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Interview

Jiksak bioengineering川田さん「ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病の解決に、体内に近い三次元構造をもつ細胞培養技術で貢献したい」

text by : 編集部
photo   : 編集部,Jiksak bioengineering

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ALS(筋萎縮性側索硬化症)。近年はソーシャルメディアの「アイスバケツチャレンジ」キャンペーンで話題となり、ブラックホールの特異点定理の発見で世界的に著名なホーキング博士が発症したことでも知られる筋肉の萎縮と筋力低下の疾患は、発見から長い年月を経たいまも根治を期待できる治療法は全く存在しない。

この病気に、大学時代から取り組んできたマイクロ流体デバイスによる細胞培養とiPS細胞の研究を武器に挑む東大発ベンチャーJiksak bioengineeringがいる。代表を務める川田さんにお話を聞きました。


■ALSの現状を知り、自分の研究が活かせると考え起業


―Jiksak BioengineeringはALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療法を探索していますがきっかけは?

僕は元々東大・生産技術研究所の藤井研の研究室でマイクロ流体デバイスを用いた細胞培養、iPS細胞やES細胞の研究をしていたのですが、博士課程の頃にハーバード大学に行く機会がありました。
そこで運動神経の研究に取り組みはじめて、運動神経をiPS細胞から作るのは面白そうだなと考えたのが最初ですね。

その後ALS患者さんの本を読み、想像以上にALSという病気は大変だと痛感しました。
「自分の研究を、この病気の解決につなげられないか?」を考え、ポスドクに進んでからはこの分野に集中して研究を行っていました。

 

―川田さんが感じたALSの大変さとは

人は、能動的な行動のほぼ全てで運動神経・筋肉を使います。
人と会う、握手する、自分の意思を話す、感情を顔の表情やジェスチャーで表現する、これらが全て出来なくなります。

 

―体が動かせないことの大変さ

はい、ですがその先を想像してほしいんです。
ALSは「運動神経は使えなくなる、しかし知覚や思考は通常通り」です。

声が聞こえるのに話せない、体がかゆいのにかけない、それを誰にも伝えられない。
意識がはっきりしているのに、閉じ込められるのと一緒。
いくつかのALSの仮説はあるが、確実な発症原因が今のところわかっておらず、治療方法も無い。

 

―ある日突然、原因もわからず閉じ込められる

そう、ここまで想像して、ALSがいかに怖い病気なのか。
しかもいま存在する処方は「少し症状の進行を遅らせられる“かも”」というレベルのものだけです。
患者さん自身の体験としても、現在の医療においても、いかに絶望的な状況か。と思いました。

 

―それを、研究者としてではなくベンチャー創業という形で取り組もうと思ったのはなぜですか

ポスドクの頃から「早くこの技術を確立して、産業界に持っていくぞ!」という考えで、研究を進めながら合間を縫って外部の方にもお会いしていました。

そのうちシード出資をして頂けるVCの方が現れたのですが、ちょうど同時期にNEDOが公募するSUI採択案件に選ばれるという出来事が重なりました。それで「よしベンチャーやるぞ!」と決めたのが今年の2月ですね。

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ALS発症の仮説(画像提供:Jiksak Bioengineering)

 

 


■三次元で体内と同じ状況を再現する。従来の細胞培養ではない飛躍的な手法


ウェブサイトに「三次元構造を有する細胞組織“Nerve Organoid”を用いた」とあります。この手法を詳しく教えてください。

ALSの効果的な治療法、薬の探索をするために、「患者さんの体内にある病変、ALSを発症した運動神経そのもの」を作製出来たら、色々と治療法探索が進むだろう。ならまずは「人間の体内にある運動神経組織を創ろう」というアプローチです。

 

―運動神経組織を創る、とは。

体内の運動神経は、軸索(神経繊維)が束になってまとまって伸びています。
でも従来の培養皿では、細胞体と軸索が混ざった状態になり、体内の運動組織を構造的には再現できていません。

そこでマイクロ流体デバイスの仕組みと、iPS細胞から作製した神経組織を結合し、細胞体と軸索がちゃんと分かれた体内と似た環境を作るようにしました。
この「体内と似た環境」を使って実験すれば体内と似た反応が得られるという仮説を基に、色々と試して知見を溜めている段階です。

1)培養皿内の神経細胞と体内の神経細胞の様子

1)培養皿内の神経細胞と体内の神経細胞の様子

2) デバイス内軸索束の顕微鏡画像

2) デバイス内軸索束の顕微鏡画像

―確かに顕微鏡を覗くと、分かれているのがしっかり見えます。

これによって色々なことができるようになりました。軸索だけのサンプルを取り出してたんぱく質やRNAを分析したり、軸索のさらに先に筋肉や骨格筋の細胞を設置すれば「体内と同様、体が動いて神経が繋がった状態」を再現できるかもしれない。
また、細胞体側にグリア細胞を置いて、脊髄の中を模してみれば・・と得られる情報が増えます。

 

―従来の方法に比べて色々な試行錯誤が可能になるということですか

従来の神経変性の試験方法は、神経組織を培養してストレスをかけて、神経の生きている細胞の割合を測るという方法ですが、この手法ですとFalse-positive(※誤検出)な結果を得ている可能性があるので、それを少し改善する必要があると考えています。

 

―そう聞いてしまうと、もう少し厳密な手法は無いのかなと思っちゃいますね

こうした従来の方法で「二次元的」に見ていたものを三次元で見られるようになる。
軸索の断面をスパっと着れば断面部分にあるミトコンドリアや微小管などが効率よく観察できますし、軸索にストレスを掛けた時の「崩れ方」を数値で定量的に見ることもできる。

ALSは、色々な仮説がありますが決定的な原因がわかっていないので、基礎研究が重要で詳細に神経を調べることが必要な状況です。
僕らは神経変性というものを軸索の変性として評価し、効果的な薬を探そうと考えています。

 


■次に来る注目分野「人工臓器チップ」、アメリカでは数10億円調達のベンチャーも


―こういう三次元的に体内組織を創るという研究は、世界的に多くなりつつあるんですか?

