2017.12.20 WED オープンイノベーションによる事業開発の現状と課題~イスラエルスタートアップの魅力と可能性~アスタミューゼ×Aniwo共催セミナーレポート
text by : | 編集部 |
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photo : | 編集部,日経BP社,aniwo |
約6,000社ものスタートアップ企業が活動し、人口約850万人にもかかわらずNASDAQ上場企業数も世界4位の「スタートアップ大国」イスラエル。その画期的な技術に注目するグーグルやマイクロソフト、インテルといったトップグローバル企業が積極的な投資・買収を行い、昨年からはソニーやパナソニック、自動車メーカーなど日本企業の参入も進んでいます。
12月1日、東京・日本橋で「オープンイノベーションによる事業開発の現状と課題 ~イスラエルスタートアップの魅力と可能性~」と題して開催されたセミナーでは、オープンイノベーションプロジェクト『リアル開発会議』を運営する日経BP、世界中の特許やクラウドファンディングなどのビッグデータ解析によるデータドリブンなオープンイノベーションの支援実績を持つアスタミューゼ、イスラエルを本拠地に日系企業向けの現地企業調査や進出支援を行うAniwoの3社が、それぞれ講演を行いました。
その模様をレポートします。
【基調講演】日経BP流、オープンイノベーション『リアル開発会議』
中道 理 氏
日経BP社 日経BP総研 クリーンテック研究所 上席研究員 リアル開発会議編集長
「新規事業創出と異業種連携を推進する会員制コミュニティ」という標語を掲げて2014年に立ち上げた『リアル開発会議』ですが、新規事業開発にかかるバリアを取り除くプラットフォームを作りたいと思って作り始めました。
といっても我々自身が事業開発をやるというわけではなく、日経BPの発信力や中立性をうまく活用していこうという話です。
新規事業創出のボトルネックとなるのは、「いかにして社内で話を通すか」という部分ですが、失敗への恐れがある中で、価値基準が無いために決裁者が判断ができない、という場面が多々あると思います。
そういうときに、信頼できる第三者が外部からその事業の価値を認めてあげることによって突破できることもあり、そのヒントが私たち日経BPにあると思っています。
もうひとつ、課題となるのが開発リソースの問題です。これに関して、我々は「フィールド・アライアンス(事業の”場”を提供する異業種連携)」という考え方を提唱しています。
一般的な新規事業開発というと、新規事業を開発した会社側が協力してくれる会社にお金を払う、といった関係性になりがちです。これだと受発注の形となり、お金がかかるばかりか、アイデアを各社から集めることができません。であれば、最初からみんな共同開発者にしてリスクテイクする仕組みを作ればいいと考えています。
一方で、フィールド・アライアンスには難しい面もあり、企業の規模に格差があったりすると、受発注の関係になってしまいがちです。あるいは、片方だけが儲けようとしているんじゃないかという疑心暗鬼が生まれたりということも起こります。そこに我々が入って、公平性・中立性を保つことに意味があると思っています。また、フィールド・アライアンスを実践し、何かコトを始めようと考えたときに、声をかける相手が限られるという問題もあります。日経BPの発信力を生かすことで、これまでつながらなかった企業とつながってコトを起こすということもできます。
『リアル開発会議』における議論の進め方ですが、ハッカソンなどでは、アイデアを出した人を中心に議論が回ってしまいがちです。それを避けるために、我々がつかんできたニーズから開発テーマを提案し、試作品・試作サービスを作っていきます。その後は各社で事業化するという流れで、インキュベーションのところまでを行うのが『リアル開発会議』です。
最後に、『リアル開発会議』のテーマのひとつで「100kg可搬ドローン」という事例をご紹介します。
これは重いものを運べるドローンを作って何かやりましょう、というテーマだったのですが、面白いのが、山を持っている木材屋さんが来たんですね。高く売れる良い木材は山の上のほうにあるが、それを採るには新たに山道を作って採りに行くしかない。でもドローンがあれば山の上のほうまで直接採りに行けるのではないか、と考えて来たということです。今、これを実現すべく検討が始まっています。
オープンイノベーション実践に向けた課題と成功に向けたステップ
河崎宏郁
アスタミューゼ株式会社 事業開発部 ディレクター
オープンイノベーションにおける現状
ここ2、3年くらいで色々な会社でオープンイノベーション室ができるような状況がありますが、その中で共通してお聞きする悩みが、新規事業とかオープンイノベーションがバズワードになってしまっていて、実際にどのように進めたらよいのかがわからない、ということです。
私たちは未来を考えるにあたって「イノベーターと投資」という2つの情報が重要であると考えています。
未来が創られるところというのは、人が集まっているところがひとつ、もうひとつは投資が集まっているところです。われわれはベンチャー情報、研究テーマ、クラウドファンディング、特許情報、3Dプリンタの図面データという5つのデータを定量的に分析することによって、イノベーターと投資の情報を見ています。
