Interview

未来創造を「伝わる」コミュニケーションデザインで支援する。 ——OZ Inc. 山縣文平

text by : 嶋崎真太郎
photo   : 嶋崎真太郎

イノベーションによる新しい事業やサービスの創造活動が活発になる中、どれだけ作ってもそれを市場に届けるには別のテクニックが必要になります。機能だけではなく、作られた想いや、サービス化に至るまでの努力・ストーリー。産業イノベーションを掛け算で飛躍させていくためには、何をどう伝えるかといった、「表現」が重要なファクターになります。

10代の頃よりデザインを学び、米国でデザインエージェンシーの実績を積み、現在日本でデザインシンキングの手法を元に様々な企業に対してコミュニケーションデザインを通して未来創造を支援しているOZ INC.(オズ)の代表取締役、山縣さんにお話を伺いました。


モノづくりと、ブランドの進化。アイデンティティの創造。


日本は戦後何十年も経ちますが、何もないところからモノを作り、それを非線形で成長させ、産業が発展して国が豊かになった独特の国家です。グローバルで見ても珍しい成長を数十年前に実現した「イノベーション国家」になります。当時と今で比較した時に、最も変化しているのは、モノがなかった時代から、今まさにモノが飽和の状態になっているという時代背景です。

よく、「海外と日本のブランディングの違いは?」と問われることがありますが、モノが飽和している「時間軸の差」みたいなものだと感じています。欧米の方が少し早く事業やサービスをブランディングしなければならなかった。

今の日本は、イノベーション国家を作ってきた世代の下で育った人材が企業上層部にいることが多く、ギャップを感じる方もいらっしゃると思います。当然だと思います。その方々は、一生懸命にモノを作って、売って、いまの日本をゼロイチで創ってきた開拓者です。でも今は、モノが飽和状態にある日本。一生懸命に作ったから売れる時代のフェーズではなく、作った後にどう差別化していくかという時代。ブランディングという手法の重要性は常にある訳ではなく、差別化するフェーズにおいてとても重要な技術だと感じます。

もし、海外と日本のブランディングに大きな違いを挙げるとするならば、民族性の違いはとても感じます。個々のアイデンティティとかアイコンを何かしら作らないと、多国籍に混ざってしまう米国などでは、わかりづらくなってしまいます。海外では、日本特有の「あうんの呼吸」みたいなものがないので、「言わなくてもわかる」とか、「これってこういうことだよね」といった発想はありません。一方で日本は同一民族であることや、均等に教育を受けられること、よほど貧しいとか、とても裕福だとかが少なく、全体的にフラットな国家なので、個々がブランドを作らなくても大丈夫だったんです。

ただ、企業で勤めるようになり、どう魅力を伝えるとか、差別化していくのかという話になった際、違いが海外と日本で出てきます。「より具体的な言葉にしていこう」「より具体的なビジュアルにしていこう」こうなるとどれだけモノづくりが進化しても、技術が進化しても、一歩遅れているように感じるのはアイデンティティの差があるからだと思います。

日本はモノづくりの一流企業が多く、海外はサービスづくりの一流企業が多いことも、ブランドの創造が自然体で得意というのが起因しているかもしれません。

サービスデザインの構築も外部パートナーとして共に開発していく。

海外と、日本。コミュニケーションデザインの違い。


ブランドのメッセージは作るだけではダメで、それがきちんと伝わるかが最も重要だと思っています。そのメッセージは、普段の生活の中で感じたことのある、基本的には誰でも体験したことがあるようなものとして共感してもらう為には、押し付けではなく感じてもらうことが大切だと思います。

私がブランディング支援で携わった外資系のヘルスケア企業でも、「作ったブランドをどう体現させてあげるのか」が、キーファクターになっていました。それはメッセージとして伝えていくのか、実際に体験できるプロダクトやサービスを通して伝えていくのか、どのシチュエーションにおいても、「ストーリーを作る」というのが、伝わるコミュニケーションのHow toなのではないかと思っています。

ブランディングの本音は「好きになってもらいたい」だと思います。海外の企業ブランディングの主軸は、事業やサービスを通したコミュニケーションデザインを設計しますが、それと比較し日本は、CSRや慈善活動、慈善事業を通じたコミュニケーションが多いと感じています。ある団体に寄付しています。とか、こういうアクティビティしています。という表現をされていますが、それ自体は企業が実際に行なっている事業やサービスにどれだけ深くかかわりがあるかというと、別物になっている活動がまだまだあると感じています。

日本企業の「好きになってもらいたい」がCSR等を通じた活動が多いなか、いまの時代、「本当にそれでいいのか」と問わなければいけないと思っています。なぜなら、モノが飽和状態になり、売りにくくなっている時代だからこそ、何を作って何をアウトプットしていくのかをきちんと考え、「どんなビジネスを展開していくのか」「そのビジネスはどんな風に社会貢献しているのか」「どうやって世の中をより良くしていくのか」をコミュニケーションしなければならないと思います。

CSRより、ESGを意識した事業投資活動にこれからの日本企業が変わっていけば、より多くのイノベーションが創造されるのではないかと感じています。


これからのブランディングは「つながる」が大切。


まだまだ、事業とブランディングの意識は「作ってるもの=ブランド」なのかもしれません。ただ、今までのブランドの考え方は、かっこいいとか、クールとかフレンドリーとか、感覚的なブランディングが多く、消費させていくブランディングでした。

