2017.08.10 THU 最先端の機械学習と深層学習で、真の医療情報活用に挑む ― MICIN, Inc 巣籠 悠輔・塩浜 龍志
text by : | 編集部 |
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photo : | 編集部,株式会社情報医療 |
健康・医療の話題や情報が世の中に溢れ、遺伝子検査、体調管理アプリ、ウェアラブルでの計測・・・最新のサービスが身近なものになりました。
では、医療機関の情報は?なぜ未だに病院での診察時に症状を一から聞かれるのか。
自分の健康・医療に関する情報を自分のデータとして蓄積し、主体的に活用する。
未来の医療のあるべき姿、その為のAI活用についてMICIN,Inc巣籠CTOと塩浜技術部長に伺いました。
■広い視点で医療に貢献するための「遠隔診療」と「データソリューション」
―情報医療の展開する2つの事業について教えてください。
塩浜(写真右):僕らは「医療情報を適切に扱う」を会社のコンセプトとし、それを達成する1つのステップとして遠隔診療事業を展開しています。
医療の現場では、電子カルテなどITの活用が徐々に浸透してきてはいますが、そこで集まるデータに関しては、施設内での参照に留まるなど十分な活用は出来ていません。そのような状況の中、2年前の規制緩和で門戸が開かれた遠隔診療は、患者と医者の間をシステムが繋ぐ形を取るため、「医療情報を適切に扱う」と言う会社のコンセプトを目指す上で親和性が高い事業であると考え取り組みを始めました。
遠隔診療事業を通して集まった診療データは、弊社のもう1つの主事業である人工知能を用いたデータソリューション事業においても活用できますし、逆にデータソリューション事業側で集めた健康情報や医療情報を分析した成果は遠隔診療事業においても有意である。2つの事業はそういった相互作用があると考えています。
―集めたデータの具体的な活用方法について教えてください。
塩浜:遠隔診療を通して集められるデータというと一般的には、ビデオ通話を使用した際に得られる動画や音声というイメージが強いかと思います。しかし、我々はそれら以外にも、様々なデータが人の「健康状態」や「疾病の状況」を判断するのに役立つ可能性があると考え、システムを設計しています。
例えば、診察時の問診における定型的な質問項目。これらに対して○○と答えた人が、医師によってどのような診断がつけられたのか、と言う情報が蓄積される事で、「この患者は〇〇という症例の可能性がある」と言う判定や、「この患者は将来△△という疾病を患う可能性が高い」などと言う予測を行う事が可能となります。
これらを可能としているのが弊社の技術力です。一般的に深層学習が得意とする画像の分析のみではなく、時系列に溜まっていくデータから有意な示唆を出す為の時系列処理を適切に行う事が出来る事。また、医療という、扱う情報の機密性が大変高い領域において、セキュリティを担保し、かつ個人と診療に関する情報が直接紐付けずに、データを活用出来る形で保持している事。
この2つを実現する技術基盤が揃っている事が弊社の強みです。
更に学習が進めば、問診時に「○○と言う質問に対して患者が△△と答えた場合、こう言った質問を合わせて聞いた方が良い」などと言う提案を行う事も可能となり、患者・医師の負担を減らした上で、より適切に症例を把握できる手助けを出来るのでは?と期待しています。
また、我々は遠隔診療に留まらない、広い視点で医療に貢献したいと考えています。
遠隔診療において主なユーザーとなるのは「某かの疾病に罹る患者様」です。一方、世の中には多くの「疾病に罹る前の人」がいます。そして、そのセグメントの中には、何か手を打たなければ近い将来に疾病に罹ってしまう可能性のある人が多く存在します。疾病に罹ってから取れる処置は限られてしまう為、疾病を発症する前に未然に防ぐ事が重要であると言われています。
我々はそれらを達成するため、遠隔診療を通して得た知見や技術力を活かし、人々が健康でいられるように日々の生活をサポートする取り組みも行っています。最近では、その取り組みの一貫として健康経営に関する取り組みを行うパソナ社との協業を発表しました。
■ディープラーニングの最先端 「画像データの次にホットな領域」
