Interview

「StartupList」で、研究開発系の起業家、学生起業家、地方の起業家にもっと投資家との出会いを提供したい ――プロトスター COO 栗島祐介

text by : 編集部
photo   : 編集部,プロトスター株式会社

リリースからわずか3か月、国内の起業家・投資家がこぞって利用し始めているサービスがある。
日本版AngelListともいえる起業家と投資家の検索サービス「StartupList(スタートアップリスト)」。起業家コミュニティ「StarBurst」で培ったネットワークを活用し、サービス内では日に日に起業家と投資家のコンタクトが増えている。
昨年9月にインタビューした栗島さん
に、改めてStartupListリリースの背景や今後についてお伺いしました。


■国の大きなお金の流れから、スタートアップエコシステムにお金を流す「用水路」が必要だと感じた。


――今年Startuplistを開始した背景を教えてください。

一言でいえば起業家コミュニティ「StarBurst」で僕がやっていたことのオンライン化です。

起業家から事業についてヒアリングし、適切な投資家をリストアップして個別に連絡して繋ぎまくる。ただ、最近は起業家も投資家も増えてきて、得意なことや出来る事が多様化し、以前にもまして起業家・投資家ともに比較検討が難しい状況になっていました。

ここを整備しないとお金の流れが最適化しないと考えて、Startuplistを作りました。

――お金の流れが最適化しない、とは?

アメリカや中国では大きなお金の流れの中にスタートアップエコシステムが作られていますが、日本は個人資産1,800兆円ある国なのに、ベンチャーキャピタル(以下、VC)が必死にお金をすくいあげてバラ撒いているような状態です。

もうそういう時代ではなく、「(お金の)用水路」が必要だと。
産業システムとして成熟するために、まずはお金の流れが最適化するような用水路を作るイメージで、WEBサービスとしてリリースしました。

投資家・起業家共に国内に増えているが、知名度・実績のあるTopTierにばかり情報が集まり、ノウハウが溜まる。
新陳代謝が生まれず淘汰されない村社会状態を改善するという想いもStartupListには込められている。

――サービス開始から約2か月ですが、現在の利用状況を教えてください。

当初の計画より調子よくサービスが成長しています。
現時点で国内の主要投資家の約4割、起業家はシード・アーリーステージ期のうち約2割の方に登録頂いています。

当初は「サービス開始から半年で、過半数のシェアを取れれば」と考えていましたが、もう少し早いペースで進んでいると思います。

これまであまり存在が知られず、なかなかチャンスを掴めなかった起業家に多くの投資家からコンタクトオファーが発生したり、知名度の高くないVCや投資会社さんが多くの投資候補先を見つけることが出来ています。

――その「これまでなかなか機会が得られなかった」人は、なぜStartuplistの中で多くオファーがもらえているのでしょうか?

ただ埋もれている才能がいっぱいいたのではないかと思います。

シリアルアントレプレナーや従来のスタートアップ村に属していた方であれば、ネットワークを生かして機会を得ることもできましたが、最近ではスタートアップ村とは距離のある大企業のエース級な人材の起業家も相当数増えており、その影響ではないかと思います。

また、投資家サイドの話ですが「貢献できている人」は知名度に関わらず注目されています。

起業家の良き壁打ち相手になっている、営業先を繋いであげる、ハンズオン型の投資かどうかではなく、本質的に「相手に貢献している投資家」実際Startuplist内の検索ランキングでも、投資先にアクティブに貢献している投資家はどんどん伸びています。

恐らく、起業家同士のネットワークも強いので、こうした「貢献する投資家」について口コミが起きているようです。その人がStartuplistに登録していると、面識がなくても連絡しやすくなる、という状況です。

3月にオープンしたStartupListはサービス内でのコンタクトオファー数も急激に伸びている。
ブログでは頻繁にサービスの機能実装や新規登録された起業家・投資家の情報を発信している。

■研究開発からの起業、学生起業家、地方の起業家への貢献


――サービスが順調に伸びつつ「もっとこういう人にstartuplistを活用してほしい!」と思うことはありますか?

