2017.11.16 THU 自分に合った名医と出会えれば、医療費も抑えられ、医療業界全体の質向上にもつながる。 - 株式会社クリンタル 杉田玲夢
text by : | 編集部 |
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photo : | 編集部,株式会社クリンタル |
医療費の安さ、そして医療の質、平均寿命の長さ・新生児死亡率の低さなど日本の医療は世界でもトップクラスと言われる一方で、高額医療費や病院の赤字経営など日本国内において医療に関する社会課題は多く存在する。
自ら医師でもあり、クリンタル社の代表も務める杉田さんが目を付けたのは「名医と出会えるサービス」、医療費を抑え、医療業界全体の向上になぜ「名医との出会い」が大事か?についてお聞きしました。
■患者さんや症状によって「名医」は異なる
―クリンタルが展開する「名医と出会えるサービス」について教えてください。
生活者の方に「その方の症状にあった名医」を紹介できるサービスの提供を行っています。
普段、病院を探すときはネットの情報や近所の方の口コミを参考にするケースが多いと思いますが、クリンタルの特徴は「医者が専門の医師を探す時に何を重視しているか?」をアルゴリズムとして取り入れている点です。
医師が患者さんのために、特定の専門の医師を探すことがあるのですが、その際には手術の実績やその病気に関連する論文をどの程度書いているか?といった点を参考にしています。この切り口を用いて情報を患者さんに提供しています。
現在はこのサービスを患者さんに直接提供するBtoC事業と、法人を通じて適切な受診先を紹介するBtoBtoC事業の2つに取り組んでいます。
―患者にとって「名医かどうか」は、症状や状況によって違う気がします。
その通りです、医者からみた名医と患者さんから見た名医は必ずしも一致しません。
腕のいい執刀医でも手術まで半年待つのであれば、3か月以内に手術すべき患者にとっては名医と呼べず、その医師より実績が少なくてもすぐに手術を受けられる医師のほうがいい。
また、高血圧の治療においては「長期間継続する」ことが大事ですので、患者さんに「ちゃんと病院へ通おう」と長期間思わせるようなコミュニケーションのできる医師が名医です。
命に関わる胃がん患者であれば、その医師の手術実績や胃がんに関する深い論文、そして患者が必要なタイミングで手術できるか?が大事。
要は、「その患者さんに適切な治療を適切なタイミングで提供できるか」が最も大事なんです。
おっしゃるとおり、症状や治療方法によってその要因は変わりますので、クリンタルでは病気・症例ごとにその専門医の先生方とお話しながら「何が名医なのか?」を定義しサービスとして提供しています。
■海外で目にした「医療の質を上げ、医療費を下げる良い仕組み」
―杉田さん自身も医師ですが、なぜ「名医を探すサービス」で起業したのですか?
アメリカ留学時代に「医療の質を上げ病院経営としても理想な仕組み」を見たからですね。
印象的だったのは、カナダに鼠径ヘルニアの手術に特化した大きな病院があるのですが、そこは鼠径ヘルニアに関して世界トップレベルの病院です。
領域特化することで、患者さんが集まり、医師の腕も磨かれ、手術の成功率が上がります。するとさらに知見が溜まるスピードも速くなり、結果的に患者が退院するまでの日数も短縮化され医療費負担も安くなる。
これを仕組み化できれば、患者はより実績の多い病院で治療を受け最短日数で退院することで医療費を下げられ、実績のある病院に更に知見が溜まり医師のレベルアップにもなると考えました。
―医療業界からの反応はどうでしたか?ランク付けされて反発する方もいそうですが。
いえ、好意的な反応がほとんどです。病院も患者さんに対する情報公開に積極的になっているのと、非効率な受診を防ぐというところに共感いただいている、など様々な理由があります。
また、病院が直面する経営課題や、厚労省が目指す大きな方向性とも合致している部分があるからかもしれません。
大事なのは患者が適切な治療を受けられること、その結果医療費削減ができれば良いと考えています。例えば胃がん手術であれば全国の平均入院日数3週間程度と言われていますが、手術実績の多い病院だと効率的な治療によって2週間程度で退院できます。しかし実績の少ない病院だと2か月かかることもあります。
実績の違いによって入院日数も大きく異なれば、その結果かかる医療費も異なってきます。
弊社としては、患者さんに実績のある病院を受診していただくことで、医療費を下げることもできればと思っています。
■自分が何の病気かわからない段階で活躍する「診断の名医」
―「名医」と聞くと、重病の患者相手に難しい手術を成功させるイメージがあります、実際は違うのでしょうか?
