2018.06.04 MON 病気のない社会を、採血不要の最先端レーザー技術で実現する。――Light Touch Technology 山川考一
text by : | 編集部 |
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photo : | 編集部,ライトタッチテクノロジー株式会社 |
「注射せずに血液検査」、過去多くの研究が目指しながらも実用化できなかった夢の技術。
その理由は、血中に存在する物質から特定の物質だけを精度高く検出することが出来なかったからです。
ライトタッチテクノロジー株式会社は、量子科学技術研究開発機構の第一号ベンチャーとして、これまで不可能だった「世界初の非侵襲型血糖値センサー」の実用化に挑戦する会社です。
同社代表の山川さんに、世界初を支える技術、今後の未病への取り組みなどをお聞きしました。
■世界で初めて血糖値「のみ」を測定可能な採血不要の技術
--まずはライトタッチテクノロジー社の技術を教えてください。
光を使って血糖値を非侵襲(採血不要)で計測するものです。
高輝度中赤外光レーザーにより、血中グルコースの微弱な情報を高精度に検出します。注射の必要が無いため医療廃棄物も発生せず、感染症の懸念もありません。
光に手をかざし、5秒程度で血糖値を手軽に測定できます。
--実際の進み具合はどうでしょうか?
現在注力しているのは臨床、実際の患者様で試して頂いて被験者数を増やし、POC(Proof of concept・原理実証)をすることです。そのメドが立った後は、実際に量産試作機を作り、治験のフェーズに移行します。
ここを達成できるか?が重要だと考えています。
当初の予定よりは好調で、実は計画より一年早く進行しています。
まずはデスクトップ型の機器で実現し、その後ラップトップ型、最終的には持ち歩けるサイズを目指して開発していましたが、既にラップトップ型の物まで出来上がっています。
--ウェブサイト上に「世界初の非侵襲血糖値センサー」とあったのですが、これまで同じような技術は無かったのでしょうか?
いえ、ありました。但しどれも実用化までは至っていません。
理由は、これまでの研究開発では入手のしやすさから、可視光と近赤外の光を使っていたからです。
これらの波長域では、糖の吸収を感知できるのですが、それ以外の蛋白や水分などの成分まで混ざってしまい、糖だけを分離できませんでした。
ライトタッチテクノロジーの技術は、血中グルコースの微弱な情報を高精度に検出できるため糖のみを測定できる。ここが大きな違いです。
--その技術は糖の計測以外にも使える可能性はありますか?
特定したい物質の分子構造さえわかればできると思います。
現在は糖尿病や生活習慣病など、血糖値との因果関係が強いところに集中していますが、今後「この体内物質を測定したい」といった要望があれば、色々な可能性を模索したいと考えています。
■小型化・バッテリー駆動で「感染症が深刻な地域」でも活用の可能性
--技術の内容的には日本国内だけでなく、海外からも注目されるものだと感じました。
たしかに、ラップトップサイズで許認可が下りれば、車に乗せて患者のいる各地を回ることができますし、注射器を使わないため衛生面にもメリットがあり、海外の団体などからもお問い合わせを頂いています。
ただ、あくまで現時点では「国内での臨床結果をみる」点を重視しており、その後どの国から許認可をとるか?は戦略的に進めることにしています。
ラップトップサイズでは家庭用コンセントが必要ですが、バッテリー駆動できる状態になればもっと可能性が拡がると思います。例えば、24時間のうち電気がほんの数時間しかつかないような国・地域では採血による感染症の問題がとても深刻ですので、最終的にはそういった場所でも使って頂きたい、と考えています。
--先ほどすこし「血糖値以外の体内物質の測定」の話が出ましたが、具体的にどういったものでしょうか?
我々自身で思いつけるものだと、例えば高脂血症、コレステロールなどです。
最終的には、血糖値・コレステロール・血圧。これらを一つのデバイスで個人が簡単に計測できるようになれば、もっとライフスタイルが変わるのではないか?
