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温暖化抑制に期待! CO2削減に直結する「13の次世代技術」と注目スタートアップ・ベンチャー企業

text by : 編集部

温暖化や気候変動は農作物や水資源、インフラなどに影響を及ぼし、私たちの日常生活を脅かすだけでなく、経済への影響、企業の事業活動にとっても予測できない大きな悪影響を及ぼす要素の一つとなりつつあります。そのため、温暖化や気候変動などの社会課題にどう向き合い、どう解決していくのかは世界的な喫緊の課題であり、企業経営に対しても大きなイノベーションが求められています。

そんな中、先端技術で気候変動に取り組むスタートアップ・ベンチャー企業も多数生まれ、資金調達を実施しています。しかしこの領域は、政策やインフラとも強く関係するビジネスが多いため、長い時間をかけた事業継続が必要であり、成功までに大きな投資を必要とします。そのため、世界最大規模の太陽熱発電プラントの建設で話題になったSolarReserve社の事業終了など、世界中から期待されていた企業であってもクリーンテック領域での事業確立は容易ではない状況で、この領域で沢山の会社が設立されている一方、沢山の会社が事業継続できずに廃業しています。

このたびアスタミューゼでは、2020年6月に公開した分析レポート「新型コロナウィルスの影響で温室効果ガスの排出が減少 ~各産業の変化による温暖化・気候変動への影響とは~」と、アスタミューゼ独自の世界中のベンチャー企業のデータベースを元に、温室効果ガス削減に直結する主な次世代技術13と、それぞれの技術領域で最先端の取り組みを行っているスタートアップ・ベンチャー企業をピックアップ致しました。

環境と経済性と両立しながら温室効果ガスを削減するための次世代技術を、CO2排出の主な原因別に、①発電、②基礎素材の製造、③乗用車等での走行・運行に関する取組みと、④排出されたCO2を環境に負荷を掛けない形で除去するイノベーションへの取組みに分けご紹介します。

CO2排出の主因①「発電」に関する次世代技術

燃焼時に多くのCO2を生み出す化石燃料を用いた発電方法ではなく、化石燃料を使用しない/使用量の少ない発電方法を用いた新たな発電手段の確立を目指すスタートアップ・ベンチャー企業が多く登場しています。

 

【太陽光発電・太陽電池・人口光合成】

・関連ベンチャー企業数:約600社

・合計資金調達額:約4,800million USD

・ベンチャー企業例:Zola Electric(タンザニア,累計資金調達額240 million USD)

https://zolaelectric.com/

人口の80%以上が電力へのアクセスがないタンザニアにおいて、家庭向けのクリーンな太陽光エネルギーを、初期費用なく使用量に応じたプリペイド方式で提供するベンチャー企業。同地域での将来的な化石燃料由来の電力消費抑制に成功していることに加えて、非電化地域で燃料として現在使われている灯油の使用を推定500万リットル以上削減したとされ、温室効果ガス削減へのインパクトが非常に大きい事業として注目されている。

 

【風力発電】

・関連ベンチャー企業数:約300社

・合計資金調達額:約4,100million USD

・ベンチャー企業例:Mytrah Energy (インド、累計資金調達額600million USD)

http://www.mytrah.com/

Mytrah Energyはインドでの風力発電に取り組むベンチャー企業。インドの6州において合計500MW以上の風力を発電している。メリルリンチ、ゴールドマンサックス等の大手の投資銀行、アジア開発銀行(ADB)などから巨額の投資を受け風力発電プラントを設立しており、約15のエネルギープラントを所有・運用している。迅速な調査と立ち上げにより、プロジェクト着手から6か月での稼働を可能としている。

 

【太陽熱発電】

・関連ベンチャー企業数:約100社

・合計資金調達額:約2,000million USD

・ベンチャー企業例:SunOyster (ドイツ、金調達額1million USD)

https://www.sunoyster.com/

同社の技術を用いると、競合製品よりも高効率な最大75%の変換率で、太陽放射を電気と熱の両方に変換できるとされる。SunOysterのコア技術は、窒素で満たされたホウケイ酸ガラス管で保護されたハイブリッド受光部で、チューブ内に配置した特殊なガラスレンズにより太陽光を500倍に集光し、効率的に太陽光エネルギーを変換する。またこれにより東から西まで一日中自動的に太陽光を追尾するSunOysterの独自の制御システムにより効率的な角度を維持するとともに、オンラインで監視でき顧客に携帯電話でエネルギー生成状況を知らせる。

 

