2015.10.22 THU (後編)東京大学竹内研究室 竹内昌治さん「ビジネス推進が得意な人との出会いを求めています」
text by : | 編集部(聞き手:astamuse.comディレクター 波多野智也) |
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photo : | 編集部 |
「Think Hybrid」を合言葉に多彩なバックグラウンドを持つ研究者が集結し、その成果を発表し続ける東京大学 生産技術研究所 竹内研究室。インタビュー前編に続き、後編では最近立ち上げたベンチャー企業や、投資、企業との共同研究などについて竹内昌治教授に聞いていく。
■「現在の価値観」において受け入れてもらうこと
―インタビュー前編の最後のほうで、「未来に役に立つかもしれない研究にも、いまこの瞬間に興味を持ってもらわないといけない」ってお話がありましたよね。
価値観の共有が大事です。時代ごとに移り変わる「現在の価値観」において受け入れられなければいけない。うちの研究室で、埋込み型の血糖値センサーというのを作ってまして、これは光の具合で数値の高低が判って24時間連続でセンシングができるという技術があります。
このセンサーを、街なかにいる人に「これ、あなた体内に埋めたいですか?」って聞くと、まだ今の社会の価値観だと、ほとんどの人は「えっ…」って戸惑うでしょ。だから埋込み型に理解をもってもらうにはどうしたらよいか、その形状やスタイルを考える。
―社会が受け入れる形にする。
はい、50年後はみんな当たり前のように体内にセンサー埋めてるかもしれない。社会の価値観は変わるんです。だから世の価値観に合わせて、研究成果を伝えることも大事です。
―パンフレットもそうですけど、すごくデザインへの意識が高いですよね。
見栄えというか、見た目をすごく重視しています。「三次元の組織を作ろう」という大きなテーマの研究をやっているんですが、これ説明文だけじゃ伝わらないですよね。これを人の型にすることで、まったく研究に興味がない人にも「なんだろうこれ」って思わせる。そこが重要。
■引き出しが多いことが、僕らの特色
―社会の価値観があって、それは移り変わるって話でいうと、最近大学がVCを設立したり、イノベーションをテーマにしたニュースやイベントが増えていると思うのですが、どう思いますか?
ベンチャーキャピタルは当然キャピタルゲインを得るためにやっていますが、パソコンがあってコードを書くとサービスが作れる、というソフトウェア事業じゃない場合、その手前が必要です。大学発のベンチャーには「研究成果をビジネスに展開するための事業計画の作成から、何とか日銭を稼げて軌道に乗せる」というところを支援していただきたいと思っています。
―研究に打ち込んでいる学生側の意識が、ああいうニュースを見て「自分も起業しよう」と考えはじめた、みたいな変化を感じたりは?
いや、現状は正直そこまでの感じではないです。状況によっても異なると思いますけど、もし学生がすごくいい発明をした場合、その知財は東大の所有物になります。特許を出願して、発明者は学生本人だけど、自分で権利化の費用や手続きを全て賄えるわけではないので、知財は基本的に大学側。
―なるほど。
もし、その学生に起業精神があって会社を作り最初はお金も無い中で、その知財の権利の貸与・独占実施権を得ようとすると、それだけで相当お金がかかるんです。しかもそれ以外に実験が必要だ、研究施設が必要だ、となる。
こういうところこそ支援が必要なんですが、そこのサポートが具体的にどうなっているか、失敗したらどのようなリスクがあるのかなどがもう少しクリアにならないと、学生自身はアクションしづらいのではと感じています。
―事業会社が投資をするケースも増えてますよね。企業側から打診が来て共同研究されている数も多いと思うのですが、どういう点を重視して取り組んでいますか?
