Interview

「AgICの技術は、既存の生産プロセスを根底から変える、世界で勝てる基礎技術なんです」AgIC株式会社 代表取締役社長 清水信哉さん

text by : 編集部
photo   : 編集部、AgIC株式会社

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「印刷するだけで電子回路が作れる」
一般の人にも直感的にわかりやすい、このAgIC(エージック)の導電性銀ナノ粒子インク技術は、2014年に登場すると瞬く間にアメリカのクラウドファンディング大手「Kickstarter」で800万円の資金を集め、その後も名だたるカンファレンスで評価された。とある論文がきっかけとなったこの革新的技術の現在と未来について、CEOの清水さんに話を聞いた。


■プリント基板の製造プロセスを根底から変える


―元々、この銀ナノ粒子を使った技術は、技術顧問をされている川原さんの論文がきっかけと伺ったのですが。

僕が東京大学の電気科在籍時に、准教授をされていた川原先生が導線インクを使ったプリント基板の試作といういわば、3Dプリンタの電子回路版というものを提唱していまして、これは面白い、一緒に事業としてやりませんか?と声をかけました。

当時2014年頃は3Dプリンタが注目されていて、でも3Dプリンタの場合、材料が樹脂に限定される。もし電子回路で同じような事が出来るのなら、色々と可能性を感じるなーと思ったんです。

 

―大学や研究室で生まれた技術を事業化する、大学発ベンチャーで時折聞くケースですね。

そうですね、ただ東大の技術をそのまま使う場合技術ライセンスとかそういった話も出ますが、厳密にいえば川原先生の研究に着想を得た技術なので、独占ライセンスを受けたりはしていません。そういう点でちょっと独特なのかもしれないですね。

 

―この「印刷するだけで電子回路が作れる」技術、最大のポイントを教えてください。

一言でいうと、プリント基板の製造プロセスを根底から覆すものです。

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※資料提供:AgIC

従来の方法では、プリント基板や電子部品、半導体はフォトリソグラフィーという手法で作られます。
全面に感光性の物質を塗り、次に不要な箇所を露光して溶かすか削る、簡単に言うとこういった工程を経て生成されます。
一方、僕らの技術は何もないところに必要な箇所だけ印刷することで、パターン形成をする。

 

―プロセスが簡略化されているので、生産スピードが相当変わりますね

それ以外にもコスト面で大きく利点があります。
単純に、一度全面に貼って不要な部分を取り除くよりも、最初から必要な箇所だけに印刷すれば材料が少なく済みますし、工程が少ない分だけ露光するための材料や設備、削るためのプロセスが要らなくなります。

 

ー清水さんは元々起業家志向だったんですか?

そうですね、前職のマッキンゼー在籍時にアメリカのボストンに住んでいたのですが、周囲でスタートアップを立ち上げる人が多く、刺激を受けて自分でも何かやりたいと思っていました。その頃から「自分でやるなら、なにか技術を活用したものを」とは考えていました。

 

―そのお話、国内からスタートではなくKickstarterでクラウドファンディングを始動させるところに繋がってそうですね。

もちろんアメリカの風土・気運という点に影響を受けたのもありますが、当時はKickstarterが流行っていて、純粋にいいプラットフォームだなと思ったんです。日本にもいくつかクラウドファンディングが立ち上がっていましたが、プラットフォーム自体の訪問者数が調達額に影響するという考えに基づいてベストな選択をしたという経緯です。

 

―川原先生の論文にインスパイアされ、事業化して3年ほど経ちました。当時描いてたイメージと比べてギャップはありましたか?

事業展開する中で、相当変わっていきましたね。
最初は、導電性インクを使ったプリント機器そのものを、企業や工場に出荷して「導入すれば、自社でとても早くプリント基板を製造できます」というビジネスを展開する。これでいける!と思っていました。

当時、似たような発想のベンチャーもアメリカに3~4社ありましたが、結果的にその手法で事業を続けられた会社は、僕たちを含めて1社もいなかったですね

 

―うまくいかない理由って何だったんですか??