―ウェブサイトにはディープラーニング・深層学習の活用と記載されています。
巣籠(写真左):ディープラーニングは画像データに関するニュースが多いですが、先端研究の世界では「自然言語処理」や「時系列処理」の領域も活発です。
画像データについてはある程度形が見えて誰でも一定精度が出せる環境になってきました。
僕ら情報医療としては、当然画像データも活用しつつ更にR&Dフェーズで研究の世界でホットな自然言語処理、時系列処理に取り組み、それを産業活用・ビジネス化することで会社の優位性を生むという挑戦をしています。
医療と言っても、前段階の「未病」、発症時の「診察・治療」、後段階の「経過観察やアフターケア」と段階が分かれます。
その3つ全てに取り組むためには、医療情報の整理と活用が肝ですから、先ほどお話したR&D段階にある先端的なディープラーニング技術、データマイニング技術が重要と考えています。
―「医療」と「データ・技術」の両方が必要ですね。
巣籠:そうですね、代表の原は医療業界出身ですし、社内のメンバーにも医療従事者 が何名かいます。
ベンチャー企業の戦略として、1つの事業に集中するやり方もあります。僕らも集中していないわけではなく、まず医療全体という広い視点に立ち、そこから遠隔診療という1つの分野に集中しつつ、最終的に広く展開するために重要なデータマイニング事業を展開している、という状況です。
―自分も最先端のディープラーニングをやってみたい、という人がいると思いますが、どこから着手するのがおすすめですか
巣籠:手前味噌ですが、僕が出した本はおすすめです。(笑)
先ほど話したような深層学習の言語処理や時系列処理に触れていますし、最新の研究で日本語化された文献もなかなか無いですから。
他にも論文関連ならarxiv.orgに重要なものは上がっていますので、継続的に追いかけたり、最近は日本の方がそこからピックアップしたものをまとめていたりするので、そういったウェブサイトを見つけたら継続的にチェックするのがいいと思います。
■情報医療との出会い「柔軟で、優秀な人たちが集まっている」
―巣籠さんと塩浜さんが情報医療に入社した経緯は?
巣籠:僕がちょうどアメリカで働いていた時、COOの草間もアメリカにいて出会ったのが最初です。
元々僕は、色々な分野をIT化していきたいと考えていて、人工知能を勉強するなかで人の脳自体、及び医学に興味がありました。
草間やCEOの原と話す中で、医療は全然IT化されていない。
「機器」は進歩しているけど、「情報」は発達していない、これはやるべきことが多いやりがいのある領域だと感じました。そこで大学時代から知人だった塩浜にも声を掛けたという流れですね。
塩浜:僕は前職で、医療とは無縁のバークレイズ証券という投資銀行にいました。巣籠とは、その会社のインターンで出会ったのでもう6年ぐらいの付き合いになります。巣籠は別の会社に就職しましたが、就職以降も幾つかのプロジェクトを一緒にしたり、定期的に連絡を取っており、その巣籠が「凄く面白いプロジェクトがある」と誘ってきたのが今回のお話でした。正直最初は医療かどうかは関係なかったです。
―あの巣籠さんがそこまで言うなら、という感覚でしょうか
塩浜:はい、巣籠は学生時代から尊敬をする友人の一人で、彼がそこまで言うなら絶対面白い事になるだろうと言う感覚はありました。巣籠を通じて創業者の原、草間と会いプロトタイプを一緒に作る事になったのですが、その中で2つ気が付いたことがありました。
1つは「このメンバーは凄い」です。僕は、自身でも企業の立ち上げの経験があるのですが、創業期の難しい判断をスピーディーに進めて行く様子を見て「こんな化け物みたいに優秀な人たちと一緒に仕事が出来る機会はなかなか無い」と感じました。
もう1つは、医療分野に自分の技術を活かすことで、世の中に貢献できる事があるかもしれないと感じた事です。先程もお話した通り医療分野における技術の活用はまだ限られており、取り組みを深めるにつれ多くの伸びしろがある事を感じました。僕は中学時代にプログラミングをはじめて以来、グーグルなどに代表される「優れた技術が世界を変える」様子に注目してきました。今回の出会いは、自分にもその機会が巡ってきたのでは?と思えるものでした。
―巣籠さんは知人の塩浜さんを巻き込むほどの原動力と言いますか、原さん達から何を感じとったのですか?
