Interview

農業を始める際の障壁をなくし、未経験者がその日のうちに就農する世界 ――seak株式会社 栗田紘

text by : 編集部
photo   : 編集部,seak株式会社

農業は力仕事で身体への負担が大きく、長年の知恵や感覚を必要とする。経営を軌道に乗せるまでには時間も掛かり、植物工場のような仕組みの導入には多額の資金が必要でリスクが大きい。
WHILL株式会社にCOOとして参画し、電動車いすの事業展開を支えた栗田さんがseak株式会社で新たに進めるのは「就農のハードルを下げる農作物生産プラットフォーム LEAP
身近な人の病気から免疫に関心を持ち、食や農業の未来に挑戦する栗田さんにお話を伺いました。


■農業を始める際の障壁を取り除く即日就農プログラムを提供


――現在のseakはどのような活動をされているのでしょうか?

現在は神奈川県藤沢にある生産拠点を中心とした直営で、耕作して実際に出荷しながら、仮説検証を進めています。

品目についてはトマトからスタートして、一通り実がなるタイプの野菜ができるようになりました。キュウリ、ナス、ピーマン、イチゴやメロンなど、生産ノウハウを拡げています。

これを生産地独自のノウハウに留めてしまっては従来の農業と変わらなくなる。そこで生産現場のデータを収集して別の生産地でも活用できるシステムを「LEAP」と名付け、内製で構築したものを2019年からフランチャイズ展開できるように勧めています。

――作物以外に、フランチャイズ展開開始前に生産拠点を増やす予定もあるのでしょうか

あります。
2018年春からは、藤沢以外に遠く離れた場所で生産拠点を増やす予定です。
この生産拠点同士が、「LEAP」でネットワーク化できるように進めています。

品目を増やす、エリアを拡大する、この2つを軸に就農者を増やしていきたいと考えています。
規模を大きくしていくだけでなく、農業において必要なフェーズごとにAPI化し、色々な企業や人が参入・連携しやすいよう準備も進める予定です。

――農業に必要なフェーズとは?

農業に必要で、農家を始めるうえで障壁となるステップの部分です。
大きく4つあるのですが
・農地を見つける
・施設を建てる
・実際に栽培する
・出荷して売る。
特定のプロセスではなく、ノウハウが無い人にとってはこの4つ全てが大変なんです。

例を挙げると、農地を見付ける際には自治体の方から斡旋してもらうのですが、実はこのとき1~2年間の研修を受けなければいけません。

手間やノウハウだけでなく、時間的にも長くかかる。
ここが後継者不足に悩みながらも新規の就農者が増えない構造ですので、この部分をLEAPで解消していく予定です。

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栗田さん自身の就農経験などを元に作られた新規就農プログラムLEAP
未経験者が即日で農業をスタートできる仕組みとして提供されている。

■新規ビジネス立ち上げの目線で見たら、農業には見直せる箇所がいくつもあった


――栗田さん自身、農業未経験者でしたが障壁となる箇所やその解消に繋がるソリューションはどう導き出したのですか?

実は創業時に、僕と共同創業者である柳沢の2人で個別に農業を始めました。
すると、新規就農者の目線で色々と見えてきます。

肥料をどうしたらいいのか?という課題や、2人でやっているのでどちらか一方がうまく出来た手法をシェアしたり、徐々に「このやり方は再現性がある」や「ここがボトルネック」と、農業における改善が必要なプロセスと手法が見えてきたので、これを仕組み化し、たくさんの人に広めるためのものとして再構築したものが、我々が提供する就農プログラム「LEAP」の基盤になっています。

――未経験者の2人だから気が付けたこととは

「なるべく売上をあげ、コストを下げる」というビジネス目線で当然なのに行われていないことに気がつきやすかったと思います。

例えばビニールハウスを建てる際、よくあるのは農協さんに見積もりを依頼して施工業者さんから金額が出てくる。商流が決まっていて楽な反面、「他はどうだろう。相見積もりをとってみよう」という発想があまり無い。

でも探すとちゃんと施工業者がいるんです、要は自力で業者選定して建てることも可能。
「そんなの当然でしょ」と思う人もいるでしょうけど、本当にこのレベルで見直せる箇所がたくさんありました。

――そういう変化は、既存の関係者から反発が出たりはしないのでしょうか?

どちらかというと、本気で農業に参入する意欲をもった若い人には好意的だと思います。
結局業界として「後継者問題」が大きいので、大丈夫か?本気か?と思われたことはありますが、本気の姿勢を見せた後は特に問題は無かったです。

それとITベンチャー的な視点と言いますか、業界の慣習やプロセスに直面した時に「本当にそのやり方じゃないとダメか?」というゼロベースの発想も活きたと思います。

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「ゆる野菜」というコンセプトで生産されるseakの作物。
なるべく野菜にストレスを与えない手法を編み出し、美味さと栄養価の両立にこだわっている。

■作物の良さと可能性を引き出すためのデータ活用と生産手法


――作物の生産データの収集や、それを活用した展開についてお聞きしたいのですが。

藤沢の生産拠点で実際に作物を育てていますので、既に色々なデータが集まり始めています。
野菜ごとにKPIを作り、トマトはサイズごとに3種類、キュウリ、ナス、ピーマン、品目ごとに収穫量や販売単価、生産コストなどをデータとして取得しています。

