2017.09.06 WED パーソルグループのDB活用と「求人メディア」のノウハウで新規事業を創出 ― eiiconファウンダー 中村亜由子さん
text by : | 編集部 |
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photo : | 編集部、eiicon |
世界規模で企業間の競争が激化する中、海外の先進的な企業では、自前主義を脱却し、企業内部と外部のアイデアを有機的に結合させて価値を創造する「オープンイノベーション」を取り入れる例が増えています。
一方、国内に目を向けると、研究開発税制においてオープンイノベーション型の支援対象に、ビッグデータ等を活用した第4次産業革命型の「サービス」の開発が新たに追加されるといった追い風を背景に、自前主義の文化が根強く残る日本企業にとってもオープンイノベーションに取り組む気運が高まりつつあります。
そこで今回、astavisionでは、オープンイノベーションの促進および新産業創出のエコシステム構築に取り組む企業に着目し、「未来を創るオープンイノベーター」特集をお届けします。
第1回は、パーソルグループの新規事業起案プログラム「0 to 1」の初代採択事業として15年12月に採択され、17年2月に正式リリースしたオープンイノベーションプラットフォーム『eiicon』ファウンダーの中村亜由子さんにお話を伺いました。
■パーソルグループのデータベースシナジーで現在1700社の企業登録
―『eiicon』はパーソルグループの新規事業という成り立ちを持つサービスですが、採択されたときの評価のポイントは、どういったものだったのでしょうか?
パーソルのビジョンとして「雇用の創出」ということを掲げており、雇用が発生しているところを支援するだけではなくて、雇用自体を生み出していきましょうというスタンスがまずありました。そこで事業創出という部分が評価されたのがひとつ。もうひとつはプラットフォームビジネスというところで、会社の持つデータベースを既存の人材事業以外のところにも生かせる可能性があるというところが評価されたと考えています。
―パーソルグループの新規事業として始めたことで有利だった部分はどういったところでしょうか?
やはりデータベースを持っている会社だというのは有利だったと思います。
スタートした段階で600社の事前登録は、『eiiconlab』というオウンドメディア経由で集めたものでしたが、開始後の伸びに関しては、既存顧客からの問い合わせや登録があったのは一つ大きかったと思っています。現在は、1700社までユーザー企業が増えています。
―逆に難しかったことはありましたか?
社名変更もそうなんですけども…せっかくインテリジェンスという知名度のある社名があったのですが(笑) それと、うちはプライバシーマークを取得している会社なので、個人情報の管理の仕方ですとか、法務関連やセキュリティ関連で、普通にスタートアップを立ち上げるよりもハードルが高かったですね。
■スタートアップがいなくてもいいし、目新しい技術が無くてもいい
―『eiicon』は、企業はもちろんのこと、自治体や大学/研究機関なども含め、幅広い層に向けて「誰もが提携先パートナーを探せる」ということを謳っていますよね。
もともと、地方の中小企業の方、特に製造業の方に使ってもらいたいという思いがありました。Webに苦手意識がある方にこそ使ってほしいということもあったので、有料ではなく無料でも有料と遜色なく全機能が使える(回数や量に制約がある)、というところを強く意識したプラットフォームになっています。
―中小企業というと、大企業との提携案件を探している会社というイメージでしょうか?
このサービスを立ち上げるにあたって、大企業がスタートアップと提携するのがオープンイノベーションである、といったような固定概念を覆したいという気持ちがありました。別にスタートアップがなくてもいいし、大企業同士でもいいですし、中小企業同士でもいいですし、結局なんの課題を一緒に解決したいか、であると思っています。
『eiicon』としてはオープンイノベーションの定義自体を新規事業創出のいち手法、と位置付けているんですね。そうすると、例えば事業の第3の柱とかになるかもしれないですけど、別にそんな規模にならなくてもよかったり、既存事業の拡大でもいいと。1対1でなくてもいいと思っていますし、目新しい技術じゃなくてもいいと思っています。
―大学や研究機関に関してはどうでしょうか?
