2016.02.09 TUE QBキャピタル合同会社 代表パートナー 坂本 剛さん「川の上流がアカデミア、海が産業界だとすると、"汽水域”がわれわれのポジションです」
text by : | 編集部 |
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photo : | 編集部 |
QBキャピタル合同会社は、九大TLOである産学連携機構九州、西日本シティ銀行などの出資によるベンチャーキャピタルだ。九州大学を中心とした九州地域の大学の研究シーズ、アーリーステージの大学発ベンチャーを一気通貫で支援することを目的として2015年4月に設立され、同年9月には約31億円の「QB第1号ファンド」を組成した。大手企業からベンチャー企業、大学の産学連携組織、そしてTLOのマネジメントと多彩な経歴を活かし、大学発技術の事業化を支援するエコシステムの構築に取り組む代表パートナーの坂本剛さんに話を聞いた。
―まず最初に「QB」が何の略なのかが気になっているのですが…
よく聞かれます(笑)。私たち九州の人間は、「Q」を九州大学や九州の略として使うことが多いんです。「B」は「Bridge」や「Business」の略です。九州のアカデミアの世界とビジネスの世界の架け橋のような存在になれればと考えて命名しました。たまに「クオーターバックのQBです」などと言うこともありますが、こうして話のネタにしていただけるのではないかという狙いもちょっとありますね。
―そうでしたか(笑) 坂本さんはどういった経緯でQBキャピタルを設立されたのでしょうか?
九大工学部生産機械工学科を卒業後、大手企業から中小、ベンチャーまでひととおり経験したのですが、2003年ごろから国立大学に産学連携推進の機運が高まり、縁あって2004年から母校である九大の知的財産本部に大学発ベンチャー支援の担当としてお誘いいただきました。その後、2010年からは産学連携機構九州(九大TLO)の代表取締役として、大学発ベンチャー支援、産学連携ビジネスの開発に携わってきました。
その頃から大学発ベンチャー支援の大きな課題の一つがリスクマネーの供給ができていない、ということだと感じていました。研究自体は素晴らしくてもリスクマネーの供給の部分が弱いと、なかなか事業化に結び付きません。
そこで3年ほど前からファンドの企画を温めていて、ようやく昨年の4月にQBキャピタルが立ち上がり、9月から「QBファンド」の運営を開始しました。
―設立されたばかりのQBキャピタルですが、現在はどういった組織で、どのようなメンバーで運営されているのでしょうか?
出資者は、産学連携機構九州、西日本シティ銀行、そしてファンドマネージャの私と本藤です。「QBファンド」については、約31億円のうち、約半分を九州の地銀の雄である西日本シティ銀行から出資をいただきました。地銀さんが大学の技術の事業化にこれだけのリスクマネーを供給するのは珍しく、他地域の地銀や東京のVCからもこの件についてお問い合わせをいただいています。そして、中小業基盤整備機構のファンド事業から約25パーセント、九州の事業会社11社から約25パーセントの出資を受けています。
メンバーとしては、パートナーである私と本藤、アシスタント1名とで運営しており、現在30代くらいの若手のアソシエイトを探しているところです。
―大学VCというと、公的資金による官製ファンドというイメージが強いのですが、QBキャピタルの構成はユニークですね。
政府が4大学(東大・京大・阪大・東北大)に約1000億円を出資して各大学の大学発ベンチャー支援ファンドが設立されています。それはそれで良いと思うのですが、私はファンドマネージャの仕事には大きく二つあると思っています。ひとつは有望なベンチャー、シーズを探し、投資・支援することにより成長させ、イグジットまで導いていくということです。
もうひとつはファンドレイズ、いわゆる「資金集め」です。この大きな仕事を達成しなければ、本来のファンドマネージャとは言えないのではないかと思っています。
―かつては「1000社計画」(経済産業省が平成13年に発表した、大学発ベンチャーを平成14年度から平成16年度までの3年間に1000社設立する計画)というものもありましたが…
ありましたね…「大学発ベンチャーを創れば補助金が出るらしい」といった認識で会社を立ち上げてしまい、その後の事業展開が上手くいかない、「とりあえず起業」が多かったのが当時の大学発ベンチャーの課題でした。
こういった課題を解決するため、QB第1号ファンドは、1社あたり数千万から3億円程度のエクイティ投資を行うとともに、事業化プロジェクトの段階から数百万円程度の少額投資を行い、事業化を見極めるギャップファンド(プレ投資)機能を持ち合わせているのが特徴です。
起業する前の段階で躓いてしまい、ビジネス競争のスタート台にも立てないような事態を防ぐ、「ここは砂漠で、あそこにオアシスがあるから一人でそこまで行け!ではなく、そこに行くまでのラクダと水を用意するから一緒に頑張っていこう!」という仕組みを築くのがわれわれの役目ではないかと思っています。
―ところで九大および九州にはどのような技術があるのでしょうか?