まず、企業側に「異分野に対する理解がちゃんとあるか」ですね。企業は声をかけてきた時点で、当然大学側に何かしらの期待をしていますけど、共同研究はギブ&テイクですから、こちらがしてほしいことにも応じてもらえる、そういう関係を結べるか、という点ですね。
―特に竹内先生の研究室は領域も幅広いし、いますぐ何に役立つかが不透明なものもありますからね。
ええ、それでも最近は景気が良くなったのか企業側からも活発に研究費を出してくれる話がありますが、リーマン・ショックの頃はもう本当に何も出せないし何も動けないって時期もありました。そうなると出口がしっかり見えているものだけやりましょう、ってなっちゃう。
いまは景気も少し良くなったのか、基礎研究への理解もしっかりあって、双方メリットの出る関係性を構築しやすい状況だと感じています。
―でも異分野への理解って、企業側からすると「自分達の事業に関係ないもの」だから難しい、とかありそうですね。
僕らの研究室を好んで声をかけてくれる企業からは「引き出し多いね」ってよく言われます。色々な研究をしていますけど、企業側もその中の1つに絞っているわけじゃなく、2つ以上違った分野で興味がある。それを両方カバーできる僕らみたいなタイプを好んでくれるんでしょうね。
―じゃあ、この記事読んでいる企業側にアピールできる話のひとつとして「引き出しの多さ」が挙げられますね。
よく「狭く深く」「浅く広く」みたいな二択の表現あるじゃないですか。僕らは「広く深く」やりたいんです(笑)
―なるほど、なんでもできる!ってことですね。
そうなるといいと思っています。「あなたのバックグラウンドはなんですか?」と聞かれたら、僕なら機械工学ですが、大抵の人が1つは持っている。でもバックグラウンドって、元々持っているものを深めるだけでなく、広げていくことも大事だと思っています。研究室では、とにかく、多彩な分野を融合して、個々人のバックグラウンドを広げたいと思っています。
いま研究室に60人くらいいて、移植医療、機械工学、マテリアル、と専門分野はバラバラで、それぞれ彼らのコア部分だけど、2年経って研究室を卒業するとき、元々あるバックグラウンドが1つか2つ増えている。それを武器に次のキャリアを形成する。仮に元々やっていた領域に戻ったとしても、一度広げたという事実が武器になる、と伝えています。
■ビジネスが得意な人と、どんどん出会っていきたい
―研究を進めるだけじゃなくて、研究室内でベンチャーを立ち上げたりもしていますよね。
ええ、今年4月に「(株)セルファイバ」という会社を立ち上げて、研究室卒業生の安達が代表を務めています。
―そこではどんな事業を?
こういう、ヒモ状に見える形で細胞を入れることができるんですが、これを様々な分野に活用し事業化しようと。
―これを研究として進めるのではなく、法人化した理由は何ですか?
一番は、僕が作りたいと思ったから(笑)。
実際、この研究成果を公表したときに多くの企業から共同研究の申し込みがありました。そのとき感じたのは、この成果を着実に実用化するためには、地道な条件出しや調査が必要で、それらは大学の研究者が得意としている分野ではなく、むしろ企業研究に近いと思いました。これが起業にいたった動機です。
―コツコツと着実に事業化する段階に入ったと。
はい、そうなったときに研究室内に優秀な人材はたくさんいるけれど、彼らにはもっと弾けた研究をやってもらいたいし、研究者として大きく育ってほしい。
一方、セルファイバ社は企業としての研究を進める場だと思っています。
―研究室の中に事業化すべきアイデアがあるけど、それを自分たちだけでは進められないので、事業立ち上げが出来る人たちとの融合が大事、という話をよく聞くのですが。
おっしゃるとおりで、僕らは、ちゃんとした研究ができます。でもビジネスはまだまだ素人です。事業立ち上げとか、ビジネスモデルを考えて事業計画を立てて実行する人が絶対必要で、いまはそういった方々の多くに支えられて立ち上げているところです。
―事業立ち上げが得意な人側にも、そういうことをやりたい人が実は多い気はしてます。
いたら紹介してください(笑)
でも実際には、技術のことがわかっていて興味があって、やりたいという人はまだ少ないんでしょうね。
たとえば、博士が余っているなんて話もあるけど、ビジネスのことがわかればまだまだ活躍できるはずで、そこに先ほどの投資の仕組みが生まれたらもっといいですね。
―この記事を読んでいる事業推進の方で、本気でやりたい人はどうぞお問い合わせください、って感じですね。
そうですね、とりあえず会社は作りましたが、やはり起業した人の話をお聞きすると、すごく覚悟を決めてやってるなと感じます。そして、そのマインド+αで出会いがあるんですよね。ビジネス推進できる人との出会い。
―たしかに技術系ベンチャーで大きくなった会社のエピソードでよく聞きますね。
いま、まさにそういう出会いを求めている段階です。たとえば、私たちの場合、「セルファイバ」の話を聞いて、これはすごい、自分がやりたい!って思ってくれる人。
でもそういう出会いは確実に訪れるものじゃないですから、大学の中でももっと「アントレプレナーの養成」というのを大々的にやる機会があったほうがいいのかなって、考えています。
―色々なお話をお聞かせいただいてありがとうございました。ビジネスが得意でセルファイバに興味を持つ人がいたらご紹介しますね。
~竹内研究室から生まれたベンチャー企業「セルファイバ」~
「細胞を“部品”として扱うものづくり」を掲げる竹内研究室から今年4月にベンチャー企業が誕生した。特任研究員である安達亜希さんが代表を務める株式会社セルファイバは、細胞組織構造体を構築するための部品(基本ユニット)として開発されたファイバー形状の細胞組織(細胞ファイバ)の実用化・事業化を目指している。
一般企業での就業経験を買われてこの事業に取り組むことになった安達さんは、この半年間を振り返って「衝動でやりたいからやるんだ!という研究と、コツコツ実用化に向けた研究は180度違うことを求められるので、そこが悩ましい。ビジネス・事業サイドの方々に相談しながら良い技術をどうやって事業化していくかを模索中です」と言う。
再生医療をはじめとする幅広い分野での貢献が期待される株式会社セルファイバのさらなる飛躍を応援したい。
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