「研究開発型などのハードな領域」「学生起業家」「地方の起業家」の3つです。

研究開発型のスタートアップに挑む人、それを支援する投資家はあまりオンラインで効果的にリーチできていなかったり、知られていないことが多いので、ぜひStartuplistを活用してほしいです。

StarBurstのコミュニティを通じて、研究開発型のスタートアップがなかなか出てこないこと、起業後も大変なことを知っていますし、「新しい技術で世の中を変える」ことは本当に価値があることなので、そこにお金の流れの部分で貢献したいです。

――「学生」と「地方」というのは?

最近の学生起業家って、本当に優秀な子たちが多いんですよ。
高い教養もあり、深い思考で事業を回していて、もう大学行く必要のないレベルの子や、高校から起業している子も珍しくなくなってきました。

でも、起業家としては初心者です。
周りに悪い大人がいて、それに足元を救われるような投資話もあるので、もっとStartuplistでフラットに比較検討できる形で登録・活用してほしいなと考えています。

東京大学共創プラットフォーム株式会社さんや、京都大学イノベーションキャピタルさんには登録頂いていますが、まだまだ大学系の投資会社さんは少ないので、もっと登録して頂きたいなと。


検索とコンタクト、シンプルな機能の中で1つの特徴が「お墨つき」の機能。簡単に押せる「いいね」ではなく、言葉的にハードルが高く1度会って相手を認めないと押せないボタンにすることで「誰からお墨付きがついているか」が重視された情報となる。

――フラットに比較検討、と同じ理由で3つ目の「地方のベンチャー」にも利用してほしい?

そうですね。
とくに地方は情報格差が広く、資金調達したくても投資家にリーチが出来ない話をよく聞きます。

でも、とてもいいベンチャー企業もたくさんいます。
最近は地方にも、地方銀行系のVCがあるのですが、あまりシード投資が出来ていません。

理由としてはシード期の起業家に対してこれから資金調達をして検証をしていくべき数字やトラクション(顧客)の実績を求めてしまい、「いい投資先がないのでシード投資が進まない」という堂々巡りの状態が発生しています

――そこのシード投資を受けるためにStartuplist活用

はい、地方でも最初のお金さえ供給されればまず起業家の種が育ちます。お金の供給がなければ種が育たない不毛な地帯のまま。
最初のシード資金でプロダクトを作って、うまく事業が伸びて次のファイナンスを考えた時に地元の地銀系VCが入る、という流れも出来ますよね。

仮に事業が伸びずとも、スタートアップを経験して挑戦する人が増えれば、その地元に人材が残ります。そのスタートアップで働いていた人が次の起業家、創業メンバーになります。その結果、その土地に起業環境という土壌が出来る。

地方に限らず「大学や研究領域」も「学生」も同様です、挑戦する土壌があって、起業家という種があり、投資の支援という水があれば色々な産業が育つ。その中でも最初のきっかけはお金の流れが肝となる。Startuplistはそのグランドデザインをする役割だと思っています。

リリースから3か月、最低限の機能に絞っているが、リリース当初無かった投資家検索画面を素早く実装するなど
「StartupListの開発自体がリーンスタートアップ(栗島さん)」というスタイルで開発が続けられている。

■起業家も投資家も、フラットで透明性のある評価の中で出会うのが理想。


――先ほど「投資家が増えてきた」「悪い投資話を持ち掛ける人もいる」と言ってましたが、startuplist内でのスクリーニングなどはどうされていますか?

正直、投資家サイドはかなりスクリーニングしています。
約1,500アカウント登録頂いてますが、入力終わった人たちの中でも怪しいと判断した場合は承認せずに止めています。

例えば、個人投資家でスタートアップ投資経験が無い方。
そもそもスタートアップとのコミュニケーションの仕方が分かっておらず、必要以上に起業家を振り回したり、いきなり「担保」とかわけがわからないことを言いだす可能性があります。

逆に、例えば過去IPO経験のあるエンジェル投資家さんであれば「東証の基準をクリアした」実績がありますし、「金融機関系のVCと共同出資した」事がある人は金融機関の厳しい信用チェックで問題が無かった人ということ。