【地熱発電】

・関連ベンチャー企業数:約100社

・合計資金調達額:約1,700million USD

・ベンチャー企業例:Fervo Energy (アメリカ,累計資金調達額11 million USD)

https://www.fervoenergy.com/

Fervo Energyは、独自の水平掘削と分布型光ファイバーセンシングによるリアルタイムフロー制御技術等を応用し、従来の数倍のコスト効率での地熱発電プラントの開発を行うベンチャー企業。技術の確立に成功すれば、Fervoの技術は、米国西部、東南アジア、東アフリカ、中南米などの地熱資源を持つ地域で、安定性が高く低コストな再生エネルギー開発が可能になる。ビルゲイツ氏のブレイクスルーエナジーベンチャーズは、2018年に同社に投資を実行。

 

【バイオマス発電・バイオ燃料】

・関連ベンチャー企業数:約400社

・合計資金調達額:約5,100million USD

・ベンチャー企業例:InEnTec (アメリカ、累計資金調達額5million USD)

http://www.inentec.com/

農産廃棄物をガス化する技術を持つアメリカのベンチャー企業。同社の開発するプラズマ強化メルター(PEM)は、ガスプラズマの加熱により有害廃棄物、医療廃棄物、産業廃棄物、廃タイヤ等を元素成分(水素、炭素、酸素など)に分解し、エネルギー産業の基本構成要素の合成ガス(シンガス)に変換する。PEMシステムは、低環境負荷で、有害物質をほぼ完全に破壊し、大容量処理を可能とする循環型社会への廃棄物処理技術として期待されている。

 

【スマートグリッド・HEMS】

・関連ベンチャー企業数:約100社

・合計資金調達額:約400million USD

・ベンチャー企業例:Power Ledger(オーストラリア、累計資金調達額35million USD)

https://www.powerledger.io/

ブロックチェーン技術を活用した、電力のP2P取引プラットフォームを展開するオーストラリア発のベンチャー。ユーザーが、太陽光発電や風力発電等どういったエネルギーミックスで電気を使用するか選べる仕組みを取り入れている。フランスやドイツ、アメリカ等の多くの国の電力事業者と協業し、各企業の顧客が同社のプラットフォームにアクセス可能。

 

【海洋エネルギー発電】

・関連ベンチャー企業数:約20社

・合計資金調達額:約200million USD

・ベンチャー企業例:Minesto (スウェーデン,累計資金調達額46 million USD)

https://minesto.com/

主要な再生可能エネルギーである風力や太陽光と比して安定性、予測可能性の高い「海流」に着目したスウェーデンのエネルギーベンチャー企業。同社は「Deep Green」という水深100m程度の海中で運用される凧に似た発電装置を開発。この装置は、海中で弧を描くようにタービンを動かして電力を生み出すことが可能。2018年に北ウェールズ沖で行われた実証実験で、穏やかな海流からの発電に成功し、現在は商用化の範囲拡大に向けた更なるプロダクトの改良を進めている。

【核融合】

・関連ベンチャー企業数:約10社未満

・合計資金調達額:約100million USD

・ベンチャー企業例:General fusion (カナダ,累計資金調達額192 million USD)

https://generalfusion.com/

ジェフベゾス氏などが投資する、核融合による発電技術確立を目指すカナダのベンチャー企業。核融合プラズマの閉じ込め方法としてレーザーによる慣性閉じ込めと磁気閉じ込めが中心的であるのに対し、液体金属をピストンで圧縮するシンプルな方法でプラズマを閉じ込め、同時にこの液体金属を核融合で発生した熱を取り出す熱媒体として使用する。シミュレーション上でのアイデアを実証する資金を調達し、2025年を目途にプロトタイプの完成を目指し研究を進めている。

CO2排出の主因②基礎素材の製造に関する次世代技術

一部の金属やセメント、化学素材などの基礎素材製造時には、製造プロセスで使用する化石燃料の燃焼からのみならず、製造時の化学反応によって温室効果ガスを発生するものも多く存在します。一部のスタートアップ・ベンチャー企業は、そのような素材を代替する環境に優しい新たな素材の開発を目指し日々研究を進めています。

【天然素材・生物材料工学】

・関連ベンチャー企業数:約300社

・合計資金調達額:約2,400million USD

・ベンチャー企業例:RWDC Industries(シンガポール,累計資金調達額168 million USD)

https://www.rwdc-industries.com/

生分解性プラスチックを開発する素材ベンチャー。同社は植物由来の油または糖類を微生物発酵させることで生成される生分解性バイオプラスチック「PHA」をはじめとした新素材を開発している。同製品は、現在主に使用済の食用油から製造されており、土壌、水、海洋環境で完全に生分解可能であることがオーストラリアの認証機関により証明されている。温室効果ガス削減効果のあるプラスチックの代替素材として注目を集めている。