ちょうど収集したデータのどこが閾値で、そのラインを越えると何が起きるか?といったノウハウが見え始めてきている段階ですね。

大切なのは生産者側がコントロールできるデータと、自然環境でコントロールできないデータの整理です。「LEAP」では、出来る限り安いコストで栽培を実現するということも重要なコンセプトなので、例えば長雨が続いた場合に強制的に人工光を照射するというようなアプローチは取りません。

むしろ日照量が不足した時にどのような「対応策」を取るべきなのかというのが、コントロール出来ないデータに対する考え方です。一方で、栽培時における溶液の点滴、あるいは培地と言われる苗を入れる土の構成など、生産者側がコントロール可能な細かい栽培データもあります。

このように対応策と栽培データとを組み合わせて別の生産拠点でも活用可能な、各作物を最適環境に近づけるためのデータ活用方法を模索し続けています。

――確かにデータが取得出来ても、「うちの農地では使えない」じゃ意味が無いですよね。

その通りです。
データを分析して見えてきたのは「ナスを生産した際に収集したデータが実はキュウリにも活用できる」という新しい可能性です。

「LEAP」では袋栽培という、独自に開発した土を袋に入れて、そこに苗を植えるという手法を採用しています。これによって農地によらず均一な環境での栽培が可能となります。これはつまり、品目によらず相互に学習可能なデータとノウハウを取得出来る幅が広がるということです。

キュウリを生産した10人のデータを、ナスを作っている30人が活用しているという流れが構築できれば、既存の農業とは決定的に違う発想や手法が生まれるのではないかと考えています。

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生産を始める際、その農地には既に過剰な農薬や肥料が蓄積されている可能性もある。
「LEAP」は畑の土を使わず、独自の土を使うことで肥料成分と土壌バランスが最適な状態でスタートできる点にこだわっている。

■水回りのデータをリアルタイムで取得することが今後のカギ


――2019年のプラットフォーム展開まで見据えて、現時点で「ここに強みのあるプレイヤーと組みたいな」といった要望はありますか?

沢山ありますけど、最も重要なのはセンシングの部分です。
IoT市場の伸びもあり、以前に比べてコモディティ化していますが、まだコストが高い。

特に水回りのセンサです。
肥料の溶液濃度と水素濃度をリアルタイムで測定するにはパルス出力というマイコンボードへ結線出来る出力形式を持つセンサが必要で、中国から輸入しても1本7~8万円します。

センサが無いことでデータをリアルタイムで取得出来ていない部分もあるので、ここを解消できれば。

――LEAPのクラウド基盤に入れるデータの一つデータを入れる最初の部分ですね

はい、物理層のセンサを作れるような会社さんとはお話してみたいです。
中には欲しいセンサが1つ約20万円するものもあります、機構・メカの部分、特にそれを安く作れることに強みを持つ企業さんがいれば、もっと色々なアクションを前倒しできるなと思います。

seakの作物が栄養価や野菜本来の力を引き出すことにこだわる点は、
創業のきっかけでもある「免疫を治療ではなく普段の食事で改善」の理念と通じている。

■作物ではなく、農業技術そのものを輸出・輸入できる未来


――フランチャイズ展開が進んで、「LEAP」の仕組みを活用した農業がスタンダードになった先の世界の姿をどう見ていますか?

農業技術に対する産地・地域ごとの情報の非対称性が無くなると思っています。
作物を輸出・輸入するのではなく農業技術自体を輸出できる。

すると中央アジアや東南アジアの人も最先端の農業技術を活用して農作物が作れます。

農業で海外と言うと、収穫した作物を輸出・輸入する話になりがちですが、現地生産した方が配送費も掛からず双方にとってリーズナブルです。

――「LEAP」は当然海外からも利用できることを視野に入れているわけですね

はい、むしろアジアの方が日本国内よりも拡がる可能性はあって、そこをどれだけスピード感持ってやれるか?が中長期的な戦略では大きな課題になると思います。

12月にインドネシア人が入社するのですが、彼も将来的にはインドネシアでカントリーマネージャーをやりたいと考えていて、まずは藤沢で生産を学ぶところから始めます。

東南アジアから中央アジアにかけてのエリアは海が近く、比較的日本と近い気候ですのでより日本の農業技術を活かせると思っています。

それと、必ずしも大規模な農園でなくても、自分のやりたい規模感で家庭菜園の延長線上で農業が出来るようにしたいと考えています。
我々が提供するプラットフォーム「LEAP」で、個人で始める農業だけど最初から大規模な農園の膨大な生産・流通ノウハウが活用できる。

大規模でも個人経営でも、自分なりのサイズ感で農作物が作れて流通できる。その自由度が付加された農業というのが未来のあり方かなと考えています。


栗田 紘 seak株式会社 代表取締役社長
1983年神奈川県横浜市生まれ。東京工業大学卒業後、株式会社電通にてテレビタイム業務に従事。その後、WHILL株式会社の創業にCOOとして参画。2014年4月seak株式会社を創業し、代表取締役に就任。個人として藤沢市認定新規就農者となり、その後法人としても藤沢市では初めての認定を取得。農業プラットフォーム「LEAP」を展開。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)

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