2016.12.06 TUE クラウドファンディング事例やデータヘルスの最新動向を紹介:講演「IoTとビッグデータ時代の生体情報センシング」前編(抄録)
text by : | 編集部 |
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photo : | shutterstock |
12月2日、東京・五反田の技術情報協会セミナールームにおいて、アスタミューゼ株式会社 テクノロジーインテリジェンス部長の川口伸明が登壇し、「IoTとビッグデータ時代の生体情報センシング」のタイトルで講演を行いました。
講演では、クラウドファンディングから生まれたアイデアを含む最新事例や、データヘルスの最新動向、さらには脳・知覚・Cybernic・人工知能・ナノバイオなど、近年注力される分野における生体情報の活用について論じられました。
その内容の一部をご紹介します。
■クラウドファンディングから生まれたウェアラブル生体情報センサ事例
クラウドファンディング(CF)には、大学発ベンチャーや大企業からスピンアウトした個人発明家などの様々なアイデアが提案されています。それら中には大手メーカーでは対応できないような非常にマニアックなものや、その分野の専門家では思いつかないような奇想天外なアイデアなどが散見されます。こうしたアイデアの斬新さや、既存の枠組みにとらわれない製品開発の新たなアプローチとして、CFに注目する大企業も増えてきています。
そんな中、ウェアラブル生体情報センサのCFエキジットも現れはじめています。
オランダのスタートアップ、Arenar社は『iBand』という就寝時にアイマスクのように装着する製品を開発し、Kickstarter上で2016年10月までに3860人から約7800万円を集めました。これは脳波や心拍・体温・体動を計り、眠りの状態を解析するというもので、レム睡眠時にLEDライトや枕スピーカーからの音楽などにより、lucid dreams(明晰夢)に導くというものです。夢を見ているという自覚を持ちながら、空を飛んだり、様々な場所に瞬間移動できたりするという明晰夢。まさに夢を与えてくれる技術として、期待を集めています。
ニューヨーク拠点のLifeBEAM社がオーディオブランドのHarman Kardon社と共同開発したViというヘッドフォンは、最近増えてきたカテゴリーであるヒアラブル(聴ける)デバイスの一つで、クラウドのAI(人工知能)によって、パーソナライズされた運動のコーチングを提供するというものです。ランニング時に装着していると、心拍や移動速度、位置情報などをトラッキングし、AIが音声で応援してくれたり、運動目標の達成度を教えてくれたり、また、音楽を鳴らしてと言葉をかけると、スマホと連携して、音楽を再生してくれたりします。このプロジェクトには、7257人から約1.9億円を集めました。
また、東大発ベンチャーのH2L社が開発した腕に巻くタイプの触感型ゲームコントローラー『UnlimitedHand』は、モーションセンサと筋変位センサによってユーザーの手の動きをゲームに入力するというもので、筋電ではなく筋肉の表面の動きをセンシングしています。ゲーム上で銃を撃つようなシーンでは、銃を撃つ動作を検知すると、電極から微小な機能的電気刺激(FES)を筋肉に与え、銃を撃った時のような衝撃を感じさせてくれます。
日本のクラウドファンディングサイトでも、トリプル・ダブリュー・ジャパンの超音波エコーによる排泄予知ガジェット『D Free』がREADY FOR上で345人から約1200万円を、酒酔度の計測や酔い醒めへのアドバイスをしてくれる学習型アルコールガジェット『TISPY』がMakuake上で1430人から約1500万円を集めるなど、面白い動きが始まっています。
■データヘルスの最新動向:遠隔診療、職場でのストレスチェック、コンティニュア・ヘルス・アライアンス…
2015年6月閣議決定の「経済再生運営と改革の基本方針2015」に「遠隔医療の推進」が盛り込まれ、同年8月には厚生労働省から遠隔診療の事実上の解禁通達がありました。それまでも遠隔画像診断のように、医師同士をつなぐ「Doctor to Doctor(DtoD)」領域では遠隔医療の活用が比較的進んでいたのに対し、原則禁止との憶測から開発がほとんど進まなかった「Doctor to Patient(DtoP)」領域での活用に道を開いたことになります。ただし、全く対面診察せず、メールやSNSだけで完結する遠隔診療は、医師法第20条違反になるとの指摘(医政医発0318第6号)が2016年3月になされています。