と考えています。
--確かに、普段は年に1度の健康診断でしか測らない人がほとんどでしょうね。
要はまず見える化ですよね。
いま健康診断と言われましたが、前日からお腹に何も入れず、空腹状態で計測しますよね。
結果的に血糖値が上昇しやすい状態であったり、普段の自分の体の状態を計測出来ているとは言い難い状況です。
普段あまり健康に気を使わない人でも、数値で見えたら気にするじゃないですか。
年に一度の人間ドックで血糖値が異常であれば、その人なりに血糖値が高くなる食事を避けるようにしますが、その日々の努力が「実際に血糖値をどう下げているか?」はまた一年後でないとわからない。
成果があるのかどうかわからない状況で食べたいご飯を我慢するより、日常的に自分の体を計測出来た方がいいわけです。
■研究者として企業にライセンスしても、本当に世に出せるのかわからなかった。
--ここから起業のきっかけをお聞きしたいのですが、量子科学技術研究開発機構から起業したベンチャー自体が珍しい存在ですよね。
はい、量子科学技術研究開発機構発の第一号ベンチャーとして認定されているので、前例がありません。
研究所として特許を取得し、ライセンサーとして企業に提供するプロセスがよくあるケースだと思いますが、「そのやり方で本当に技術を世の中に出せるのかな」と考えたことが、起業する出発点になりました。
糖尿病など、血糖値と関わりが深い病気で苦しむ方に使って頂きたいと強く思う一方で、企業側には企業側の都合があるので、方針転換によってせっかくの技術が世の中にでないことも考えられます。
技術自体には絶対の自信があったので、ならば自分で起業してやろうと考えました。
研究者の立場であれば成果をまとめて論文で発表することが優先されますが、起業すれば論文がどうこうと言っていられず、知財も守りつつ事業を大きくし、投資家にも本気であることを説明する必要があります。とても緊張感がありますね。
--周囲にあまり起業している人がいない状況だと、環境的にもかなり大変な状況だと思うのですが。
たしかに大学発ベンチャーの多い大学と比べると、環境面では整備が必要だと思います。
その一方で、この量子科学技術研究開発機構の中には、「この技術は真剣に社会実装に向けた取り組みをやればいいのに」と思うものも多くあります。
例えば、「老朽化したトンネルを人がかなづちで叩いて検査するのではなく、レーザーで診断」するプロジェクトがあります。人的作業の負担を軽減し、インフラを守る上でまさしく社会が求めているものだと思います。
私たちが起業したことで、そういったプロジェクトの人たちからも時々近況を聞かれるようになりました。この研究所から起業した例自体が少ないので、気になる人が色々と質問してくるようになり、徐々に変わりはじめたのかなと感じます。
■患者自身や周囲の家族が「病気で苦しまない社会」
--最後に、山川さん自身が最終的に実現したい世界についてお聞きしたいのですが。
実現したい世界ですか、一言で言えば「病気のない社会」です。
要は、病気の治療よりも「未病」への取り組みですね。
事業を始めてから色々な統計・調査を行うのですが、「血糖値のような生活習慣病に関わるものは、早めに手を打てば病気になる人を減らせる」という想いが日に日に強くなります。
--簡単に健康状態を計測出来て、病気で苦しむ人がいなくなる。
はい、本人も苦しまないってことは、周囲のご家族も苦しまずに済みます。
病気は、患者本人だけが苦しんでいるわけではありませんから。
これから高齢化が進み、介護者が増えます。今から未病療法で防げれば楽になりますよね。
大事なのは、僕らの技術は何か病気を治すものではなく「見る技術」です。
血糖値がよくないと判明しただけで症状は良くなりません。
しかし、どんな対策を打てばいいのかがわかりますし、早めに対策を打てば病気に苦しむこともなくなる。僕らの血糖計が実用化されて、計測をきっかけに早めに手を打つ方が飛躍的に増えて欲しいな、と思っています。
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