Interview

コマツが描く「建設現場の未来」スマートコンストラクションが現場の人材不足を解消する?——コマツカスタマーサポート株式会社 藤田隆徳

text by : 編集部
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今、建設・土木業界に立ち塞がる喫緊の課題が現場施工における労働者不足です。2025年には130万人の労働者が不足する、と言われる“2025年問題”。

それを解決すべく、国土交通省は「i-Construction」(ICTの全面的な活用により建設生産システム全体の生産性向上を図るビジョン)を発表していますが、小松製作所(コマツ)はそれよりも先駆けて「安全で生産性の高いスマートな“未来の現場”を創造していく」という「スマートコンストラクション」を始動させました。

コマツとともに同プロジェクトを推進するコマツカスタマーサポートの藤田隆徳さんにお話を伺いました。


きっかけは、130万人の労働力不足


建設・土木業界は近年、労働力不足に陥っています。総務省「労働力調査」によれば、いわゆる“工事現場の職人さん”としてイメージされるような「建設技能労働者」の数は2000年頃から下降気味に。1997年に464万人もいた技能者は、現在330万人ほどにまで落ち込んでいます。

そして、状況はさらに深刻です。コマツカスタマーサポート株式会社レンタル事業部スマートコンストラクション推進部の部長、藤田隆徳さんは「これから予測される未来」について、次のように警鐘を鳴らします。

「現在いる330万人の技能者のうち3分の1ほどは、今後高齢化などを理由に離職すると見込まれます。建設需要はこれからもおおよそ横ばいに推移すると考えられていますが、2025年には必要労働者数350万人に対し、実際の技能者数は216万人。業界はおよそ130万人の労働力不足に見舞われるという推計です」

130万人の労働力不足をどう“埋める”べきか……。もちろん建設業への新規入職者を増やす試みも業界をあげて行われていますが、他方で、国が期待を寄せているのが、生産性向上による省力化です。2016年、国土交通省は「ICTの全面的な活用(ICT土工)等の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す取り組み」としてi-Construction(アイ・コンストラクション)というビジョンを提示。i-Construction推進コンソーシアムも設立しました。

その国交省i-Constructionに先駆け、独自の手法で労働力不足の解消を進めるのが、建設・鉱山機械、ユーティリティ(小型機械)、林業機械、産業機械等のメーカーとしてグローバルにビジネスを展開するコマツ。そしてコマツのグループ企業で、2018年4月、コマツ建機販売・コマツレンタル・コマツリフトの統合で誕生したコマツカスタマーサポートです。

「建設会社の90%以上は社員数が10人にも満たない中小事業者。ゼネコン・サブコンと言われるような大手・中堅建設会社であれば自社やJV(ジョイントベンチャー)の取り組みのなかで労働生産性を上げることもできるのでしょうが、中小事業者には難しいでしょう。彼らを含め、建設業界全体の労働生産性を向上させるべく、我々建機メーカーは何をできるか。そこで最初に考えたのが、ICT建機の現場導入でした」


労働力不足の救い手!? スマートコンストラクションとは?


コマツは2013年10月頃から、ICT建機(ブルドーザー・油圧ショベル)の市場導入(レンタル)を開始しました。GNSS(全球測位衛星システム)アンテナを備えるコマツ製のICT建機は、事前に3次元設計データを建機にインプットしておくことで、建機の位置情報と3次元設計データを照合比較しながらGNSSの誤差補正を行い、非熟練オペレーターでも「刃先誤差±30mm」という精度の操作支援や自動制御を可能に。しかし実際に導入した施工現場ではいくつかの問題に直面しました。

通常の土木工事は、おおまかにいえば「①工事測量→②施工計画の作成→③現地での施工→④検査・納品」の手順——具体的には、現地での工事測量による現況地形データと設計図を重ね合わせ、施工土量を算出。さらに設計図をもとにして、施工時の基準となる丁張りを設置し、丁張りに合わせた施工を建設機械で行います。

「ICT建機の現場導入により丁張りの作業などがいらなくなることから、生産性向上の期待は高まりましたが、土木工事には堀削・積込・運土・盛土・転圧・法面・舗装……といくつも細かな工程があり、工程ごとに建機が活躍します。道路工事にしてもICTブルドーザー1台を導入し、盛土の作業効率“だけ”を高めたところで、前工程との兼ね合いなどからボトルネックが頻出……。結果的に、生産性には大きな変化が見られなかったのです」

問題の本質は、ICT建機のみでは解決できない……。このときコマツは「工事の最初から最後まで(①工事測量→②施工計画の作成→③現地での施工→④検査・納品)、工事に関わるすべての人・建機、さらに土すらもICTで有機的につなげてしまおう」と、後の「スマートコンストラクション」の着想を得ました。こうして、国交省による「i-Construction」よりも早い2015年2月1日にコマツが始動させたのが「スマートコンストラクション」でした。

「建設生産プロセス全体に介在する人・現場・建機をICTで有機的につなぎ合わせ、測量から検査までの現場すべてを見える化。『安全で生産性の高いスマートな“未来の現場”を創造していく』というのが、スマートコンストラクションの基本的な考え方です」


オープンプラットフォーム化で見据える未来


同社が提示する「スマートコンストラクション」では、例えばドローンを用いた空撮により現況の高精度測量を行い、その一方で施工完成図面を3次元化。この2つを重ね合わせることにより正確な施工範囲・土量を把握できます。その後、クラウド(Sma-Con Cloud)を介し、施工計画、ICT建機による施工、出来形管理、3次元データの納品等々を見える化し、現場作業のきめ細かな効率化を可能にしました。スマートコンストラクションの導入実績は、河川工事、造成工事、道路工事等を中心に7,000以上(2019年1月時点)の現場にもおよび、業界での期待はますます高まっています。

スマートコンストラクションの俯瞰図

「スマートコンストラクションをきっかけに、当社の社員は建機を販売する“営業”という肩書きを外し、“コンサルタント”を自称するようになりました。測量から納品まで、現場で生じるさまざまな課題解決策をご提示し、ピンポイントでモノ(建機)を提供するのではなく、施工現場全体を俯瞰しながらお客様にソリューションを提供する。そうした企業でありたいと考えています」

2017年10月、コマツはSAP、NTTドコモ、オプティムの4社からなる合弁会社・株式会社ランドログを設立。建設生産プロセス全体をつなぐIoTプラットフォーム「LANDLOG」(ランドログ)もリリースしました。これらオープンプラットフォーム化の先に見据えているのは、スマートコンストラクションの再定義です。

「これまでの取り組みにより、施工現場の見える化までは実現できたと自負しています。しかしスマートコンストラクションの可能性はその限りではありません。いくつもの“施工現場の見える化”を繰り返していけば、おのずとデータが蓄積されるので、それをオープンプラットフォームと組み合わせれば、可能性はさらに広がります。次には“施工現場の最適化”を目指していきたいです」


コマツスマートコンストラクションが今後目指すもの


より効率的な施工方法を提案したり、人工知能を活用しながら建機制御の高度化・自律化を目指したり、あるいは“施工現場版Uber”といえるようなサプライチェーンの最適化が実現されたり……。オープンプラットフォームのなかであらゆる企業のパートナーシップが生まれることで、今後そうしたソリューションが生まれていくかもしれません。

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