たとえば、ベンチャー情報、研究テーマ、クラウドファンディングという、いま期待されている社会・事業を示唆する情報に対して、特許/論文や3Dプリンタデータといった確からしい現在・過去の根拠データを紐づけていく、といった具合にです。
オープンイノベーションを成功に導くための具体的なステップ
たとえば、自動運転をやろうとなったときに、自動運転という領域がカバーする対象がわからない、その領域の重要な技術や研究がわからない、という声が聞かれます。そういった時に、ファクトデータを活用して、運や個人技に頼らない事業創出をしましょう、といったことを提案しています。
具体的なステップとしては、先ほどご説明した世界中のイノベーションデータを、弊社のアナリストが約200の有望成長市場に分類し、さらにその下に用途・目的、要素技術などで詳細分類を作っています。たとえば自動運転の用途・目的で、”衝突・追突防止”という分類でどういったベンチャーがいるか、ということをデータで見ていただき、どこと組むべきか、といったことをご提案しています。実際にデータを見てみると、自動運転という領域で”衝突・追突防止”の技術を持っているのはドローンのベンチャーだった、というようなことがわかるわけです。
オープンイノベーションのよくある課題として、「出会いのきっかけは作れるが継続発展が難しい」ということを挙げられます。また、マッチングやアクセラレーションプログラムを実施しても、「浅い提携で終わり事業がスケールしない」「出てきた新規事業が具体化されない」ということがよくあります。
結局何が原因なのか考えてみると、進め方の自由度が高すぎたり、社内の共感を得られる根拠づくりができていない、といったことが挙げられます。
まず、進め方の問題ですが、新規事業の検討時には、「シーズ起点」と「マーケット・イン」の2つの視点があります。
実際に私たちが手がけている案件でいうと、マーケットから入っていくと苦労するパターンが目立つ、というのが率直なところです。世の中の動きから見ていくと、結局みんな同じところに行ってしまうんですね。また、マーケットから入っても、そこから自分たちの持つシーズとぶつける段階で時間がかかってしまいます。最近多いパターンは、シーズを医療や自動運転といった有望成長市場に当てていって、どういうところに使えるかというのを見ていくというやり方で、具体的には、特許の牽制情報を活用した異分野展開の診断モデルをご提案しています。
最後に、社内の共感を得られる仕組みづくりの重要性についてお話ししたいと思います。
われわれの持っている新事業、新技術、新製品に関するデータを、最近では共感情報データベースと説明することが多いのですが、どんなに最先端の技術でも、共感を得られないとなかなか事業として進めることが難しいというのがあります。
そういうときに、データというエビデンスがあることで、社内でのコンセンサス形成がやりやすくなるのではないでしょうか。
イスラエルにおけるスタートアップとオープンイノベーション概況
植野力 氏
Aniwo株式会社 COO
イスラエルにおけるスタートアップトレンド
イスラエルの企業というと、比較的裏側の技術を持っている企業が多いのであまり知られていませんが、最近発表されたiPhoneⅩのFace IDも実はAppleが今年のはじめくらいにイスラエルの顔認証の技術を持つ会社を買収してサービス化したものであったり、facebookで顔写真を上げると誰々さんじゃありませんかというのが出てくるのも、facebookがイスラエルのFace.comという企業を買収してサービス化したものであったりします。
いま、だいたい300社以上のいわゆるマルチナショナルカンパニーがイスラエルに研究開発とか投資の拠点を置いていると言われています。
イスラエルは人口約850万人しかいない国なので、何かを売りにいくというよりは、次の何かを作るための相手を探すためだったり、買収・投資するためだったり、人を採用するためだったりします。その中に、最近だとホンダさんであるとかトヨタ自動車さん、日産自動車さんといった自動車メーカーや、パナソニックさんなどが進出し始めているという状況です。
いまイスラエルには6000社くらいスタートアップがいるって言われており、だいたい毎年800~1000、去年は約1400社のスタートアップが毎年生まれているような状態です。
ナスダックに上場している企業数の国別のランキングでいうとイスラエルがいま4位ですが、他の上位国はアメリカ、カナダ、中国と人口が何億人もいる中で、イスラエルは約850万人しかいないのに世界で第4位というところで世界的にも注目されています。
投資や新規事業をやろうとする会社さんが気にされているのはシリコンバレーとの違いです。
米国のスタートアップには、もちろん技術的に優れている会社もたくさんあるのですが、どちらかというとUberやAirbnbのように、ビジネスモデルが秀逸で、多額の資金をVCから集め、一気に世界制覇する、といったような会社が目立つと思います。
イスラエルの場合は、基本的に技術を基に会社を立ち上げた、というパターンがほとんどです。
また、イスラエルは人口が850万人しかいないこともあり、基本的に国内向けのサービスを作るというよりは、アメリカやヨーロッパ、アジアといった「外」を向いています。
