Interview

バイオ分野を中心とした全国オープンレンタルラボ構想「SmaLab(スマラボ)」 ――株式会社Inner Resource 松本剛弥

text by : 編集部
photo   : 編集部.株式会社インナーリソース

研究施設・ラボ内の管理業務を徹底効率化する「ラボナビ
同サービスを提供する株式会社インナーリソースの松本さんは、優良なバイオベンチャー創出の基盤のため、早くも次の一手を考えている。それは全国どこでも医療・バイオの研究が可能なレンタルラボ構想。
5月にインタビューした際、松本さんが話していたレンタルラボ構想と研究業界の現状について今回改めて語って頂きました。


■「いつか、誰かがやらなければならない」を、「今、自分がやる」


――前回のインタビューから約2か月が経ちました。反響や状況の変化などはありましたか?

はい。ありがたいことに自分でも驚くほど多くの反響を頂いています。
これまであまり変わってこなかった業界が、今まさに音を立てて変わろうとしている。
それをヒシヒシと感じています。

「無理だ」「時間がかかる」などの意見もありますが、いつか誰かがやらなければなりません。
研究者の様々な意見を聞くと、むしろ遅いのではとも思います。私はこの研究環境の改革をやる理由を持っていて、出来る状況にあります。
いつか誰かがやらなければならないのなら、今自分がやります、必ず。


■日本全国でイノベーションを巻き起こす


――前回の記事では詳細を伏せていましたが「ラボナビ」以外に動いている構想について教えて頂けますか?

正式な発表は8月以降になりますが「日本全国にオープンなレンタルラボを創りながら、レンタルラボと借りたい研究者をwebプラットフォームでマッチングさせる事業」を準備しています。
ラボのシェアリングプラットフォームなので、Airbnbのレンタルラボ版だと思って頂くと分かりやすいかもしれません。

大きな役割は二つで、「実際にオープンレンタルラボを創っていく」オフライン部分と、「web上でレンタルラボと研究者をマッチングさせていく」オンラインの部分があります。
ラボを創ることに関してはもちろん我々だけでは難しいですが、ありがたいことに商社・レンタル会社・中古販売業者・試薬機械メーカーなど様々な協力者を得ることが出来ています。

――ウェブサービスに加えて、実際の「ラボ(場所)」を扱うことで、ラボナビとまた違った難しさがあると思います。どこに可能性を感じましたか?

まず、その「場」のターゲットは全国の国立・私立大学や研究機関です。
これらの中には余剰資産として研究室や多くの研究機器が余っています。
その一方で、国からの運営交付金が減らされ自分たちで運営費を獲得しなければならない状況に陥っている。

この二つの情報が合わさり、自分が出来ることを考えたとき、自然とこの全国レンタルラボ構想に行きつきました。これまで研究機器や器材を研究機関に卸し、ラボを創ってきた経験を活かすことができるのです。

――特にどの研究分野でレンタルラボへのニーズを感じていますか?

バイオ分野に関して非常にニーズを感じています。
バイオ系のレンタルラボは様々な制約や複雑な管理が必要で、なかなか無いのが現状です。
だからこそ求める声は大きい。

そしてこのレンタルラボは優良なバイオベンチャーを創出するエコシステムになるだけではなく、中・大手の非バイオ系企業が、バイオ分野での新規事業創出に使いたいというニーズが圧倒的に多いことが分かりました。今は世界中でバイオ関連企業が注目されていますが、日本でも大きく盛り上がりをみせることは間違いないと思います。その受け皿になれれば。

――現在あるレンタルラボはどういった状況なのでしょうか?

川崎の殿町には再生・細胞医療の拠点としてライフイノベーションセンターがあり、その中にはレンタルラボの設備もあります。

正直、ライフイノベーションセンターは川崎駅からバスで20分以上かかり、都心からのアクセスが良いとは言い難い状態です。
ところが実際にはこのレンタルラボの予約はずっと埋まっていて大人気です。都心からのアクセスがあまり良くなくても、他にあれだけサポートが充実した短期貸しのレンタルラボはありません。

――それがアクセスのいい都内や、全国にあれば大人気な設備になるだろうと。

はい。
バイオは世界中で注目されていますし、東京や川崎は地域を挙げて支援しようと試みていますが、研究者が集まる拠点は地方であってもいいわけです。

現に研究をテーマに町おこしをし、成功している自治体もあります。
バイオとご当地の産業など、異分野が融合する動きが活性化されるのも非常に面白いと思いますね。


■バイオ分野は機器と場所と「環境」のシェアリングが大事


――例えばコワーキングスペースのような、DMM make Akibaのような拠点は考えていますか?

