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サイバニクス、ナノバイオなど注目分野の動向からPersonal AIの可能性、20年後の未来まで:講演「IoTとビッグデータ時代の生体情報センシング」後編(抄録)

text by : 編集部
photo   : shutterstock

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12月2日、東京・五反田の技術情報協会セミナールームにおいて、アスタミューゼ株式会社 テクノロジーインテリジェンス部長の川口伸明が登壇し、「IoTとビッグデータ時代の生体情報センシング」のタイトルで講演が行われました。

クラウドファンディングにおける生体情報デバイス事例や、データヘルスの最新動向をご紹介した前編に続き、脳や知覚、サイバニクス、人工知能、ナノバイオといった注目分野の動向と、パーソナルな生体情報「Personal AI」の可能性、今後20年間の「生体情報センシングの未来」についてご紹介します。


 

■近年、特に注力されている分野:脳・知覚・Cybernic・人工知能・ナノバイオ…

最近、特に注力されている分野として、脳関連では、脳波を利用したマーケティング法(ニューロマーケティング)があります。日立グループでは、近赤外光を用いて脳血流量の変化を捉える光トポグラフィ測定装置をウェアラブル化し、自動車運転中のドライバーの脳の活動状況と安全性との相関を調べたり、自動車やファッション、食べものなどの色やデザイン、味や機能などの印象を調べたりと、様々な分野の新製品開発に利用され始めています。

また、NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)は頭に被ることで脳波計測が出来る導電性ペースト不要のメッシュ型ウェアラブル脳波計を開発、これを活用して脳波で動かせるドライブシミュレーションゲームも開発しています。

人工知能の分野では、外科手術用ロボットdaVinciで有名な米国Intuitive Surgical社が開発したAI方式による外科医ロボット『Smart Tissue Autonomous Robot(STAR)』を使った実験により、世界で初めて患部の縫合(ブタの腸の縫合)を自動で実行することに成功しています。

また、知覚の分野も注目です。日本のQDレーザー社は、MEMSミラー搭載のメガネ型レーザープロジェクション装置(レーザーアイウェア)を開発しています。これは、目の網膜に赤・青・緑の量子ドットレーザ光で画像を直接スキャン投影することで、近視・乱視・弱視であっても、網膜や視神経、脳視覚野に障害が無ければ、鮮明な画像を認識できるというもので、動画・3D・AR・VRなどにも対応し、レーザーアイウェアを装着した執刀医に対する世界初のAR手術支援(術部画像を3D空間提示)も実現。これは目の障がいを補完するだけでなく、コンピュータやAIによるヒトの生体機能の拡張(サイバニクス)にもつながります。

そのサイバニクスの分野で、最近話題になったのが、『サイバスロン(Cybathlon)』です。最新のテクノロジーを搭載した高度な義肢や装具を着用した障がい者によるスポーツの大会で、第1回は今年の10月にスイス連邦工科大学チューリッヒの主催により開催されました。オリンピックに併催されるパラリンピックは、障がい者が技術で補完した身体を鍛えることで自らの運動能力を高め競い合う競技大会ですが、サイバスロンはヒトがコンピュータやAI、ロボットなどと一体化し、機械的な技術力で勝負するものです。脳波でゲームを動かすBCI(脳コンピュータインターフェイス)競技、機能的電気刺激(FES)で筋力をコントロールして行う自転車競技、ロボット義手で素早く正確にものをつかんで移動させる競技、ロボット義足による競争、パワー外骨格スーツ(ロボットスーツ)での重負荷競技、機能性車椅子による激しい段差を乗り越える競技など6種目を、日米含む世界25カ国74チーム、総勢約300人が参加。世界中から約7000人の観客が集まりました。これぞまさに生体情報とAIやロボティクスの新技術が花を咲かせる分野、おそらくベンチャーが主導していくことになると思われますが、非常に可能性があると思われます。

 

Cybathlonに日本から出場した電気通信大学発ベンチャー、Meltin MMIの節電義手

Cybathlonに日本から出場した電気通信大学発ベンチャー、Meltin MMIの節電義手   (c)ETH Zürich – Hochschulkommunikation

 

このほか、知覚や情動の伝送に関して、日本のVRスタートアップ、FOVE社のHUG PROJECTでは、故郷で寝たきりの祖母が、遠く離れた都会の孫娘の結婚式にVR技術を利用して参加する遠隔臨場(TelePresense/TeleExistance)を実現させました。ソフトバンク社のロボットPepperに載せたカメラで結婚式場の様子を撮影、病室の祖母はその映像をヘッドマウントディスプレイを通して間近に見ます。孫娘がPepperに向かって手を振ったり、抱きしめたりすると、祖母も応えて手を振り、遠く離れた孫娘を抱きしめます。現在は、映像・音声の伝送によるコミュニケーションですが、将来、体温や心拍、鼓動、心音・呼吸音、触力覚の伝送も可能となれば、さらなる臨場感が期待されます。

 

FOVEの「HUG PROJECT」。Pepperをアバターに故郷の祖母が結婚式にVR参加。 (c) FOVE, Inc. All Rights Reserved.