 

 

■CO2排出の主因③乗用車等での走行・運行に関する次世代技術

自家用車や航空機、船舶等での人・モノの移動の際、化石燃料を燃料として使用すると、多くの温室効果ガスを排出します。その排出量をゼロに、ないしは削減するような新たな移動手段についても世界中で開発が進んでいます。

 

【燃料電池自動車・水素自動車】

・関連ベンチャー企業数:約50社

・合計資金調達額:約200million USD

・ベンチャー企業例 :FirstElement Fuel(アメリカ,累計資金調達額24 million USD)

https://www.firstelementfuel.com/

水素を燃料とする燃料電池車のグローバル主要市場の一つであるカリフォルニア周辺地域にて、約20ヵ所の水素ステーションを運営。各国で水素自動車の開発が進む中、水素ステーションの拡充が水素自動車普及に向けた課題となっており、同社はその解決を狙っている。2016年1月にステーション第1号をオープンしてから、30万回以上の燃料補給、6500万マイル以上走行距離を代替、温室効果ガス(CO2換算)4100万ポンド以上の排出を削減したとされる。

 

【電気/ハイブリッド自動車】

・関連ベンチャー企業数:約400社

・合計資金調達額:約23,300million USD

・ベンチャー企業例:Hyliion(アメリカ,累計資金調達額29 million USD)

https://www.hyliion.com/

商用大型トラック向けの電動パワートレインソリューションを提供するアメリカのベンチャー。同社の戦略として、テスラのような完成車メーカーではなく、既存のトラックメーカーにパワートレインを提供することによる地位確立を目指しており、2020年6月には完全電動のパワートレインHypertruck Electric Range Extender(ERX)をリリース。グローバル大手物流のAgilityが1000台の事前発注を行ったことが話題となった。

 

【交通/物流IoT 】

・関連ベンチャー企業数:約300社

・合計資金調達額:約2,300million USD

・ベンチャー企業例:cargo X(ブラジル,累計資金調達額258 million USD)

https://cargox.com.br/

トラック市場のUberとして知られるブラジル発の物流ベンチャー。ブラジルの物流業界には、電子化の進んでいない非効率的な受発注構造等の理由で、貨物運送後の帰路等、走行時間の多くで貨物を載せずしてトラックが運行されているという課題が存在していた。同社はWebプラットフォームによる荷主と運送業者のマッチングを用い、より効率的な多くの貨物運送による業者の収益向上を実現するとともに、貨物を載せない無駄な走行の削減によるCO2排出削減にも繋がっている。現在40万人以上のドライバーがプラットフォームを利用中。

 

■④排出されたCO2を環境に負荷を掛けない形で除去する次世代技術

ここまでの次世代クリーン技術の方向性とは全く異なるアプローチで、事業活動におけるCO2の排出そのものを削減するのではなく、排出されたCO2を環境に負荷を掛けない形で除去する次世代技術についても開発が進んでいます。

 

【CO2分離/回収・地下海底貯留】

・関連ベンチャー企業数:約20社

・合計資金調達額:約800million USD

・ベンチャー企業例 Carbon Clean Solutions(イギリス,累計資金調達額56 million USD)

https://carboncleansolutions.com/

発電所や産業プラントで排出されるCO2の分離・回収技術の開発を行うベンチャー企業。回収したCO2を化学製品の原料として使用・販売できること、またCO2回収に使用する新規回収溶剤を自社開発し、従来 の回収溶剤より高効率・低価格での CO2 回収を可能としている点が特徴。特に鉄鋼、セメント、廃棄物管理、石油化学等の重工業施設から発生する二酸化炭素の処理に注力しており、2020年には丸紅を含むイギリス国外の投資家を中心とし、22million USDの資金調達を行った。

 

ここまで多くのクリーンテック企業を紹介してきました。

喫緊の世界的社会課題を解決するため、これらの領域での成功企業の登場が待ち望まれているものの、冒頭にも述べたように経済性と温室効果ガスの削減効果の両立のため、多くの時間と費用が掛かる領域であり、依然として資金調達や研究開発に対して問題に直面しているスタートアップ・ベンチャー企業が多く存在します。クリーンテック領域での事業確立は容易ではありませんが、公的機関に頼らない民間での資金調達やビジネス協業の更なる拡大が少しずつ進んできており、テスラ社等に続く成功事例の出現だけでなく、アマゾン社が立ち上げた2000億円の気候変動対策に特化した「Climate Pledge(気候公約) Fund」など、クリーンテック領域へのさらなる投資が期待されています。

新型コロナウィルスの影響で温室効果ガスの排出が減少 ~各産業の変化による温暖化・気候変動への影響とは~