欲しいレベルの性能が出せない。これに尽きます。
出荷する機器は「高精度であること」、「電気の流れやすさ」、「耐久性と安定稼働性」
この3つをクリアしなければ産業用として使えません。当時この品質担保が凄く難しかった。

ですから、途中からは機械を丸ごと出荷という手法をやめて、社内で前述の3点をクリアできる機械を製造し、社内で製造したプリント基板を顧客に納品するスタイルに変えました。

 


■軽量化・省スペース化が求められる成長市場


―今後、この技術をどのように展開するのかお聞きしたいです

今は、かなり産業応用にフォーカスして動いています。
フレキシブルプリント基板を必要とする産業は凄く広範囲で、自動車産業、製造機械、工場機械、ファクトリーオートメーション、さらに最近はフィルムアンテナを使うスマートフォン端末やSuicaなど、挙げればキリがない。

 

―具体的に、どの市場に展開できると思いますか?
いわゆる【材料イノベーション】分野、ナノテクの活用で既存プロセスを置き換えるものだと思うのですが

そうですね、【フレキシブルデバイス・有機エレクトロニクス】がまず当てはまります。
フレキシブルデバイスは、まさに印刷で作ったこういう状態のものを曲げたりできますから。

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インクジェット印刷されたフレキシブル回路

先ほど言った通り、プリント基板を使う産業は全て展開可能な市場ですが・・・
結局「軽量化」と「省スペース化」がプリント基板に求められるところは特に有望だと思います。
モビリティでいえば【超小型/パーソナルモビリティ】とか。

 

僕らの技術は軽量化にもメリットがあるので、「1グラム軽量化すること」の価値が大きい市場は相性いいと思います。逆に発電システムとか、施設自体が大きい産業ではあまり軽量化自体価値が大きくないのかなと。

本当は【家電ワイヤレス給電】も興味あるんですが、特許権利が難しいかもしれないですね。

 


■投資家向けの説明と社員向けの説明を統一することで、ビジョンを共有


―清水さんも川原さんも、創業メンバーは全員東大にゆかりのある方ですが、社員は全員東大出身ですか?

いま総勢9名で、東大出身はそのうち半分くらいですね。
あとは東工大とか、大手メーカー出身の方とか様々です。

 

ただ、年齢幅は狭くて一番上と一番下の社員で4歳差しかありません。
元々出入りしてたコミュニティというか、そこで知り合った人なので自然と年代が近いんでしょうね。

 

―知り合った人で、入社する人とそうでない人の違いはどこにあるんでしょう?

重視しているのは、スキルや経験もありますが「メンタリティ」ですね。
スタートアップって、軌道に乗るまでは役割がころころ変わりますから、スキル面を重視しても、「この人はこの技術しかできない」だと苦しくなる。
それよりは、柔軟で意欲的なメンタリティがあるか?を自然と見ている気がします。

 

―会社に入ってほしい人や、入った後の社員の方にはどんな話をされるんですか?

僕の場合、投資家向けの説明資料とほぼ同様のものを使います。
エンジニアだから技術面を強調した話を、とかやらずにとにかく全部説明する。
市場のトレンドや規模感、そこに対するうちの強みやポジショニング、どういった競合がいるか、そこにはどうして勝てるのか?もしうまくいけばこれくらいの規模の事業になるとか、そういった話を。

 

―網羅的ですね

ええ、その説明を聞いて、自分で理解して判断できるレベルの人がいいと思っています。
結局、投資家がお金を投資するのと、社員が自分の時間や人生をこの会社でコミットするのは、関わり方が違うだけで「事業へのコミット」ですから、結果的にはビジョンや可能性を理解してもらいつつ、全員が抱くイメージも近くなります。

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オンデマンドサービスでは短納期・低コストで製造できるため、特に試作用途において好評とのこと

 


■大企業にいたけど、肌が合わないと感じる気質の人


―先ほど、大手メーカーに在籍した人もいるとおっしゃってましたが

メーカー出身者は多いですね、カメラメーカー、電機、半導体。プリント基板が必要不可欠な分野ばかりです。

 

―大企業からベンチャーに転身、というと興味はあるけど腰が重くなったりしませんか?