富士フィルムが東京慈恵会医大と共同開発した遠隔画像診断システム「i-Stroke」、タブレット超音波診断「SonoSite iViz」 は救急患者を受け入れた病院から、専門医の持つスマートフォンに患者の検査画像や診療情報を送信するというDtoD遠隔医療アプリの典型例で、主に脳卒中の救急医療をサポートします。
国内ではDtoP遠隔診療関連のコンテンツはあまり増えていないのですが、米国では、AirStrip TechnologiesがApple Watchで胎児と母体の心音が聞け分けられるDtoP遠隔医療支援アプリなどが普及し始めています。
メンタルヘルスの分野では、「労働安全法」の改正により、2015年12月以降、労働者が50名以上の全事業場に対し、「ストレスチェック」を全労働者に対して年1回実施することが義務付けられました。これに伴い、職場でのストレスチェックに自律神経測定デバイスの活用が期待されています。日立グループのクラウド型「疲労・ストレス検診システム」は、(株)疲労科学研究所の自律神経測定器をベースに日立システムズのデータセンターを活用して開発したもので、自律神経機能が鋭敏に反映される指先の脈波(指尖容積脈波)を2階微分した加速度脈波を解析することで疲労や心理的ストレスを評価しています。
関西学院大学も指先脈波を用いた疲労・不安・抑うつ解析システム「Lifescore Quick」の基本技術を開発しています。これは厚生労働省が提示するストレスチェックをタブレット上で実施できるというもので、「疲労」「不安」「抑うつ」のスコアが自動集計され、「高ストレス者」がわかるようになっています。
さまざまなデータが得られるようになったことで、それを取り込み、解析するための統合化プラットフォームの構築が重要になってきています。そうした背景から、ISO/IEEE 11073に基づく医療機器や健康機器の相互接続性ならびにデジタル化促進、通信規格の統一を目標に「コンティニュア・ヘルス・アライアンス(Continua Health Alliance)」が設立されました。これには日本から40社以上、世界中で240社を超えるベンダーが参加しており、BAN(Body Area Network)の普及も進んできました。
しかしながら、各メーカー間でのデータの相互利用はほぼ手つかずの状態にあり、生体データの研究機関は複数メーカーの各種機器から得られたデータを、個別に解析しているのが実情です。それらのデータを統合して、多くのパラメータを一元的に多変量解析できるシステムを構築することが医療ビッグデータを本格的に活用するための課題となっています。
そのためには、例えばオムロンが提唱している産業分野におけるセンシングデータ流通市場のように、ヘルスケアにおいても、個人情報に細心の配慮をしつつ、各社が分散して保有している生体情報や医療情報、生活習慣、ライフスタイルなどの各種情報を分野を超えて相互に活用できるような新たな仕組み(シェアリングエコノミー)が必要になると考えています。
12月8日公開予定の後編では、近年、特に注力されている脳・知覚・Cybernic・人工知能・ナノバイオなどの分野における最新動向や、「Personal AI」の可能性、さらには今後20年間にわたる「生体情報センシングの未来」についてご紹介します。
【川口伸明 プロフィール】
アスタミューゼ株式会社 テクノロジーインテリジェンス部長
東京大学大学院薬学系研究科修了、薬学博士(分子生物学・発生細胞化学)
元国連グローバルフォーラム(The Global Forum of Spiritual and Parliamentary Leaders on Human Survival、ゴルバチョフ元ソ連大統領、アル・ゴア元米副大統領、故カール・セイガン博士などが参加)日本事務所長代行として、地球環境問題を文明的視座で探究、科学技術の社会的意義に関心を持つ。
その後、株式会社アイ・ピー・ビー(Intellectual Property Bank)取締役技術情報本部長、Chief Science Officerなどを歴任、優れた技術シーズを発掘するため、世界初の知財の多変量解析システム構築や知財ファンド設立、バイオやナノテク分野、エコメカニカル分野はじめ、シード段階のベンチャーへの投資育成・事業プロデュースなどに関わる。
現在、アスタミューゼ株式会社において、技術情報・市場情報・ソーシャル情報を統合した事業戦略策定、広範な分野における技術・知財戦略コンサルティング、オープンイノベーション・新規事業開発の支援、科学技術系コラムの執筆などに注力。
また、本来の専門領域である発生細胞化学の知見に基づき、ハーバード大学BWH准教授らの再生医学・生体イメージング研究チームのアドバイザを務める。
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