シリコンバレーだと、結局いい案件にはVC以外は入れないといった声も聞きますが、イスラエルだと比較的、情報にアクセスしやすいというのがあると思います。
シリコンバレーには日本企業が800社くらい進出していますが、イスラエルではまだ60社くらいなので、いまはチャンスなのではないかと思っています。
イスラエルにおけるグローバル企業のオープンイノベーション概況
ではグローバル企業がイスラエルでどういったことをやっているかというと、例えば製薬会社のメルクでいうと、Qlight Nanotechという、ディスプレイに使われるような量子ドット材料の会社を買収しています。ほかにも例えばアリババであるとか、ジョンソン・アンド・ジョンソンといったグローバル企業がまず現地のスタートアップを買収してイスラエルに進出する、という流れがあります。まず買収してニュースを作ることによって現地で認知が高まり、同様の技術がどんどん集まってくるというのが狙いです。
次にボッシュですが、部品であるとかその周辺の企業に投資しているというわけではなくて、自分たちが持っていないものに対してボッシュのCVCから出資をしているというのがあります。
いわゆるオープンイノベーションみたいなものの本来の目的であるところの、自分たちに足りない何かをよそから持ってくるというところで、もともとそこまで強くなかったソフトウェアの話とか、あまり強くなかった製造方法みたいなものに投資されています。
最後にメルセデス・ベンツですが、ライドシェアの会社とHUDに使えるような素材技術の会社などに投資しています。ライドシェアの会社の場合、実証実験はイスラエルではなくニューヨークやロンドンなどで行っています。
実証実験だったらある程度人口が密集しているニューヨークがいいけど、技術開発であれば本国のイスラエルでやろうといった具合に、最適なロケーションを選びながら新しいことをやっていこうという傾向があると思います。
次にボッシュですが、部品であるとかその周辺の企業に投資しているというわけではなくて、自分たちが持っていないものに対してボッシュのCVCから出資をしているというのがあります。
いわゆるオープンイノベーションみたいなものの本来の目的であるところの、自分たちに足りない何かをよそから持ってくるというところで、もともとそこまで強くなかったソフトウェアの話とか、あまり強くなかった製造方法みたいなものに投資されています。
最後にメルセデス・ベンツですが、ライドシェアの会社とHUDに使えるような素材技術の会社などに投資しています。ライドシェアの会社の場合、実証実験はイスラエルではなくニューヨークやロンドンなどで行っています。
実証実験だったらある程度人口が密集しているニューヨークがいいけど、技術開発であれば本国のイスラエルでやろうといった具合に、最適なロケーションを選びながら新しいことをやっていこうという傾向があると思います。
進む日系企業のイスラエル進出と注目業界および今後の展望
その中で日系企業はどうしているかというと、たとえばソニーさんは去年、半導体メーカーのアルティアセミコンダクターを約250億円で買収しました。
田辺三菱製薬さんもニューロダームという中枢神経系の薬を開発している会社を買収したりと、共同開発をやる会社もあれば、自社のVCから投資していく会社もあったりと、事例が増えてきています。
もうひとつ、一番手っ取り早くお金を稼ぐのであれば、オープンイノベーションといった言葉に引きずられずに、イスラエルの面白いプロダクトを日本で売るというのが一番シンプルで実績が出ている、という現状もあります。
最後に、イスラエルのスタートアップはやはり小さなチームで活動しており日本から距離的にも遠いので、何か一緒にやろうとなると、すごくリソースを食うところもありスピーディーな投資を求められることが多いのですが、日系企業の方とイスラエルに同行している際に投資実行に対する体制がないために話が進まないということもあるので、なにかそこに向けた心づもりというか、準備をしておいたほうがいいと思います。
その中で日系企業はどうしているかというと、たとえばソニーさんは去年、半導体メーカーのアルティアセミコンダクターを約250億円で買収しました。
田辺三菱製薬さんもニューロダームという中枢神経系の薬を開発している会社を買収したりと、共同開発をやる会社もあれば、自社のVCから投資していく会社もあったりと、事例が増えてきています。
もうひとつ、一番手っ取り早くお金を稼ぐのであれば、オープンイノベーションといった言葉に引きずられずに、イスラエルの面白いプロダクトを日本で売るというのが一番シンプルで実績が出ている、という現状もあります。
最後に、イスラエルのスタートアップはやはり小さなチームで活動しており日本から距離的にも遠いので、何か一緒にやろうとなると、すごくリソースを食うところもありスピーディーな投資を求められることが多いのですが、日系企業の方とイスラエルに同行している際に投資実行に対する体制がないために話が進まないということもあるので、なにかそこに向けた心づもりというか、準備をしておいたほうがいいと思います。
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