はい、大事なのは「治療の名医」と「診断の名医」は違う点です。
何の病気かが判明していてどんな治療が必要か判っているのであれば、必要なのは「治療の名医」です。腕の良い執刀医、適切な治療が提供出来る世の中の「名医」のイメージに近い方。
ただ、頭痛や腰痛など慢性的な症状に悩まされていて、とりあえず近くの病院に行くけど「なんともないですよ」と言われてしまうことってありますよね。
こういう人には「診断の名医」が必要です、しかしこの段階だと患者さん側も必死で良い医師を探そうとしないケースが多い。
―たしかにその「慢性的な症状」があまり酷くない場合はなんとなくそのまま放置しそう
その通りです。
しかもそういった「診断の名医」は患者さんとしては非常に探しづらい。
クリンタルが企業向けのアプリで健康相談のチャットを提供している理由もここにあります。
まずは気軽に相談できるように「健康相談」という形で早い段階でいろいろな悩みを聞き情報を収集し「これは治療が必要そうだ」と感じた時点で適切な病院を紹介します。
自分ではたいしたことのない症状も、医師から見れば重要な初期症状のシグナルが含まれていることもあります、それがわかった段階で「こんな病気の可能性もありますよ」とお伝えして、早めに受診していただくようにしています。
―仮に完治したとしても、症状が進行してからでは社会的な課題と言われる「高額な医療費」に繋がりますよね。
日本の医療制度は素晴らしいと思っています。比較的安い医療費で、いつでもどこの病院でも受診ができて、結果として、平均寿命もかなり長くなっています。ただ一方で、アクセス重視で成長してきたために、病院・病床が多くなってしまった、という問題はあると思っています。
特に、私達は総合病院の乱立を課題だと思っていまして、結果として医師不足や患者不足による病院経営上の課題などが生まれていると思っています。
■クリンタルの取り組みを通じて、日本の医療問題を解決していく。
―確かにどの街に住んでもそれなりに病院はありますが、逆に「こんな場所に大きな病院があるけど患者さんいるのかな?」と思うことがあります。
そうですね、「質・効率重視の医療」で僕らが考えているのはそれぞれの診療科をもっと集約する必要があるという点です。
個々の病院が「循環器」や「周産期」など何かしらの領域に特化して補完しあう、そうすれば各病院における治療の実績も多くなり、知見が溜まることで医療の質がよくなります。
総合病院がたくさんある状態ではこれがなかなか難しく、例えば各総合病院に1人ずつ心臓外科の先生がいても、心臓外科手術の中には1人では無理な手術もありますし、1人では互いの知見を共有して治療の質を上げる機会も得辛い。
もし点在している心臓外科医4人を一か所に集めれば高度な手術も出来ますし、シフトを組んで夜中でも急患に対応できる、4人それぞれが教えあうことで治療の腕もあがります。
―患者さんも、病院が複数あっても行く場所は1つでしょうから、それなら1つに集まっていてそこで質がよく安価な治療を受ける気がします。
はい、僕らがいま注力しているのは「医療費へのインパクト」を出す事です。
クリンタルのアプリサービスの利用者をとにかく増やす、それによって1人でも多くの適切な診断・治療を受ける人を増やす。
先ほどの「胃がん」のように、効果的で効率的な治療は結果的に医療費を抑えることに繋がります。クリンタルのサービスを通じて実績のある病院に行き、最短で治療を終えることで「医療費が抑えられる」というエビデンスを構築していく。
そうなれば国や自治体、健康保険組合や生命保険会社など多くの団体にとってもメリットのある取り組みを一緒にやるメリットが提供できますし、高額な医療費や医師不足と言った社会課題の解決にもつながると考えています。
杉田 玲夢 株式会社クリンタル 代表取締役社長・医師
1981年生まれ。東京大学医学部卒業。
NTT東日本関東病院、東京大学医学部附属病院での研修を経て、広くヘルスケア業界の抱える課題に興味を持ち、国内コンサルティング会社に転職。厚労省、経産省などと社会的課題に関するプロジェクトを経験後、デューク大学ビジネススクールに留学。MBA取得後、2012年ボストンコンサルティンググループ入社。製薬会社や医療機関の経営改善を多数行う。2014年よりプロジェクトリーダー。患者によりよい医療をという想いの下、2015年5月clintal創業。
インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)
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