九大を中心とした九州の大学ということで、九大のシーズだけを対象としているわけではありませんが、結果として6~7割を九大のシーズが占めるのではないかと思っています。幅広い分野の技術がありますが、有機ELや水素、エネルギー関連、ヘルスケア、アグリバイオなどの分野で優れた研究成果を生み出しています。
しかしながら、東京のVCの方とお話しすると、みなさん「技術系ベンチャーは距離的に近くにいてくれないと投資するのは難しい」とおっしゃるんですね。一方、九州のVCはどうかというと、技術系ベンチャーの成功事例がない、大学の技術シーズがよくわからないということで、どうしてもIT・サービス系のベンチャーのほうに目が向いてしまうとおっしゃるのです。
―優れた技術を持っていても、地方ならではの課題があるわけですね。
そうなんですよね。また、大学発ベンチャーは、研究者が起業するのではなく、研究者、技術シーズとともにマネジメントを行う経営人材、起業家人材を確保し経営チームを組成する必要があります。しかしながら、九州にそのような人材はあまり多くないのです。
たとえば、九大の学生は、約7割が九州の高校から入学する一方、理工系専攻の学生は卒業後にはその7~8割が九州から離れてしまうという現実があるわけですね。その中で起業をめざす人材となると、圧倒的に少なくなります。
そこで九州に限らず各所から人材を集める必要ありますが、それにしても、技術シーズや研究者とマッチングするにあたり、ある一定期間、いわゆる「お見合い」の期間が必要だと考えています。
大学発ベンチャーを起業するにあたり、リスクをとって死に物狂いで努力をし、実績を出せば資金調達が可能な環境、たとえて言うならば、リスクマネーが供給され、少なくとも2年間くらいは家族と一緒に普通の生活をしながら事業に集中できる、といった環境をこの九州で整えることができて、はじめて優秀な人材を集めることができるのではないか、というのが私の仮説です。
―具体的に今後、大学発技術の事業化について、どのように計画されているのでしょうか?
創業前の事業化プロジェクトに対し、SPC(特定目的会社)を活用し、年間5~10件×5年間、100~500万円/件のプロジェクト投資(プレ投資)を行っていく予定です。
その中から立ち上がったベンチャー5~10社に加え、すでに立ち上がっている大学発ベンチャー5~10社ほどにエクイティ投資していきたいと考えています。
―つまり31億円の多くの部分をシード・アーリーステージに投資するということですね。では最後に、QBキャピタルの今後についてお聞かせください。
こうしてなんとかQB第1号ファンドが立ち上がりましたが、実績を上げて2号、3号ファンドと続けていかないといけないわけです。
そのためには、あと10年経ったら私も60歳近いですから、次世代のファンドマネージャを育成していく必要があります。そこで現在30歳前後のアソシエイトを探しています。
アカデミアの人たちとのコミュニケーション能力が問われる仕事ですので、ファンドやVCの専門的な経験はもとより、技術的なバックグラウンド、特に医薬系であるとか、商社など異分野での経験なども活かせると思います。産学連携分野では女性で活躍している人も多いので、女性にもぜひ挑戦していただきたいですね。
―お聞きしていると、官製ファンドと民間VCの「いいとこ取り」のような、新しいモデルのように思えます。
ビジネスの世界の人間から見れば、アカデミアの世界は理解に苦しむことが多いかもしれませんが、「だから大学はダメなんだ」と言ってしまっては、産学連携による地域イノベーションなんて生まれることはありません。
私自身よく言うのですが、われわれの立ち位置って「汽水域」なんですね。「汽水域」とは河川から海へと水が流れ込む河口域など、淡水と海水が混じり合うエリアのことで、有機物が堆積するため栄養分が豊富で様々な生物を養うことができます。九州だと有明海のムツゴロウとかいるあたりですね。
川の上流がアカデミア、海が産業界だとすると、その境目である「汽水域」で生息するムツゴロウのように、格好はあまりよくないけれど、食べてみると意外と栄養があって美味しいぞ、という存在でありたいですね。
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