そうですね、僕らもウェブサイト上で「Nerve Organoid」と記述していますが、この分野はいま凄く活発で、色々な臓器を創ろうとしています。日本でも理化学研究所が網膜や脳を創ったりしています。

こういう三次元的に臓器を創る「オルガノイド」は今度確実に流行るでしょうし、これがスタンダードになる時代が来ると思います。
iPS細胞をある特定の条件で培養し、体内と同じ微小な構造を持ったもの、例えば脳ならバラバラで細胞を観察するより「海馬」「大脳皮質」などが一体となった状態で見れたほうがいいでしょうし。

ただ、僕個人はマイクロデバイスの研究者なので「人工臓器チップ」の分野に注目しています。

 

―人工臓器チップ

今後は、オルガノイドと人工臓器チップが来ると思います。

オルガノイドは細胞の自発的な現象によって三次元的な組織を創る研究で最近になって色々と研究が進んでいますが、人工臓器チップ(Organ on a chip)はマイクロチップの中に細胞を詰めて並列にしたり繋げたり、大げさにいえば「チップを連結して人体を創る」というもの。

既に人工臓器チップとiPSを用いた論文がハーバード大から発表されていますし、今後創薬や薬剤の領域で盛り上がってくると思います。

 

―あまりまだ日本国内では聞かない印象があります。

いや、実は「オルガノイド」の研究では日本にもいろいろとあります、横浜市立大学や国立成育医療センター、理研の中にすばらしい研究をしている方々もいますし。
ただ、企業の中にあまり専門的な研究をした方がまだいないのかなと。

 

―海外だと盛り上がりつつありますか

Organ on a chipに関して言えば、アメリカにベンチャー企業が出現しはじめて、中には何10億円調達しました、みたいな企業も出てきています。それに比べるとタイムラグはあるのかなと思いますね。

日本国内の企業と話をする機会も増えましたが、バイオやライフサイエンスに取り組んで、アンテナを貼っていても、まだ「オルガノイド」のほうに注目する人が少ない気はします。
僕自身がそうですが、もっとPh.Dを取った人が会社の中で活躍して、そういう新しいトレンドへのアンテナを貼る役割を担ってもいいのにな、とは感じますね。

 


■ALSは、治療や予防ではなく「原因の特定」にまだ色々なことが必要


―会社は立ち上げたばかりでほぼ1人ですよね。今後は研究室の後輩とかに手伝ってもらう予定ですか?

いや、その辺りはあまり垣根なく考えています。
ビジネス面の推進、もしくはバイオ領域についてある程度わかる方などに協力してもらいたいなと考えています。
ただ、扱うもの自体がわからないと、ビジネススキルだけではどうにもならない部分はあると思います。

 

―いまはその辺りも川田さんが担当されている。

そうですね、例えば製薬会社さんとお話すると「パーキンソン病にも使えそうですか?」とか「いくつかの神経マーカーは出ていますか?」とかそういう専門的な議論になることが多い。だったらまだ僕自身がやってもいいのかなあと思っています。

逆に、僕は分子生物学の深いところは専門外ですから、そこについては専門家を会社に入れる予定です。
とにかく僕は、ALSの原因の特定と治療にひたすら向かいたいんです。

 

―少し話題が逸れますが、川田さんが気になってるベンチャー企業さんってありますか

株式会社WOODYさんですかね。Branch(ブランチ)という発達障がい児への取り組みなど、社会的意義が高そうだなと思います。

 

―発達障がい児への取り組みも川田さんの取り組みも、ある意味ヘルスケア分野だと思います。この分野は「予防」や「未病」という方向に向かっていますが、ALSはもっと手前の「まずは原因特定段階」ですね

まさに。一部で「症状の進行が止まった」という報告もありますけど、レアケースですし別に「止め方を見つけた」わけではない。論文を読んでいても、治験段階に進んだプロジェクトのニュースもあるけど個人的には全然楽観的な気持ちになれないです。

まず、レベル1の段階として「症状の進行を遅くする」
次にレベル2で「病気の進行を止める」「発症の予防」に取り組む。
いわゆるアンメットメディカルニーズというやつですね。

絶望的って程では無いですが、まだまだ何かが必要なんだと思います。
オルガノイドを用いて、ひたすらそれに取り組んでいます。

 


プロフィール
川田 治良 Jiksak bioengineering 代表取締役・博士(工学)
東京大学 生産技術研究所・藤井(輝)研究室・池内研究室 特任研究員を経て2017年2月に株式会社Jiksak bioengineeringを創業、代表に就任

インタビュー:波多野智也

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