とにかく、あの手この手で信用チェックしています。

利用者から寄せられた声・要望はサービスのみならずブログでも発信される。「起業家がやりがちなNG事例」を
テーマとした記事や、今後は「起業家から評判落とす投資家とは?」をテーマにした記事も予定しているとの事

――その一方で先日連携パートナー制度が発表されました。

あの制度には2つの狙いがあります。

1つめは、ファイナンス知識に乏しい起業家さんをパートナーVCから紹介頂き、僕らが基礎的なことを教えたりサポートさせて頂くため。

2つめは、VCさんが既存の投資先企業に対して、「次の調達ラウンドでどのVCさんに繋げればいいか判断できない」ケースを僕らがサポートするためです。

VC同士の横のつながりは必ずしも網羅的では無いし、最近は新しい投資家も増えています。
何となく名前を知っているとか、以前から交流があるとか、そういう判断ではなく、起業家サイドからも適切な投資家を比較検討できるように、サポートしたいと考えています。

――サービスが目指す理想像のようなものはありますか?

“起業家・投資家の種が芽吹くための産業インフラ”となることです。そのためには、企業環境を整える必要があります。

以前、上場企業の株式投資を仕事としていたのですが、アナリストに対する評価がとても透明性のある市場でした。アナリストは定期的に評価され、いい人は伸びる、ダメな人は淘汰される。

これを未上場の領域でもやりたいんです。
いい起業家もいい投資家も伸びるべき、どうやれば実現できるのか?はまだ模索中ですが。

起業家も投資家も、透明性のある評価がなされた状態でマッチさせたいなとは考えています。


5月に発表された「連携パートナー制度」
VC、金融系、研究開発、地方、CVCなどバリエーション豊富な投資会社が名を連ねている。

■研究や技術がすごくても、いきなりピンポイントで「白馬の王子様」はこない。


――最後に、起業家コミュニティStarBurstやマッチングのStartuplistを提供し続けて、栗島さんの思う「お互いにとって理想的な投資家と起業家の出会い」ってなんですか?

なんとなく、恋愛や結婚と同じで「いいパートナーを選べたか」って凄く最適化が難しい領域だと思います。もし実現出来たら、ぼく多分Tinderのようなデーティングアプリ作れると思います。(笑)

条件や得意分野だけじゃなくて、フィーリングもありますしね。
現状のStartuplistに少し足りないところです、もっと投資家と起業家の「フィーリング」が見えてくるような、起業家に対するメッセージとか、1人の投資家としてビジョンが知れる、いい意味でのウェットさも知れる形が理想です。

――起業家に「いい支援者」に出会うための心がけがあるとしたらなんでしょうか

まずは量を追求して色々な人と会い、相性のいい人を見つけることですね。

例えばエンジニアや、研究開発型のスタートアップの中には、自分の技術や長年の研究成果を「認めて欲しい」って思う人もいますよね。
でもそんな人がいきなりピンポイントで現れるなんて、「白馬の王子様を待っています」って言っているようなもの。

自分からガンガンにコンタクトオファーを出すのが性格的に苦手な人もいるでしょうけど、そういう場合なら僕らが仲人としてつなぐことも出来ますし、遠慮なく頼って頂きたいなと。

まあ実際には振られることもあるわけです。
出資してほしい投資家さんと出会えて、それでも振られて、でも起業家ならそれでもめげずにアクティブに探しに行くことをしたほうがいい。

「一人に振られたからもう恋愛しない」と言っていたら、いい出会いも無いじゃないですか。


栗島祐介 プロトスター株式会社 代表取締役COO
三菱UFJ投信でトレーダー・ファンドマネジャーを経験し、教育領域特化型投資会社VilingベンチャーパートーナーズCEOを経て、起業家支援インフラを創るプロトスター株式会社(旧スパノバ株式会社)を設立。産業構造・技術構造的にHardな領域を主軸に新産業創出を目指す起業家支援コミュニティ「StarBurst(旧Supernova)」の企画・運営総括を行うとともに、2018年3月には起業家と投資家の情報検索サービス「StartupList」を起ち上げ。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)