Interview

副作用のない再生・細胞医療技術で、豊かな生活を送り続けられる健康な体を。 ——Human Life CORD Japan Inc. 原田 雅充

text by : 嶋崎真太郎
photo   : 嶋崎真太郎

京都大学の山中伸弥教授が2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞したことで周知された「iPS細胞」(人工多能性幹細胞)から注目度が上がった、幹細胞を活用した再生医療。品質の均一化や、安全性確保の観点から現状ではiPS細胞の製品・産業化はされていないが、未来の新たな医療技術として期待が集まっています。

幹細胞の中でも、もともと人間の体の中に存在し、常に曝露されている何らかの環境毒に対する局所炎症を速やかに沈静化し、それに伴って起こった組織障害の修復を促すことによって健康を維持する役目を担う「体性幹細胞」(その中でも「間葉系細胞」)を活用した細胞治療の更なる普及を目指し、未来の課題解決に挑むHuman Life CORD Japan Inc.の原田社長にお話を伺いました。


臍帯(へその緒)が持つ修復能力を医学に応用


私たちが研究開発を進めている、間葉系細胞は「副作用のないステロイド」と形容されています。現在、第一選択薬として使用しているステロイドは強力な炎症を抑制する効果があるものの、飲み続けられません。骨がどんどん弱っていくなどの副作用もあるからです。この細胞を活用した細胞治療には、ステロイドのような副作用はありません。人間が本来持っている細胞を活用するからです。

私たちが最初にこの治療技術を利用していただきたい方は、既存の炎症を抑制するステロイドが継続できない患者さんや、副作用に悩んでいる患者さんです。臍帯由来の細胞医薬品であれば、抗炎症作用と組織修復機能を発揮することが期待されるため、ステロイドに代わる治療法として展開していくことができると考えています。

臍帯は生まれたばかりの赤ちゃん側の組織で最も若い細胞といえます。細胞自体も活性が高く増殖能力も高いため、通常の細胞培養で半年かかる期間も2週間で済んだり、現在は廃棄物として扱われるものなので購入する必要はなく、これを利活用することで、製造原価は現在市販されている骨髄由来の製品と比較しても抑えられます。


「脆弱」のサインを見逃さず、最も若い臍帯由来細胞で「健康を維持する」という新たな概念


人はだれしも歳をとります、皆さんはどうやって歳を重ねていきたいですか?これからの長寿社会、どうすれば、心と体のみずみずしさを保ったまま、主体的に生きていけるのでしょうか?まさに今、ヒューマンライフコード(株)では、仮説の検証と実行を繰り返し、来る理想とする未来に向かって対策を講じようと強い使命感を持って取り組んでいます。心は老いてゆきません。コミュニティーへの参加や趣味など自らの行動次第でいつまでも若々しくいられます。食事や運動で若々しく保つことも可能ですが、体は自然と老いていきます。最近の厚生労働省の統計データでは、「老衰」が「肺炎」「脳血管疾患」を抜いて死因の第3位に浮上し、増加傾向にあるようです。誰もが体の中にある間葉系細胞を使って日々生活で曝露されている何らかの環境毒に対する局所炎症を速やかに沈静化し、それに伴って起こった組織障害の修復を促すことによって健康を維持しています。ただ、歳を重ねるごとにこの細胞も老化していきます。大小さまざまな炎症を鎮静化する生体防御機能が低下し、組織はどんどん壊れていきます。

われわれは、既存のステロイドではコントロールできなくなったか、使い続けられない重篤な病気に対し、この臍帯から採れる間葉系細胞を投与することで、重篤な疾患を治癒もしくはコントロールできるよう医薬品化していくことを今は目指しています。ただ、その先には、病気になる一歩手前の身体的フレイル・サルコペニア(脆弱状態、進行すると要介護状態へ)の段階で診断ができたり、臍帯から採れる間葉系細胞の投与ができたりすると、要介護状態や病気を未然に防ぎ健康状態を維持することができるのではという仮説をもって、現在では同分野で多くの実績を持つ名古屋大学医学系研究科老年医学研究室と連携し、確かなエビデンスを構築するため基礎研究を継続しています。「若返り」を謳った未承認細胞治療が海外で行われているのは事実ですが、フレイル・サルコペニアで正規の細胞治療薬として承認されたものはなく、当社の研究は世界の先端を行くものと考えています。