今は「作ったものを消費するだけのブランディングって良くないよね」「それじゃあ地球も人間も耐えられなくなってしまうのではないか」という風潮になってきているので、デザインを正しく使い、社会とより良くつながれるように私たちも表現を工夫しないといけないと思っています。社会と人間がうまく継続的に発展しながら、地球と一緒に生きていけるような時間をブランド構築やコミュニケーションデザインを通じて設計していくことが、ミッションだと感じています。

OZとしても、私個人としても、「ただ売れればいい」という概念は好きではなく、その事業やサービスに向き合い、関わることで、どう世の中に対して貢献していて、社会とつながり、ポジティブに回転してくのか。そんな事業のコミュニケーションを一緒に考え、構築することが理想ではないかと考えています。


イノベーションに貢献するコミュニケーションとは。


日本の大企業や古くからある企業に多い傾向ですが、縦割り組織でコミュニケーションの流れが上から下になっていますよね。スタートアップや成長ベンチャーの多くは、事業自体が何をやっていて、どんな貢献性があるのかが自然と形作られていたりするのですが、旧態依然とした企業の多くはそうじゃない。さらに、コミュニケーションの流れだけでなく、何年かごとに組織内で異動が発生するのも課題だと感じています。ジェネラリストは多いのですが、スペシャリストが少なくなっている気がします。

事業やサービスを通して、何かの目的を達成するスペシャリストが少ないのは、やはりイノベーションの創造においてすごくもったいなく、機会損失が起きているのではないかと思います。現に大企業から離職し、自身でスタートアップをやる経営者が出たり、転職者が出るといった人材流出の損失は確実に起きています。

会社全体として「どんな社会貢献を創造するのか」といったコミュニケーションが希薄になっているので、社会貢献の活動と製品PRをしているマーケティング部門と、実際に製品やサービスを開発したり販売する部門が縦割りで別々の動きをしている企業もあると思います。上から下へのコミュニケーションだけではなく、横にもつながるコミュニケーションデザインを社内で構築しないと、せっかくのPRも点になってしまい、伝わるものも伝わらなくなります。

コミュニケーションデザインで、伝えるべき相手は大きく3パターンあると思っていて、「お客様となる方」「社外ステークホルダー」もうひとつは「一緒に働く仲間、社員」です。それぞれの対象者に適切なコミュニケーションをしていく事はみんな共通認識であるはずで、それを継続していくことがブランディングだと思うのですが、それが縦割りの考えになると、各企業の事業活動も正しく伝わらなくなってしまいます。

「会社が何をしているのか」「どこを目指しているのか」、社内で共感できるコミュニケーションデザインを設計することで、イノベーティブなことだけではなく、何がソーシャルグッドなのか、どんな事業がソーシャルインパクトを与えるのかという視点を、組織と人が横断で持てるとそのコミュニケーション自体がイノベーションの種になったりします。

イノベーティブって、「かっこいい!」「ワォ!」とか、そういう感動も素晴らしいのですが、その感動の少し奥にある、世の中をポジティブに改変できる何かを共にできたりすると、すごく強くなれるのではないかと思います。

納品は、始まりにすぎません。ここから成長を共にしたアップデートが始まります。

アートとデザインの違い。


アートは、課題自体の定義がまず先にあると思うんですよ。自分がものをつくるモチベーションの中にその課題があり、作って発信する。デザインは、課題を与えられその課題を解決するために作られたりします。問題を可視化して発信するアートと、課題を与えられて解決するソリューションを発信するデザイン。

いま、クリエイターって変な言葉を使うから困ってしまうのですが、なにもクリエイティブなのはアーティストやデザイナーだけじゃありません。こういうところでもコミュニケーションの中で誤解を生んでいます。

それこそ、ゼロからイチを作れるのがアーティストと言いますが、課題を自ら定義してそれに対してアプローチするのは、新規事業の開発や立ち上げも、アートに近い。アートとデザインは、向き合っているものや場面、目的によって変わると思っていて、相反していると思います。だから、両方を同時進行で一緒にやれる人は結構少ないと思います。企業のブランディングやコミュニケーションデザインを依頼する時は、そのデザイナーがアート寄りなのか、デザイン寄りなのかを明確にしないと、思ったようなアウトプットが出ないことが、起きたりすることも当然あります。


OZが挑戦する未来。


OZという社名は「映画のオズ」から引用しています。私がこの映画が好きなのは、みんなに欠点があるのですが、その欠点をみんなで補いながらチームとして進んで行くことで未来が開けたり、より楽しい世の中になっていくストーリーがとても好きだから。私自身も欠点が多い人間で、不完全ですけど、いろんな人が集まって一緒に進んで行けば、いい事ができるんじゃないかと考えています。

自分の欠点は隠し、人の欠点をつく。それはとても簡単なことだと思いますが、自分の欠点を補える人を尊重することをみんなができれば、すごい世界が待っていると思います。

コミュニケーションデザインを通して、企業の魅力を世の中に伝わるようにする仕事をしていますが、どんな企業もどんな事業も完璧はなく、コンプレックスがあると思います。そこをOZはチームの一員として、「一緒にやりましょう」「旅をしましょうよ」という形で取り組みます。その方がすごく前向きだと思いますし、旅という概念も好きなので。OZが挑戦する未来は、「共に未来を創造できる仲間探し」を続けていくことですね。

「オズの魔法使い」原本フィルムがオフィスに飾られている。

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