うちの社員の場合、大企業に入社後2~3年で辞めている人が多いです。
僕自身も、マッキンゼーを辞めての起業ですし、意外と自分の肌に合わなくて3年くらいで辞める人は多いんで、そういう気質の人を狙っていたのはあります。

 

―なるほど、経歴上大企業にいたけど、実はベンチャー気質。

そうです、最近うちの会社に限らずそういう人が増えていると感じます。
僕が在籍していた東大の電気科も、一昔前は卒業後大手メーカーに就職して何10年勤務、が多かったですが、大手メーカーへの不信感とか、昔よりベンチャーという存在が身近になってきたり、そういった変化がある気がします。

 

―今後も社員は増やす予定ですか?

はい、実は10名前後までは、人の繋がりのみで採用しようと決めていたんです。
ただ、今年の夏以降は少し事業展開スピードを上げようと思ってますので。
いまはプリント基板の製造・生産はどんどん中国に市場が取られていて、国内での就労ポストがおそらく減っている状況です、これは人を採用する上では逆にチャンスだと思います。

 


■日本拠点で地産地消、だから世界で勝てる


―アメリカのクラウドファンディングでスタートし、いまは日本に拠点を置いてます、海外と日本の違いは感じますか?

海外はとにかく早いですよね。良さそうだなと思ったら、まずは試しに使ってみようとお声がかかる。
日本は、どうしても使う前にいろいろ気にする。導入リスクに対しての事前質問が多いです。

とはいえ、海外からの注文って現状は意欲的に受けていなくて、今は日本国内にフォーカスしています。
それは販売・市場面だけでなく、生産においても量産体制の構築を日本拠点でやる予定なので、いわば地産地消ですね。

 

―海外に比べて日本は遅い、それでも日本拠点で国内にフォーカスする理由は?

生産面では、海外で安く生産するとしても輸送する分の時間とお金が掛かりますし、そもそも製造プロセスが少ない技術なので、海外で生産してもコストダウンメリットが少ないんです。
販売面においても、北米の企業に納品するとして、輸送分で逆にコストが膨らんでしまうし、製造時に短縮したリードタイムも相殺されてしまう。
地産地消のほうがメリット大きいんですよ。

 

―でも、海外展開は市場として魅力的ですよね。

もちろん考えていないわけではないです。

但し日本の市場を獲ってから海外展開でいいと思っています。
冒頭でお伝えした通り、僕らの技術は独占的なものではない。
となれば、いつか必ずコモディティ化(価値の同質化)します。

絶対にいつか国内の大手企業や海外企業とコスト競争・品質競争をすることになるんです。
ただ、製造プロセス自体が根底から違うので、勝てると思っています。

むしろ、コモディティ化されていくことは大きなチャンスだと考えています。
それは僕らの製造技術を「一度使って、良さをわかってもらえたら、一気に置き換わる」
日本で必要とされるもの、価値を認めてもらったものは、アメリカでもアジアでもヨーロッパでも、世界中で必要とされるんです。

 

―日本の大手企業に導入されれば、海外が見えてくる。

そうです。
仮に国内の大手自動車メーカーが立て続けにうちのプリント基板技術を導入したとしますよね、
すると、その自動車メーカーとグローバル市場で戦うアメリカやドイツの大手自動車メーカーもうちのプリント基板技術に注目し検討することになる。

 

―自然と国境を越えていく。

自分たちがやっている事業は、技術で勝つタイプの市場なんだと思います。
営業拠点を海外に置く、といった戦略とかではなく。

技術で勝てるなら、日本でまずグローバル市場を見据えた国内企業に導入して頂き実績を作る。これは日本がはるか昔から、基礎技術などで世界に勝ってきたパターンです。
僕たちの事業が大きくなっていくことは、「優れた日本の技術は今でも世界を獲れる」という事の証明にもなると思います。

 


清水信哉 AgIC株式会社 代表取締役社長
2012年に東京大学大学院情報理工学研究科で工学修士取得、その後マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、主に製造業のコンサルティングにあたる。高校2年生時に4bit CPUの設計をするなど回路設計歴は長い。大学では大規模自然言語処理の研究を行いつつ、電気自動車製造サークルを創設し、機械設計・製造にもあたる。2014年1月にAgIC株式会社共同創業、代表取締役社長就任。社内では経営に加え、設計、調達、生産技術なども担当。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)

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