のための新規事業開発に必要な4つの視点(弊社コアコンピタンス領域)

(中略ここまで)

 

■デジタルヘルスケアの未来

デジタルヘルスケアの分野で今後起こり得ることをフェーズごとにまとめると、このようになると考えています。

●直近5年間
1. レセプトデータ(健保/NDB/民間DB)
2. 電子カルテ/遠隔画像診断
(中略)

●5-10年後の近々未来
・脳神経系活動のセンシング(脳波/心電/fMRI..) → 感覚系疾患、神経変性疾患
(中略)

●10-20年後の近未来
・脳高次機能(感覚・思考・コミュニケーション)の可視化 → 障碍の克服
(中略)

●20年後?の未来
(中略)
・生体情報研究の究極の目標は、「ヒトとは何か?ヒトはどこに行くのか?」を問うこと?


 

【川口伸明 プロフィール】
アスタミューゼ株式会社 テクノロジーインテリジェンス部長
東京大学大学院薬学系研究科修了、薬学博士(分子生物学・発生細胞化学)
元国連グローバルフォーラム(The Global Forum of Spiritual and Parliamentary Leaders on Human Survival、ゴルバチョフ元ソ連大統領、アル・ゴア元米副大統領、故カール・セイガン博士などが参加)日本事務所長代行として、地球環境問題を文明的視座で探究、科学技術の社会的意義に関心を持つ。
その後、株式会社アイ・ピー・ビー(Intellectual Property Bank)取締役技術情報本部長、Chief Science Officerなどを歴任、優れた技術シーズを発掘するため、世界初の知財の多変量解析システム構築や知財ファンド設立、バイオやナノテク分野、エコメカニカル分野はじめ、シード段階のベンチャーへの投資育成・事業プロデュースなどに関わる。
現在、アスタミューゼ株式会社において、技術情報・市場情報・ソーシャル情報を統合した事業戦略策定、広範な分野における技術・知財戦略コンサルティング、オープンイノベーション・新規事業開発の支援、科学技術系コラムの執筆などに注力。
また、本来の専門領域である発生細胞化学の知見に基づき、ハーバード大学BWH准教授らの再生医学・生体イメージング研究チームのアドバイザを務める。

 

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