もちろん、生物学的な寿命は存在します。不老不死になる訳ではありません。介護のいらない自立した生活が出来るということは、一日でも長く元気でいられる時間を得ることができるということです。誰もが「生涯現役でいたい」「好きなことをやって一度限りの人生を送りたい」と思う気持ちはあるはずです。この臍帯を再利用して生み出される細胞を治療に応用することで、一人でも多くの方が心豊かな人生を送っていただけるよう貢献することこそが、ヒューマンライフコードのミッションです。

お産後に廃棄される臍帯を必要な人へ“つなげ”(“コード”)、一人でも多くの人の心豊かな生活(“ヒューマンライフ”)に貢献する。われわれは、臍帯という最も若い生まれたての細胞を活用することでそれを実現します。


衝撃を受けた、細胞治療の効力


6年ほど前、外資系製薬会社で研究開発の責任者をやっている時でしたが、小児の先天性疾患を持つ患者さんが細胞治療をきっかけに命が助かったことがあります。その効果を目の当たりにし、新たな医療技術がすぐ近くの未来にあることを確信しました。これは絶対に必要な医療だと。

その患者さんは、抗がん剤などの治療法が使えないほど体力が落ちており、最後の希望として細胞治療が選択されました。当時はまだ治験段階の「胎盤由来の細胞治療」です。その治療のおかげで体力が回復し、標準的な抗がん剤治療ができるようにもなり、結果的に骨髄移植を受けることができました。

細胞治療により人間が本来持っている再生能力を高め、治療法の幅を広げることができました。私はこれまで様々な現場で患者さんのリアルを見てきました。長期的な病により体力が失われ、標準的な治療を受けられない人や、副作用に苦しむ人。そんな方々にとって、またそのご家族にとって、このような細胞治療の技術は必ず必要になる。強く想った出来事でした。また、廃棄されているものを活用することでドナーさんへの負担がなく、より安価に製造できると考えたため、産業応用に向いている、とこの時直感したことを覚えています。


生物一家で育った、生命との深いかかわり


父は理科の先生で、叔父は理科の実験材料にも使われているアフリカツメガエルを世界で初めて養殖に成功した人で、夏休みになると必ず「カエルの学校」と呼んでいた浜松の叔父のところに遊びに行っていました。

自然にふれあい、屋外で生物を通して学ぶことが普通でした。特にオタマジャクシの発生はとても不思議で、興味を持っていたことを覚えています。今でいう発生学に結びつくのですが、どういう形で生体が成り立っていくのかをすごく間近で見ていたので、幼少期の頃から生物学にとても興味を持っていたことが私の生活環境であり、根っこにある部分です。

そのような幼少期の経験と環境から生物学を軸とした生物資源学科のある大学へ進み、自然の生命力を人の役に立てる為にはどうしたらいいか。当時は、老化研究で第一線を走っていた筑波にある旧通産省産業総合研究所の生命工学研究所(三井洋司先生)の門を叩き、目の前の研究に執念を燃やしていました。

育った環境と、なにか社会の役に立てないかという想いに、アメリカでの細胞治療の体験がつながり、自分の進むべき道が明確になったようなストーリーです。社名のヒューマンライフコードにも、生命を未来に「つなぐ(コード)」という想いが込められています。



ヒューマンライフコードが今取り組んでいること


廃棄される1本15センチ程の臍帯から、200人から300人くらいの細胞を賄うことができます。日本の出生率から考えると、そのうち10%を廃棄せずに保管することができれば、40歳以上の人全てに細胞治療を行なうことができる計算になります。

ビジネスの対象地域も日本国内だけでなく、まだ成長の機会が大いにあるアジアを中心とした海外で展開していきたいと思っています。細胞は生ものですから、臍帯はその国ごとに保管し、臍帯からその国ごとに細胞抽出・培養、そしてその国の方々に細胞治療を届けるという「地産地消型」の健全な安定供給サプライチェーンの構築を目指したいです。

そのためには志を共にしていただける社員の人材採用はもちろん、インフラを構築するために商社や建設・物流関係の事業会社などとも積極的にパートナーシップを結ぶべく日々交渉を重ねる毎日です。

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