9月4日にプレスリリースを出しましたが、オープンイノベーション推進ポータルとの提携で、一挙に100室ほどの大学研究室にご登録いただいています。これまでにも大学のご登録自体はありましたが、すごく先進的な取り組みをされている教授、みたいな方がちらほら見られるという状況で、先例を作ることはなかなか難しいと感じていました。今回の提携で、うちの研究室も企業と手を携えていく道もあるのかもしれない、と思ってくださる方が増えればと思っています。
―では自治体はどうでしょうか? 地方ならではの課題は色々とありそうですが。
自治体様からは積極的にお問合せ・ご活用いただいていまして、たとえば島根県の松江市には有料でお使いいただいていますが、企業誘致や、地場の老舗メーカーと一緒にアイデアを生み出してくれるベンチャーと組みたい、といったオーダーをいただいています。ほかにも今、各自治体様とお話を進めている最中です。
■オペレーションの範囲内でできる「支援」もある
―提携先候補を見つけてメッセージを送ったとして、そのあとのやり取りは上手くいっているのでしょうか? 特に大企業とベンチャー企業とのやり取りは難しそうですが。
やり取りは活発に行われていまして、関西のメーカーが東北のベンチャーに会いに行く、といったようなことが実際に発生しています。
あとは、独特といえば、まずメッセージで対等なコミュニケーションがなされるという点ですね。大企業からベンチャー企業に対して「情報交換したいのでお会いしたい」というメッセージを送ったとします。それに対してベンチャー企業が「情報交換をしている時間は無いので今回はお断りさせてください」といった返答をすることもあります。事前のメッセージのやり取りだけで「ちょっと違うね」といったような感触を得られるのは有用だと思います。
―Web上でのやり取りで完結できるからこそ時間や手間をセーブできるんですね。でも実際、リアルな支援が必要となる局面も多いのではないでしょうか?
「リアルでの支援」をどう定義するかにもよるのですが、あえてサービスとしては定義していません。新しいスタートアップが多数生まれる中で、各分野に精通したプロフェッショナルを社内には抱えていないというのが事実です。
そのため、パーソル内の他サービスの力を借りながら、プロの目を借りて目利きをすることもありますし、どういう順番で誰に会うかといったストーリーの組み立てをすることもありますが、ただ、それは通常のオペレーションの範囲内で行っていることなので、それを「リアルでの支援」と言ってしまうのは少々おこがましいかなと思っています。
―なるほど。では、オープンイノベーションの気運が高まっている現状で、課題に感じているのはどんなことですか?
現状のオープンイノベーション関連の盛り上がりは、リーマンショック前の投資ブームと似ていると思っていて、とりあえず「オープンイノベーション」となってしまっている現状が一部あるのは怖いと考えています。
なぜオープンイノベーションをやるのか、今、やるべきなのか。もし社外に門戸を開くのであれば、それは何のどんな課題を、どういう風に解決するためなのか。その会社にとってのオープンイノベーションの定義をしっかりと行って、それに沿ってストーリーを設計していかないと、すぐにこの盛り上がりも終わってしまうという危機意識は強くあります。
現在、大企業が「うちのリソースを使いたい人はみんな来て」というアクセラレータプログラムやアイデアソンを開催するパターンが増えてきています。ただそういう構想のご相談・お話をいただく際に、「本当にそのリソース使えるのですか」と確認していくと、実は使えるか確認していなかったり、本当は使えないことすらある。明確なビジョンや、ゴールが定まっていない例も散見されます。すでに、実践をされた企業様で、結果に満足できない経営陣が、オープンイノベーションって意味ないよねとなってしまっている企業様とお会いすることも増えてきました。
■「求人票」のノウハウで社内のリソースを棚卸
―そういった課題認識をもとに、『eiicon』ではどのようなソリューションを提示しているのでしょう?