巣籠:印象的だったのは「柔軟さ」です。
実際にプロダクトを作り始めて、途中で「これは微妙だ」となった時にすぐに軌道修正が出来ていた。これはスタートアップにとって重要なポイントです。
仮に、最初に作ったものがうまくいかなくても、その「ピボット力」が活きると思いました。
優秀な人が陥りがちなのは「自分の考えを否定できない」「切り替えられない」というものです、ただうちのメンバーはそれが無い。優秀なのに過去の自分たちの仮説を否定して修正できる力があると思いました。
―色々なベンチャーとも交流があると思います、注目している会社があれば教えてください。
巣籠:2つ思いあたったうちの1社が「Holoeyes」です。
代表の谷口さんは以前から知り合いですが面白い方です。医療とVRを融合して、新しいことをやろうとしていると思います。
もう1社は、既に大きな会社になりましたが「Spiber」です。
凄く丈夫な人工の蜘蛛の糸で、色々な製品を作る。夢があると言いますか個人的に好きな会社です。本当にこういう会社こそ成功してほしいなと思っています。
塩浜:僕はフィンテックに関心があり、中でも「FOLIO」は気になります。
前職で一緒にお仕事をさせて頂いていた方々が多く所属している会社で、代表の甲斐さんには大変お世話になりましたし、COOの梶原さんは1つ上の先輩で「数学の化け物」といいますか、凄い人だと常々聞かされていました。本当に優秀な方が集まっている会社だなと言う印象です。
あと就職活動時代の友人である三橋さんが代表を務める「manabo」は、EdTechを牽引する存在として注目をしています。
■情報医療の文化「技術へのリスペクト、多彩なメンバーとの議論で可能性が拡がる」
―現在社内メンバーは10名とのことですが、情報医療の社員として資質のようなものはありますか?
巣籠:新しい、誰も手を付けていないものをどんどん触って、自分で道を作って行ける人ですね。わたし自身も、それこそディープラーニングなんて日本で誰も着手していない頃から取り組んでいましたが、色々と大変なことがありました。
ドキュメントも無い状況で実装しなければいけない、当然バグも多い、日本語の参考情報も無い。そういうのを苦に感じずむしろ楽しんで突き進める人がいいなと思います。
塩浜:1人でもプロジェクトを立ち上げてしまう事が出来るような、自走出来る人がいいのかなと思います。
技術者はある特定分野に特化したスペシャリストタイプもいますが、一方で一から事業を創るため周囲とのコミュニケーションが出来る、周囲の期待を超えるものを作るために自然と努力する、そういった自走できる人が社内には多いと思います。
―情報医療ならではの社内文化は?
塩浜:まず、エンジニア以外のメンバーの技術に対する理解度の高さとリスペクトは大きな特徴だなと思います。
「実装できる」と「概念を理解できている」は少し違いますので、細かい実装面がわからなくても、概念を理解し対等に議論できるメンバーが多く、いつも凄いなと思っています。
僕らエンジニアの事を信頼しつつ、1人1人得意な分野を持ったスペシャリストとして議論に参加し、その結果1人では辿り着かない視点・アイデアが得られる。
多彩なバックグラウンドを持ったメンバーとの議論で、自分の枠を拡げられる。それを魅力的に感じる人には、とてもいい環境だと思います。
巣籠:凄く仕事がしやすいと日頃から感じます。
塩浜も言うように、僕らにしかできない領域のことは任せてもらいつつ、議論できる部分についてはより良いものを実現するための話し合いが出来る。
純粋な研究としてではなく、最先端のディープラーニングにビジネスを見据えながら取り組む面白さがあると思います。わたしや会社のメンバーはそういうのが好きなタイプが多いと思います。
―巣籠さんや塩浜さんの作るエンジニア文化もあるのでしょうね
塩浜:たしかに、うち独自の取り組みとして「週に20%の時間は最先端技術の研究に当てる」というものがあります。
強制的に通常業務の手を止め、エンジニアに最先端を突き進めてもらい事業まで落とし込むことを目指していて、僕自身はいま暗号化技術を現在の事業にどう活用するか?というテーマに取り組んでいます。
20%って週5日なら丸1日ですから、業務が立て込む時期は大変です。
それでも技術者視点で発信できる、そういうエンジニアの集団を作りたいという思いがあります。
プロフィール
株式会社情報医療(MICIN, Inc.)
巣籠 悠輔 CTO
Gunosy,READYFORの創業メンバーとして、エンジニアリング、デザインを担当。
大学院修了後は電通にてデジタルクリエイティブの企画・制作、ディレクションに従事。Googleニューヨーク支社を経て、創業に参画。2016年8月より東京大学招聘講師。
著書「Java Deep Learning Essentials」等。東京大学工学部システム創成学科卒(首席)、東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻卒
塩浜 龍志 技術部長
バークレイズ証券情報技術本部でのエンジニアを経て、株式会社情報医療に参画。
債券トレーディングシステムの開発・運用・保守など、アプリケーションからインフラまで幅広い技術に精通。学生時代にはソフトウェア工学を専攻し、アジャイル開発チームの最適化に関して研究。米ダラスで開催された、同領域のTop ConferenceであるAgile2012にて唯一の日本人として発表し、同論文は英論文誌International Journal of Computer Application in Technologyに掲載された。
早稲田大学大学院基幹理工学術院情報学専攻卒
インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)
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