FOVEの「HUG PROJECT」。Pepperをアバターに故郷の祖母が結婚式にVR参加。 (c) FOVE, Inc. All Rights Reserved.

 

一方、ナノバイオの分野では、国立台湾大学が無線で投薬を指示できるインプラント型薬物送達(Drug Delivery System: DDS)Soc(System-on-a-Chip)を開発しています。これは、薬物の微小容器を備え、外部から無線送信されたコマンドを受けて薬剤を放出するシステムで、サイズは1.7mm×1.4mmとまだ少し大きいですが、より微小化し、皮下に埋め込み、外部からの電気信号により薬物を放出します。生体情報の変化をトリガーにすることも可能で、がんの局所診断・治療や、心臓発作の緊急処置などに応用できると思われます。

 

■ビッグデータに非依存 極めてパーソナルな生体情報「Personal AI」の可能性

病気診断や治療過程での医療ビッグデータの利用には、膨大なデータを集めることや、その解析方法、個人情報保護、シェアリングなど多くの課題がありますが、その一方で、ビッグデータに依存せず、ある特定の患者一人だけ、あるいはその家族やごく親しい友人までといった極めてパーソナルな生体情報だけを選択的に学習する「Personal AI」バイオセンサというものも考えられます。例えば、介護や見守りといった分野では、世界の標準データと関係なく、その患者一人の行動や症状の特徴だけに注目することがむしろ重要な場合も想定されます。近年、ヘルスケア分野のICT(情報通信技術)はビッグデータやIoTに大きな関心を寄せる反面、こうしたパーソナルな分野は実は未開拓のままで、大きなチャンスがあります。

生体情報で展開が変わるBioFeedbackゲーム「Mindlight」”Walking Into Darkness” や、最近発売された対戦ゲーム「FINAL FANTASY XV」におけるゲームAI(キャラクターを知能化し意識表現することでより生命感・臨場感を感じさせる)などがヒントになるでしょう。

 

■生体情報センシングの未来

IoTとビッグデータ時代の生体情報センシングは未だ助走期間です。今後、5年以内の近現在にも、脳科学の研究を取り入れた全脳アーキテクチャ研究や知覚や意思、情動の伝送などの試みはますます盛んになるでしょう。

10年以内の近々未来までには、体液中 Exosomal miRNA(マイクロRNA/miR)や腸内フローラ(細菌叢)多様性の可視化など「代謝機能・オミックスセンシングの時代」が始まるのではないでしょうか。匿名化情報の共有・情報流通(生体情報のシェアリングエコノミー)の議論がようやく深まるのもその頃だと思います。
さらに、10-20年後の近未来には、脳機能の解明と身体機能の改善拡張への大きな前進がみられることでしょう。そこでは、「脳腸相関(brain-gut interaction/brain-gut axis)/視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸」の解明による脳神経系・精神疾患や免疫系・慢性疾患への貢献も期待されます。また、再生医療・細胞工学・バイオ創薬における生体情報活用(空間位置情報・生体電磁場・生体スピントロニクス等)も始動するかもしれません。

そして、20年後からの未来、Singularity(技術的特異点)まで10年足らずと予想されるその時、ヒトはAIを使って、認識の地平をどこまで広げていることでしょうか?

生命現象の深部に迫り続けるセンシングテクノロジーの未来に興味は尽きません。


 

【川口伸明 プロフィール】
アスタミューゼ株式会社 テクノロジーインテリジェンス部長
東京大学大学院薬学系研究科修了、薬学博士(分子生物学・発生細胞化学)
元国連グローバルフォーラム(The Global Forum of Spiritual and Parliamentary Leaders on Human Survival、ゴルバチョフ元ソ連大統領、アル・ゴア元米副大統領、故カール・セイガン博士などが参加)日本事務所長代行として、地球環境問題を文明的視座で探究、科学技術の社会的意義に関心を持つ。
その後、株式会社アイ・ピー・ビー(Intellectual Property Bank)取締役技術情報本部長、Chief Science Officerなどを歴任、優れた技術シーズを発掘するため、世界初の知財の多変量解析システム構築や知財ファンド設立、バイオやナノテク分野、エコメカニカル分野はじめ、シード段階のベンチャーへの投資育成・事業プロデュースなどに関わる。
現在、アスタミューゼ株式会社において、技術情報・市場情報・ソーシャル情報を統合した事業戦略策定、広範な分野における技術・知財戦略コンサルティング、オープンイノベーション・新規事業開発の支援、科学技術系コラムの執筆などに注力。
また、本来の専門領域である発生細胞化学の知見に基づき、ハーバード大学BWH准教授らの再生医学・生体イメージング研究チームのアドバイザを務める。

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