求人に置き換えるとわかりやすいと思うのですが、たとえば、社内ではこういうことが出来て得意、逆に、この部分を社内でやるには時間がかかるからこの分野のプロフェッショナルがほしい、この部署を立ち上げるからこの部署をともに担う人物が必要、いった情報を明確にしますよね。オープンイノベーションに関しても、本当はある程度具体的な同様のニーズ・課題があるはずです。
でも、人事部に比べ、方法も目的も確立されていない「オープンイノベーション関連部署」や、「経営企画」という部門が窓口に立ち、企業募集・仲介する形式が多いため、現場のニーズや・シーズ、経営陣のニーズやシーズを前提として持たない形で「とりあえずベンチャー集めました」という事例が出てきているのです。
『eiicon』は現状会うためだけのプラットフォームですが、「何のために会うのか」という部分だけは徹底的に絞り込むようにしています。自社の特徴、提供できるものは何か、一緒にやりたいことは何か、相手に伝えたいメッセージは何か、ということをフォーマット化しています。
―これまで人材会社として求人票を扱ってきた経験が活きているわけですね
考える手順、方式はほとんど同じですね。手ごたえを感じながら『コンセプト設計~取材・掲載』までを実践してきましたが、ローンチから半年たち、現在やっとさまざまな提携や出資、共同研究の事例が生まれてきたため、「求人」と「求社」の手順・考え方が、類似するもので通用するものだという証明が出来つつある感じです。
―しかし、その過程では、社内のリソースの棚卸をしなければならないと思うのですが、それは『eiicon』が行っているのでしょうか?
そうです。その企業の事業計画に基づいて、どの領域をやっていくのかという部分からヒアリングしています。有料プランの場合、私たちは掲載型広告という形で3ヵ月70万円からのプランを提供しています。
―ヒアリングというのは、どういった方たちに行っているのでしょうか? 先ほどのお話だと、経営企画といった部署の方たちだけでは難しそうですが
会社にもよりますが、基本、現場の方たちにもヒアリングしています。たとえば、「うちのビッグデータを使えます」と言われたとして、それ本当に使えるんですか、どこまでがオープンデータなんですか、といったことを突っ込んでいくと、「現場に確認します」ということは往々にありますので、そのタイミングで、あえて第三者の立場から現場の方にお話しを伺うようにしています。
また、「何のために」「どういう風に」など使い方などは間接部署の方は知らないことが多くありますが、それはそれで、ミッションが異なるため致し方ない部分であると捉えています。我々はそれらを吸い上げて一つの募集を作っていくプロでもあります。
―では最後に『eiicon』のこれからの展望をお聞かせください。
まずは、大学などの産学や、グローバルな企業とも出会える場にしていきたいと思っています。その後、いまは出会うまでの支援ですが、出会った後以降の支援サービスも組み込んでいこうと考えています。
オープンイノベーションは、出会い、共創して事業やサービスを創出し、一定市場に必要とされてから初めて、成功したと言えます。そこまでの入り込んだ支援にも参入していきたいと思っています。
eiiconでは、まず新規事業を考えた時の手法のひとつに「オープンイノベーション」が想起される世界観を目指します。
たとえば、この事業をグロースさせたい、と考えたときに「中途採用」が第一に想起されます。これは「中途採用・転職」が日本に根付いた証拠だと考えています。また、ライトにマーケティングしてみたい、と考えたときに「クラウドファンディング」という手法が想起されていますよね。
それと同じように、まず3年で新規事業を考えたとき、「オープンイノベーションでやってみる?」とミーティングで会話が交わされるような世界を目指して邁進していきます。
[Profile]
中村亜由子 パーソル キャリア株式会社 eiicon founder/ eiicon 事業責任者
東京学芸大学を卒業後、2008年にインテリジェンス(現 パーソル キャリア)に入社。1年目はメディアプロデュース統括部に配属されDODAの編集に携わり、2年目に元々希望していた営業部へ異動する。産休・育休中に自ら考案したオープンイノベーションプラットフォームの新規事業案が、パーソルグループの新規事業起案プログラム「0 to 1」の初代採択事業として15年12月に採択され、事業責任者となる。17年2月27日に正式リリースを果たした。
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