考えています。
バイオの研究者にとって当然大事になってくるのは実験室ですが、基礎的なものを共通機器室として用意し、そのほか自分たちしか使わない機器をそろえた独自のラボを長期で借りる、というような施設・環境も多く創っていきます。

なるべく設備費を抑え、研究のハードルを下げる効果が望めます。
数は圧倒的に足りない状況なので、やはり大学等の余剰リソースを活用することは理にかなっていると思いますね。

――大学側は突然余剰リソースの活用と言われて、柔軟にお互い貸し借りが出来るのでしょうか

いえ、やはり現場はそこまでスムーズに動けないですし、どうやっていいかわからないです。

そこで、僕自身の商社経験や繋がりが活きてきます。
そもそもこの活動の中で、施設や研究者の負担になるようなことはやるべきではありません。
サポート体制を整えるためにも、「ラボの運営者」が必要です。すでにこの運営者も準備しています。

――ライフサイエンスやバイオ分野の設備や機器は、他の分野と扱い方が違う気がします。

そのとおりです。
バイオ分野では、1つの機械だけで完結できる作業が少なく、設備の環境やサポート体制が非常に重要になってきます。

さらには、実験サンプルや研究器材の「保管」の問題も根強い。
だから「機器と場」だけでなく、「機器と場とサポート環境のシェアリング」が大事です。

――イメージとしては、アクセスのいい場所の研究室を、短期からレンタル出来て、場所貸しだけでなくトータルコーディネートしてあげる形でしょうか?

はい。
現在のレンタルラボは場所だけの提供で設備を自分で整える必要があったり、年間レンタルなど期間の最低条件があり、負担が大きい場合がほとんど。

自身のやりたい研究を、資金に余裕のない研究者が「1週間や1か月仮説検証したい」場所にはなっていない。だからこそ、そういったレンタルラボを多く創ることで、その仮説検証で得られた結果をもとに資金調達に結び付けたり、優良なバイオベンチャーを多く創出することが出来ると考えています。


■レンタルラボで終わらない「オープンイノベーションプラットフォーム」


――レンタルラボサービスはこれからリリースだと思います、どういったサービスを予定していますか?

「利便性にとことんこだわる」「よりイノベーションが起こる場」この二つは外せないですね。

利便性の面でいうと、予約管理や利用料の決済だけではなく、研究に必要な部材(試薬や機械・消耗品)の調達や決済もワンシステムで完結できるようにします。
これは研究業界に特化したクラウド購買システムを持っている我々ならではの部分ですね。
研究フェーズに応じて借りるラボが変わり、物品調達も変わっていきますが決済はSmaLabの1か所。これは非常に便利じゃないかなと思います。

あとは、起業支援としていろんな仕業とのマッチング、資金調達支援としてVCとのマッチング、勉強会や交流会などオフラインイベントのPRや予約管理など順次機能を追加していきます。
業界特化型クラウドファンディングを提供しているacademistさんとの連携も進めていますし、研究業界を盛り上げる素晴らしい仲間と最高のサービスを創りたいと思っています。

――全国レンタルラボ構想実現に向けて、今後必要だと考えていることはありますか?

協力者様を絶賛募集中です。
もちろん場所の提供を考えている大学や研究機関、デベロッパーや試薬・機械メーカーなど様々な方々と日本の研究環境を良くしていきたいですね。

――研究拠点を創るというより、研究も可能なオープンイノベーションプラットフォームですね。

まさにその通りです。
最初はレンタルラボ事業でスタートしつつ、新たな予算獲得支援など様々な機会を提供していきたいと考えています。
私たちと共によりよい未来を創っていきたいかた、ご連絡お待ちしております。

――最後に、今後の展望を教えてください。

2年でアジア、アフリカに展開していきます。

すでに中国の商社からはレンタルラボ事業の話が来ていて、すぐにでも進めたいとの要望があります。今はまだ課題がてんこ盛りですが、やれないとは思っていません。

私の目標は、私が絶望を感じた「分からない」を無くす事、少しでも希望を持てる世の中にすることです。そのために研究環境を整え、世界中の研究者を徹底的に支援していきます。